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第92話:新しい日常③

Author: 花柳響
last update Last Updated: 2026-01-12 22:31:58

「……私が貸すよ! バイト代入ったばっかりだし、ユニクロとかでとりあえず揃えれば……!」

「栞にヒモ生活させるわけにはいかないよ」

 彼は優しく首を横に振った。

「大丈夫。……こういう時のために、隠し口座を作っておいたから」

「え、隠し口座?」

「父さんにバレないように、コツコツ貯めてたんだ。……まあ、高校時代の小遣いの残りとか、コンクールの賞金とかだけど」

 彼は悪戯っぽくウィンクする。

 さすが、用意周到だ。ただの無鉄砲な家出息子じゃなかった。

「スマホは……契約を切られてるかもしれないけど、Wi-Fiがあればなんとかなるし。とりあえず、今日はこれで大学へ行って、帰りに服を買うよ」

「えっ、その格好で!?」

「冗談だよ。……昨日のスーツ、アイロンをかければなんとかなるかな」

 彼は立ち上がり、干してあったスーツを手に取った。

 最高級の生地で仕立てられたスーツは、雨に打たれて無惨な姿になっている。けれど、彼はそれを愛おしそうに見つめた。

「これが、今の俺の全財産か」

「……輝くん」

「でも、不思議と不安はないな。……栞がいるからかな」

 彼は振り返り、私に向かって最高の笑顔を見せた。

 その笑顔は、窓の外の朝日よりも眩しくて、私の胸をいっぱいに満たした。

 こうして、私たちの波乱含みの同棲生活が幕を開けた。

 御曹司と庶民。

 価値観も、生活水準も、何もかもが違う二人。

 でも、狭い部屋で肩を寄せ合い、同じ朝ごはんを食べる幸せは、何物にも代えがたいものだった。

 ただ、一つだけ誤算があったとすれば。

 彼が「庶民の暮らし」に対して、驚くべき順応性と、そして少しばかり天然な勘違いを発揮し始めることだった。

 身支度一つとっても、この部屋は二人で住むようには設計されていなかった。

 特に、朝の忙しい時間帯における洗面所戦争は深刻だ。

「……狭い」

「ごめんね、一人用だから……」

 私が鏡の前で歯を磨いていると、背後から輝くんがのっそりと現れた。

 彼は私の肩越しに鏡を覗き込もうとするが、当然ながらスペースがない。私の安アパートの洗面台は、ドライヤーを置いたらコップすら置けなくなるほどの省スペース設計なのだ。

「いいや、工夫次第だ」

 輝くんはニヤリと笑うと、私の背中にぴたりと体を密着させてきた。

 そして、私の右脇の下から腕を通し、自分の歯ブラシを掴む。

「こうす
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