تسجيل الدخول時は九月半ばとなった。まだ暑さは残しつつも少しずつ日は短くなっていく季節である。そして影光が初めて
さて物語の舞台である『町食堂 かがやき』だが、フレイヤとリリスは色々検討したものの、やはり一時休業という形になった。
しかし、それは最初の想定とは大幅に変わっていたのである。
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大規模な改築工事の真っ最中である『町食堂 かがやき』。その前で、職人たちの作業を眺めているリリスとサイラスだが…二人はそれぞれ感慨深く口を開いた。
「…まさか、こんなことになるとはなあ…」
「
――ことの発端は、『町食堂 かがやき』の一時休業を決めたあの日。フレイヤの招待状を使い、影光が
影光は
冥帝鰹とは…!?本来ならば暖かな表層海域を高速で回遊する鰹という魚だが、稀に常識を超えて深く、冷たい深海へ潜る個体がいる。通常の鰹ならば、そこで体温と体力を奪われ、長くは生きられない。しかし、その中でもさらに稀に、深海の冷気と圧力に耐え生き延びる…いや『生き延びてしまう』鰹がいるという。その鰹は『冥鰹』と呼ばれ、深海の生物を食い荒らしながらもいずれ寿命を迎えるが…。稀にしか存在しないその冥鰹の中にも、稀に、極めて稀に数十年から数百年の時を生きるものがいるとされる。その鰹は『この世で最高の美味』と言われるが、その皮膚は包丁はおろか鉄砲、ライフルの弾さえもはじき返すという。その性格は極めて獰猛、時にはイルカやシャチ、ダイオウイカや鯨にさえも襲い掛かり、骨も残さず食らい尽くすとか。かつて古代に存在した海の帝王『メガロドン』や『アーケロン』、『モササウルス』。さらには神話にしか存在しなかったはずの『クラーケン』『リヴァイアサン』が滅びたのは、この鰹に食い荒らされてしまったからだという…。料理研究者はその鰹…千年に一匹いるかいないかのそれを、冥鰹の帝王…『冥帝鰹』と呼んだ!――――――――――「…うむ、これが私が知っている冥帝鰹の伝承だ」重い顔をしながら暗黒食王が冥帝鰹についてそう説明するが…。周囲は呆気に取られている。そんな魔物みたいな魚…いや生命体が存在するのか。いくらなんでも盛りすぎではないか。巨大鮫メガロドンや肉食亀アーケロンに海の覇者モササウルス、さらには伝説上の生物クラーケンや正体不明の神獣リヴァイアサンが、まさか鰹に敗れて絶滅してしまうとは…。というかそんな時代に鰹がいたのだろうか。はっきり言ってツッコミが追い付かない。ど
さあ、料理戦争札幌予選、ついに最終戦。最後の戦いは、G.O.D.総帥オーディンの長男『ロキ』対、闇食倶楽部総帥暗黒食王の長女『影羅』。おそらくは料理戦争参加者でもトップクラスの実力を持つ両者の激突。本当に予選でやっていいのかと思うほどの勝負である。さあ、舞台の上の調理場に立った二人が、相変わらず挑発合戦を行う。「俺が優勝すれば闇食倶楽部の支配権も手に入る。どのみち解散させるつもりだが、お前は継続して雇ってやる。その時は、ヤツメウナギの飼育係にでもしてやるよ」「あら、意外と楽しそうね。じゃあ私が優勝したらあなたは烏骨鶏の飼育係ね。一匹一匹に名前をつけさせてあげるわ。当然、シメるのもあなたがやるのよ」…なんというか、本当に精神的に責める陰湿かつ強烈な挑発である。耐えきれなくなった審査員たちが、最終決戦のテーマを発表する。最後の戦い、そのテーマは…ついに出た『海鮮丼』である!「でっ、でたああ!ついに!ついに海鮮丼だ!」「札幌名物にして日本人の心に訴える海鮮と米…たまらん!」「この二人でこのテーマとは!審査員!わかってるじゃねえか!」これを聞いたロキと影羅も、まるですでにテーマを分かっていたかのように動き出す。「フン、この札幌予選では味噌ラーメンもスープカレーもすでに出た。残る大物はジンギスカンか海鮮丼だけだ。手抜かりはねえ!」「その二つのうち、どちらが最後を飾るかといえば…。やはり料理人の腕や食材チョイスが味を大きく左右する海鮮丼。とっくに準備はできているわ!」さあ…宿命の対決、調理タイム開始!――――――――――さあ、開始宣言後すぐに動く対決者両名。影羅がまず米を洗い、炊飯器に入れる。そこに昆布を一枚入れ…右手で銃を撃つ仕草を取った。「本当は自然に浸水させたいけど、今回はそういう時間はないか
マキシマの豪快な悪党撃破が終わり、影光&フレイヤの料理『砂丘の月』が審査員の前に運ばれている。その間、のびているジャスティス仮面のマスクをマキシマが剥ぎ取る。そして、その顔を見て首をかしげながら言った。「あん?こいつ見たことあるな。確か、料理法違反で罰金食らってたやつじゃなかったか?」その発言に影光とフレイヤもジャスティス仮面の顔を覗き込む。それは彼ら二人にも見覚えのある顔であった。もっとも、どこで会ったのかは思い出せないが…。「どこかで見たことあるような…でも誰だっけ」「TVで見たことあるかも?ニュースとかで」…それがかつて『町食堂 かがやき』に来た原価厨のおじさんであることには一切気づかずに、二人も首をかしげていた。――――――――――さて、気を取り直して影光&フレイヤの料理…審査員、実食開始!審査員A曰く:「うう~ん、美味い!流れ込むようなさらさらスープ、スパイスの複雑な辛味に、鮭の濃厚な旨味がしっかりとマッチしている!そしてこの野菜も見事なこと!白眉はこの舞茸!食感もさることながら、カレースープと鮭の旨味をガッチリ吸収してアピールしているのだ!」審査員B曰く:「砂丘に浮かぶ月、とはよくいったものだ!じゃがいも、玉ねぎ、舞茸と、ともすれば彩りとしては地味な野菜だが…それが逆に月海鮭の身を美しく輝かせている!なるほど見渡す限り続く砂丘を美しく照らす月!ふふふ、なんともいいセンスだ!おっと、もちろん味も素晴らしい!」審査員C曰く:「かつて高級料亭に勤めていた私だが、実はスープカレーはあまり食べる機会がない。しかし、この料理は美味いな!米と合わせても良し!単品でも良し!見事だ!実に、実に美味い!」審査員D曰く:「ラーメンじゃないので0点」審査員、絶賛!Dはまあいつものことなので。もはや影光の本戦進出にケチをつける人間はどこにもいないだろう。これにより、晴れて影光は予選突破が決まったのである!
さあ、『叩き潰す』と決意表明した影光と、激昂してギャーギャー喚いているジャスティス仮面に、料理のテーマが告げられる。今回のテーマは…『スープカレー』!「おおっ、スープカレーか!ここ札幌が発祥とも言われているぞ!」「サラッとしたスープにゴロッとした具!くぅ~たまらん!」「影光がどんなスープカレーを作るのか楽しみだ!ジャスティス仮面の方は別に…」相変わらず何でも知っていそうな観客が詳しく説明してくれている。まあいつものことだ。テーマ発表後、影光とフレイヤは即座に動き出す。ここは札幌、スープカレーがテーマで出るかもしれないというのは二人とも想定しており、その際の動きはすでに決めていたのだ。まずフレイヤがじゃがいも、たまねぎ、舞茸などの野菜を切り始める。そして影光は…どこから取り出したのか、毎度お馴染みの幻食材『月海鮭』の切り身に塩を振り、焼きだした。幻だがお馴染みの食材である。これは、今朝のうちに闇食倶楽部が影光に渡していたものだ。いや、野菜やカレーのスパイスもすべて闇食倶楽部が持ち込んでいた。なんと彼らは本当に一日で東京から札幌まで食材を持ってきたのだ。ちなみに選ばれた者にしか切れないという謂れがある月海鮭だが、この勝負のために都内にいた父の暗黒食王がわざわざ切って用意したらしい。相変わらず子煩悩である。(鮭のスープカレーか。しかも月海鮭とは、なんとも贅沢だな。いや、野菜もスパイスも闇食倶楽部が用意した一級品だ。それをここまで自在に、楽しそうに操るとは…末恐ろしい十六歳たちだぜ。こりゃあ、もし俺が当たってても勝てなかっただろうな)影光たちを護るように仁王立ちするマキシマが、二人の調理を見て諦めたように笑う。そしてまだ地団駄を踏んでいるジャスティス仮面に振り返り…睨みながら呟いた。「麻酔針でもピストルでもICBMでもなんでも撃ってこいや
さあ、ついに札幌予選本戦出場を賭けて戦う四人が集う。それを確認して…審査員長である審査員Aがまた箱を持ってきた。「この中には、四枚の紙が入っている。それぞれ『A』『B』と書かれた紙が二枚ずつ。それを各々の選手が引いて…」「A同士、B同士が戦うってことか?くだらねえな、時間の無駄だ。…まあ、少しは乗ってやるけどよ」と、ロキが審査員Aの言葉を遮る。そしてそちらに歩み寄り…箱から一枚、紙を引き周囲に紙を見せる。…その紙には『B』と書かれていた。「Bか。これは、第二試合ってことか?」「う、うむ。Aが第一試合、Bが第二試合だ」「フン。さっさと終わらせて帰りたかったんだが。まあいい、前座の見物でもしてやるか」ロキと審査員Aがそんなやり取りをしている。次いで近くにいた影光が箱から紙を引こうと歩き向かうが…。ロキはそれを制止して、言い放った。「待て、小僧。お前らが引く必要はねえ。おい審査員長、今回だけでいい。対戦相手は俺に決めさせろ。主催者一族特権だ、文句は言わせねえぞ」「う、いや、それは…」何かを言いたげな審査員Aを無視して、ロキは『B』の紙を握り潰し、そしてそれをある人物に投げつけた。その相手は…やはり影羅だった。「俺の相手はお前だ。お前以外に俺の相手が務まる奴は、まだここには居ねえ。それに俺は、売られた喧嘩は全部買う主義だ…昔からな」そして影羅も、ロキが投げた紙を受け止めニヤリと笑う。「あら、先に喧嘩売ってきたのはそっちでしょ。昨日私に返り討ちにあったのが、そんなに悔しかったの?…でもまあ、もとより私もそのつもりよ。今度は泣きべそかかせてやるわ。子供みたいにね」ロキ対影羅。対立組織の長子同士の、この因縁の対決。観客も大盛り上がりである。「いいぞ!っていうか、それ以外にもう組み合わせはねえだろ!」
さて勝負が終わりホテルに帰った後、影光はロビーでフレイヤと作戦会議する。別のホテルに泊まっていた影羅も集まり、それに加わることになった。「次の相手がロキか、ジャスティス仮面だとして…。ロキは言わずもがな最強の敵だけど、ジャスティス仮面も不気味だ。マキシマさんを倒すなんて、並の腕じゃない」「でも、マキシマさんなんか動きが悪かったよ?影光と戦った時より、ずっと動きが鈍っていた。なんだか…重りでもつけられたみたいに」「私達みたいな超能力系必殺技かしら?だとしたら困ったものよね。正体がわからない以上は対策の練りようもないから」残ったのはロキ、影光&フレイヤ、影羅、ジャスティス仮面。このうち誰が誰と当たるかわからない。いっそロキがジャスティス仮面と当たり敗れれば痛快だろうが、まあ可能性は低いだろう。それはそれで面白そうだが…。ホテルのロビーで、さてどうしようかと三人が話していたところ…。そこに一人の男が近づいてきた。先ほどジャスティス仮面に敗れたマキシマである。影光が呼んでいたのだ。彼は、影光に手を振りながら気さくに話しかけてきた。「悪いな、影光。あんなやつに負けちまったよ。本当はお前にリベンジしたかったんだが」そう言いながらマキシマはロビーの椅子にどっかりと座り…何が起こったのか話し始める。――最初は、特に違和感もなかった。だが勝負を進めるにつれ、途端に体が重くなった。抗えない眠気が襲ってきたのだ。必死に睡魔と戦うも、料理勝負どころではなく…あまりにも不本意な仕上がりになってしまった。そこを、まがりなりにも料理を完成させたジャスティス仮面に敗れてしまったのだ――「なんで眠くなっちまったのかはわからねえ。今までそんなことはなかったし、前日だってしっかり睡眠はとってた。酒だって一滴も入っちゃいねえ」悔しそうにマキシマが言う。そこから推測されること…可能性は一つしかない。ジャスティス仮面が何らかの手段でマキシマに睡眠薬を盛ったのだ。「でも&h







