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第5話

Author: なのか
俺は痛々しく笑う。胸の奥に残っていた最後の迷いが、きれいに消えた。

なるほど。これが彼女の言う、これからは大事にする、というやつか。

運転手に病院まで運ばれ、一通り検査を受ける。幸い、外傷と内臓の軽いずれ程度で済んだ。

ベッドに横たわると、全身が痛むのに、心だけが妙に静かだ。

夜も更けたころ、亜美が疲れきった顔で病室に入ってくる。

俺が目を開けているのを見ると、一瞬だけ慌てた表情を浮かべる。

「哲也、どう?少しは楽になった?」

俺は冷たい目で彼女を見つめるだけで、何も答えない。

彼女は手をもじもじさせながら、落ち着かない様子で言い訳を始める。

「明人がちょっと驚きすぎてて、ずっとそばについてたの。それで……」

俺の視線に耐えきれず、彼女は気まずそうに口を閉ざす。

「哲也、聞いて。当時は本当に緊急で、明人がすぐそばにいて、反射的に……」

言葉を探すように間を置き、続ける。「あなたがはねられるなんて思わなかった」

俺はその言葉を遮る。「いつQ市に行くつもりだ」

彼女は慎重に答える。「明日出る」

「そうか。もう休む。帰ってくれ」

目を閉じ、そのまま話を終わらせる。

彼女はまだ何か言いたげだったが、結局は空気を読んで立ち去った。

翌日、養母がやって来る。

保温容器を手に、にこやかな笑顔を浮かべている。「哲也、亜美に頼まれて看病に来たのよ。具合はどう?」

「だいぶいい。ありがとう」

彼女はスープをよそいながら、あれこれと話し続ける。

「亜美ったら、そそっかしくてね。明人の面倒、ちゃんと見られるのかしら……」

言いかけて、何かに気づいたように口をつぐむ。

「亜美と結婚するのは、明人だ」

彼女は一瞬固まり、しばらくしてようやく言葉を返す。「え……何を言ってるの?」

「提出した婚姻届は、明人の名前で書いてある」

驚愕の表情が、やがて歓喜に変わる。

「哲也、なんていい子なの!やっぱりあなたが一番分かってる」

興奮した様子で俺の手を握る。「ありがとう。本当にありがとう。二人のことを思ってくれたのね」

俺は淡く笑うだけで、何も言わない。

思ってやったわけじゃない。自分のためにやっただけだ。

もともと彼女は明人を気に入っていた。

前の人生でどれだけ尽くしても、最期にはすべての遺産をあいつに渡した。

「このこと、まだ亜美と明人には言わないでほしい」

彼女は満面の笑みでうなずく。「分かってる、分かってるわ!

それで……これからどうするの?」

「数日したら、俺も出る」

行き先はあえて言わない。彼女はさらに聞きたそうだったが、頭の中はもうあの二人の結婚のことでいっぱいだ。

俺は目を閉じ、眠ったふりをする。

退院の日、誰にも知らせなかった。

出発前に、亜美へ一通の手紙を書く。

【亜美。この手紙を読むころ、俺は南へ向かう列車の中にいる。君がずっと明人を好きだったのは分かってる。だから二人を応援する。俺たちの縁はここまでだ。幸せになれ】

手紙とQ市行きの切符、そして婚姻届受理証明書を一緒に封筒に入れ、Q市の住所へ送る。

スーツケースを引き、俺はそのまま駅へ向かった。

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