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103.それでも朝は来る。

Penulis: 朝比奈未涼
last update Tanggal publikasi: 2026-05-15 10:40:15

side柚子

一睡もできなかった。

私は布団の中で、ただただ天井を見上げていた。

それもバッキバキの目で。

ここは施設内の宿泊部屋。

この部屋の畳の上に、私たち生徒は布団を敷き、十人ほどで一緒に寝ていた。

その十人の誰のスマホからも、まだアラームは鳴っていない。

障子の向こうの空は、おそらく明るくなり出した頃で、あと1時間もすれば起床時間になるだろう。

今日の予定のことも考え、少しでも寝なければならないということは十分にわかっている。

そうしなければ、体力が持たない。

だからこそ、私は就寝時間から何度も何度も寝ようと、まぶたを閉じた。

しかしまぶたを閉じるたびに、星空の下で、涙を流しながら、こちらに微笑む悠里くんの姿が浮かんでしまうのだ。

それもあまりにも鮮明に。

昨日のあの場面が頭の中で繰り返され、結局私は今まで一睡もできずにいた。

私は昨日、何よりも大切な存在、推しと別れた。

私は推しである悠里くんに、恋心ではなく、憧れを抱いていた。悠里くんと同じではなかった。

それでも悠里くんと共にいられた時間は幸せで、楽しくて、キラキラと光で溢れた、かけがえのない、手放し難いものだった。

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  • 推しに告白(嘘)されまして。   103.それでも朝は来る。

    side柚子一睡もできなかった。私は布団の中で、ただただ天井を見上げていた。それもバッキバキの目で。ここは施設内の宿泊部屋。この部屋の畳の上に、私たち生徒は布団を敷き、十人ほどで一緒に寝ていた。その十人の誰のスマホからも、まだアラームは鳴っていない。障子の向こうの空は、おそらく明るくなり出した頃で、あと1時間もすれば起床時間になるだろう。今日の予定のことも考え、少しでも寝なければならないということは十分にわかっている。そうしなければ、体力が持たない。だからこそ、私は就寝時間から何度も何度も寝ようと、まぶたを閉じた。しかしまぶたを閉じるたびに、星空の下で、涙を流しながら、こちらに微笑む悠里くんの姿が浮かんでしまうのだ。それもあまりにも鮮明に。昨日のあの場面が頭の中で繰り返され、結局私は今まで一睡もできずにいた。私は昨日、何よりも大切な存在、推しと別れた。私は推しである悠里くんに、恋心ではなく、憧れを抱いていた。悠里くんと同じではなかった。それでも悠里くんと共にいられた時間は幸せで、楽しくて、キラキラと光で溢れた、かけがえのない、手放し難いものだった。悠里くんと別れることを望んだのは、私だ。悠里くんと同じ想いを抱けない私と付き合っていても、悠里くんが傷つき続けるだけだから。実際、傷つき、苦しそうに、辛そうにしている悠里くんを、私は何度も見てきたし、その姿に胸が痛んだ。私も耐えられなかったのだ。このまま何事もないように悠里くんの隣に居続けることに。ーーーーだから、別れを受け入れた。悠里くんに別れを告げられて、胸がギュッと締め付けられた。以前、私が悠里くんに別れを告げた時も、悠里くんの胸はこんな感じだったのだろうか、と思う。それから最後に、悠里くんとキスをした。何度か唇を重ねたことはあったが、昨日のキスは、唇と唇が触れただけなのに、甘くって、切なくって、苦しかった。私に別れを告げた後も、私とキスをした後も、悠里くんはやっぱり辛そうだった。だが、それでも瞳の奥にはもうあの仄暗さはなく、少しホッとした。胸に悠里くんと別れた喪失感が残る。けれども、悠里くんの未来に明るい兆しを感じ、安心もしていた。都会とは違う、星空の下。どの星よりも光輝く私の推しが笑っている。心からの笑顔ではないけれど、いつかそれは本当の笑顔になる

  • 推しに告白(嘘)されまして。   102.言えなかった言葉。side悠里

    「私、悠里くんのことが本当にずっと好きだったの。憧れと恋の違いもわからなくて、本気でそうだと思ってた」今にも泣き出しそうな声で、柚子が言葉を紡ぐ。「だけど、今は違うってわかってて、別れるべきだってわかってて…。でも悠里くんが、それでもいい、て言ってくれたから、その優しさに甘えて、悠里くんの側にいることを私が選んだの。ダメだとわかっていたのに」伏せられた柚子のまつ毛の隙間から、キラキラと光るものが見える。柚子はその愛らしい瞳に、涙をいっぱい溜め、辛そうに続けた。「でもやっぱり、傷ついている悠里くんは見たくないな。傷ついてもいいって言われても無理だよ」伏せられていた視線が上げられ、柚子の頬に涙が流れる。弱々しかった声とは裏腹に、俺をまっすぐと見つめるその瞳には、柚子らしい強さを感じた。「別れたくなかったのは私も同じ。だけど、このままじゃ、悠里くんは心から笑えないね」つい先ほどまで消えてしまいそうだった柚子の声に、力が入っていく。俺を強く射抜く瞳に、俺はドクンッと鼓動を鳴らした。俺の好きな意志の強い瞳。優しいだけじゃない、確かな強さがある人。それが鉄崎柚子なのだ。柚子が俺に何を言い出そうとしているのか、俺はこの時点で、もう何となくわかっていた。おそらく柚子は俺に別れを切り出そうとしている。またあの言葉を聞くのか、と思うと心が沈む。できることなら、もう一生聞きたくないとさえ思える。けれど、このまま一緒であることを選び続ければ、俺だけじゃなくて、柚子も傷つくことになる。俺だけが傷ついて、それでも幸せを感じられるのはいいが、柚子が傷つくことは嫌だ。柚子には傷なんかとは無縁に、ずっと笑っていて欲しい。きっとこの望みを叶えられるのは、俺じゃない。一度視線を伏せ、ゆっくりと深呼吸する。自然の中の優しい空気は、俺を不思議と落ち着かせた。これ以上、柚子に辛い役回りをさせるわけにはいかない。「あのね、悠里くん…」「待って、柚子」今、まさに別れを切り出そうとした柚子の言葉を、俺は優しく止める。「俺から言わせて」それから伺うように、柚子の瞳を覗いた。柚子は俺の言葉に一瞬傷ついたような表情を浮かべて、静かに頷いた。柚子もちゃんと、俺が何を言いたいのか、わかっているのだ。「言いにくいことを何度も言わせてごめん」声がかすかに震える。

  • 推しに告白(嘘)されまして。   101.幸せのかたち。side悠里

    side悠里自分が柚子に対して、ひどいことをしていることはわかっている。柚子を苦しめていることも。それでも、俺は柚子を手放せない。食器を片付けていた柚子と別れた後、俺は施設内にあるお風呂に入った。そして、そこでゆっくりした後、自分たちの部屋へ戻るために、今は廊下を1人で歩いていた。何をしていても、俺の頭の中に柚子の姿が浮かぶ。食器棚を背に、こちらを潤んだ瞳で見上げる柚子。まるでりんごのように頬を赤く染めるその色は、俺への恋心で染められたものではない。単純に憧れの相手に迫られてそうなっているものだ。そうわかっているはずなのに、その赤に胸がどうしても高鳴る。柚子は自分の感情をもうきちんと理解していた。完全にわかった上で、何も知らなかった頃と変わらない反応をし、その後に苦しそうに一度俺から視線を逸らす。以前までなかったその仕草に、俺の胸の奥で、仄暗い感情が静かに蠢いた。何で俺から視線を逸らすの。逸らさないで。俺を見て。この地獄を選んだのは俺なのだから。わかってる。わかっているんだ。例え俺が選んだ道でも、柚子なら自分が悪いと自分を責める性格だと。柚子はきっと思っているのだろう。同じ気持ちを返せない自分に、俺がずっと傷ついている、と。間違いではない、だが、正解でもない。確かに俺は傷ついている。俺と同じではないキラキラとした瞳を向けられるたびに、胸がズキズキと痛む。俺と同じ想いのこもった瞳を華守に向けるたびに、その瞳を覆いたくなる。だが、傷つくと同時に、それでも柚子が俺と一緒にいることを選び、彼女でいてくれる事実に、嬉しくてたまらなくなるのだ。傷つきながらも、柚子と一緒だからこそ、幸せを感じられる。これが俺の選んだ幸せの形だ。ふと、足を止め、窓の外に視線を向ける。ここにはこの施設以外光源がない為、星がいつにも増して光輝いて見えた。…綺麗だな。そう思った時には、俺は外へと足を運んでいた。*****もうすぐ4月だが、日の沈んだ夜はまだまだ肌寒い。ひんやりとした空気を感じながら、俺はただぼんやりと空を見上げていた。その時だった。「悠里くん?」俺の後ろから、鈴の音を転がすような心地の良い声が、俺を呼んだ。ーーー柚子だ。聞こえてきた愛おしい声に、自然と体温が上がる。ゆっくりと声の方へと振り向くと、そこには

  • 推しに告白(嘘)されまして。   100.アナタだけを見れたら。

    夕食後、私はみんなが洗ってくれた食器を大きな食器棚に一枚ずつ返していた。同じ食器のところに同じ食器を片付ける。しかしただそれを淡々と繰り返していた私の手は、最後の一枚で止まってしまった。…高い。私が下から睨む場所。最後の一枚を片付ける場所だけ、私が手を伸ばしたさらに先にあったのだ。誰が一体あんな場所から皿を取ったのか。呆れながらも仕方なくつま先を立て、食器棚に体重を預けるように左手を置く。それから最後の一枚を片付けようと、右腕を思いっきり上へと伸ばした。わずかに震える手の先には、確かにこの皿を片付ける場所があるのだが、届きそうで届かない。さすがに頑張っても無理だと諦め、手を引こうとしたーーーその時。私の背後からスッと影が伸び、その影の主が私の手から皿を取った。そしていとも簡単にその皿を片付けた。背中に感じるほんのりと熱を持ったしっかりとした体に、私よりもずっと高い身長。ほんのわずかに見えた大きな手に、ふわりと鼻をかすめる、爽やかな香り。…悠里くんだ。そう気づいた瞬間、私の体温は一気に跳ね上がった。「ゆ、悠里くん?」おずおずと影の主の名前を呼び、ゆっくりと振り返る。するとそこには、予想通り悠里くんが立っていた。至近距離で私と目の合った悠里くんが、その瞳を優しく細める。「あ、ありがとう、悠里くん」そんな悠里くんになんとか平静を装って、笑顔でお礼を口にすると、悠里くんは「いえいえ」といつも通り柔らかく私に微笑んだ。すぐそこにいる推しという存在が、私の心臓を忙しなくさせる。この距離の近さなら、おかしくなった鼓動の音が悠里くんにも聞こえてしまいそうだ。そう思うと気が気ではない。このままではいけない、と落ち着くためにも、一度視線を伏せ、ゆっくりと深呼吸をしていると、その声は聞こえてきた。「困ったときはいつでも頼って?俺は柚子の彼氏なんだから」聞こえてきた声に、私はまた視線を上げる。優しい言葉に、柔らかい瞳。いつもと同じはずなのに、その瞳の奥はやはりどこか仄暗い。本当に時折、悠里くんはこんな目で私を見る。どこか苦しそうなその目の原因を、私は薄々わかっていた。悠里くんは、私が自分と同じ気持ちを抱いていないことを、知っている。それでも、私と付き合い続けることを選んでくれた。傷つきながらも私と一緒にいたい、と。違う好き

  • 推しに告白(嘘)されまして。   99.心臓が痛い。

    な、何で水を飲んでいるだけなのに、こんなにも色気があるんだ。ドキドキしながらも、千晴に水を半分飲ませたところで、一度、コップを千晴から離す。水で光る形の良い唇に、私の心臓はまたドクンッと大きく跳ねた。あの唇に、私、キスされたんだよね…。…て、ダメだ!ダメだ!頭の中を一瞬支配した煩悩に、私は両目をギュッと閉じ、首を横に振る。私は悠里くんの彼女!彼氏の隣で何考えているんだ!私!千晴はただの後輩だ!ダァンッ!と勢いよく千晴のおぼんにコップを置き、深呼吸をする。それから「…全く、本当に手のかかる」と迷惑そうに吐き出すと、スプーンを再び手に取った。私はただ、手のかかる後輩に水を飲ましていただけだ。そこに何か特別な感情があるわけではない。自分にそう言い聞かせながら、やっとスプーンにすくわれていたカレーを口へと運ぶ。広がる味は馴染みのあるもので、普通に美味しい。バクバクとうるさく鳴っていた心臓も、カレーを咀嚼するごとに、少しずつ落ち着きを取り戻していった。するとそんな私に、今度は左隣から悠里くんが「柚子」と声をかけてきた。なので、私は一旦カレーを食べる手を止めて、「ん?」と悠里くんの方へ視線を向けた。「俺の班と柚子の班、ちょっとカレーの見た目違うよね?柚子のカレーも食べてみたいな。食べさせてくれる?」ふわりと笑い、伺うように悠里くんが私を見る。悠里くんの指摘に視線を落とすと、確かに私と悠里くんのカレーはほんの少しだけ見た目が違った。ルーの色は私の班の方が少し淡い茶色で、野菜もお肉も小さめなのだ。少しだけ違う見た目に、私も悠里くんと同じ興味を抱いた。「どうぞ、どうぞ。味の感想も聞かせてね」私は快く頷いて、悠里くんがカレーを食べやすいように、おぼんの左端へお皿を寄せた。そんな私に悠里くんは「ありがとう」と微笑むと、視線を伏せて、遠慮がちに口を小さく開けた。…え。突然の悠里くんの行動に私は思わず固まってしまう。伏せられた視線はどこか儚げで、それでいて色気があり、開けられた口から見える舌や歯は、普段まじまじと見るところではないので、どうしてもドギマギしてしまった。こ、この、悠里くんの行動は一体…。意味がわからずに何度もまばたきをしていると、恥ずかしそうに悠里くんは視線を上げた。「食べさせてくれないの…?」頬を赤く染め、こち

  • 推しに告白(嘘)されまして。   98.柚子争奪戦。

    すっかり暗くなり、星が瞬き出した頃。カレーを完成させた生徒たちは、調理室のすぐ隣にある食堂で、それを美味しそうに食べていた。ここの食堂には、何百人もの人が一斉に使えるだけの長机と椅子がずらりと並べられている。そこで私は1人で夕食を食べていた。私の周りにはまるで私を避けるように誰も座っていない。本当は雪乃と一緒に食べる予定だったが、同じくここで合宿をしていた他校のイケメンといい感じになったらしく、攻め時ということで、雪乃はそのイケメンと夕食を共にしていた。まあ、よくあることなので、あまり気にならないし、雪乃らしくて、逆に安心するが。一生懸命水の量を測り、カレールーを割り入れ、調理器具を洗った…一応私も調理に参加した目の前のカレーを、私はじっと見つめる。うちの班の手伝いをする、とこちらに来た千晴は、驚くことに本当によく動いていた。私が水を測っている時は、先のことを考え、鍋を用意し、すぐに入れられるようにしてくれていたし、カレールーを入れる時も、入れるタイミングを私に教えて、混ぜる作業は千晴がしてくれた。洗い物の時も積極的に手伝ってくれ、千晴のおかげでかなり手際よく作業を進められた。時々暇を持て余し、私の髪や手で遊んでみたり、変に私に甘えてきて困ったりもしたが、それでも千晴はよく働いてくれていた。意外だった千晴のことを考えながらも、おぼんにちょこんと置かれたスプーンに手を伸ばした、その時。私の右隣に自然な流れで、千晴が座ってきた。コトンッと机に置かれたおぼんの上には、もちろんカレーがある。千晴が食べるカレーは私と一緒に作ったカレーだ。千晴だ…と、右隣に気を取られていると、左隣からもコトンッとおぼんの置かれた音がした。一体、誰だろう、と千晴から今度は左隣へと視線を移す。するとそこには悠里くんが座っていた。私と目が合い、悠里くんが優しく微笑む。悠里くんだ…。え。悠里くんに一度ぎこちなく微笑み、今度は前を向く。そして私は両隣に感じる気配に、ぐるぐると思考を巡らせた。右隣に異性として好きだと思っている千晴がいる。左隣に推しとして好きだと思っている悠里くんがいる。え、修羅場じゃん。しかもこの二人相性最悪じゃん。悠里くん、私、千晴。突然、始まってしまった非常に気まずい夕食に、私は冷や汗を浮かべた。「先輩」そんな私に千晴が淡

  • 推しに告白(嘘)されまして。   63.贈り物。

    side柚子12月26日。千晴の家での住み込みバイトを終えた、次の日のこと。私は今、ウィンターカップ会場の前にいた。昨日は朝から千晴のお父さんの最低な場面に遭遇し、最悪な気分で一日が始まったが、その後はとても穏やかで、千晴と楽しい一日を過ごした。そして、その穏やかな時間の中で、私たちは12月25日ということもあり、クリスマスパーティーもした。*****私と千晴、たった2人だけのクリスマスパーティーの会場は、広すぎる千晴の部屋だった。私たちは大きなソファに腰掛け、テーブルいっぱいに並べられた豪華な食事を楽しみながら、クリスマスのコメディ映画を一緒に観た。そして、食事も終盤、デ

  • 推しに告白(嘘)されまして。   62.眩しい光。side千晴。

    女に手を引かれて逃げた先は、すぐ目の前に交番のある公園だった。日がすっかり落ちた公園内には、当然誰もいない。交番の光と、街灯の灯り、それから月明かり。光源はたったそれだけだったが、ここはネオン街よりもずっと明るく見えた。「ここまで来れば大丈夫でしょ…」大きく肩で息をする女を俺は一瞥する。女は交番に視線を向け、「こんなところで大乱闘にはならないはず」と汗を拭いながら頷いていた。それから俺たちはその辺のベンチに腰を下ろした。「で、さっきの人たちの話は本当なの?」俺の隣にいる女がこちらに厳しい目を向ける。確かにあの男たちが言っていたことは本当なのだろう。覚えがありすぎて、一体

  • 推しに告白(嘘)されまして。   60.扉の向こう。

    煌びやかで上品な異世界の上流パーティーに紛れ込んだ次の日の朝。私は千晴の部屋の隣に用意された、とんでもなく広い部屋で、一晩を過ごし、身支度をしていた。いつの間にか用意されていた昨日も着たクラシックな落ち着きのあるメイド服に袖を通し、改めて鏡で身なりの最終確認をする。きちんとした白と黒のメイド服に身を包む私は、いつもより、上品でしっかりとした印象を与える。見た目だけならいいとこのお屋敷の由緒正しいメイドさんだ。「よし」小さくそう言って気合を入れると、私の雇い主である、千晴の部屋へと行く為に、ドアノブに手をかけた。「あれは優秀だ。好きにさせておけ」それと同時に聞き覚えのある、厳格

  • 推しに告白(嘘)されまして。   59.ご両親、登場。

    疲れた…。何度も何度も繰り返される挨拶地獄に、私は1人放心していた。この上品で煌びやかな世界は、私には非常に合わなさすぎる。無理やり上げていた口角が痛い。明日は確実に筋肉痛だ。「柚子、はい」今にも魂が抜け出してしまいそうな私に、千晴が水の入ったグラスを渡す。…一体、いつの間に。千晴は私から片時も離れず、私以上にたくさんのいかにも凄そうな方たちの対応をしていた。そんな千晴が一体いつ、水入りグラスを用意してくれたのだろうか。私の疑問の視線に気づいたのか、千晴は柔らかくその瞳を細めた。「そこのウェイターから貰ったんだよ」「…え」千晴に言われて、その視線の先を辿れば、確かに

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