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第6話

作者: みどり
真菫の体は、かすかにこわばった。

歓迎会?

また何か新しい手口を考えて、自分を辱めるつもりなのだろうか。

断ろうとしたが、和哉は困った顔で彼女を見ながら言った。

「もう仲間たちには、お前を連れて行くって約束しちゃったんだ。俺の恋人として、お前は顔を出さないわけにはいかないだろ」

真菫は彼の目を見つめ、一言一言、はっきりと言った。

「あなたは、本当に私に行ってほしいの?」

和哉は唇をきゅっと結び、少し迷った。

明日はもっと大勢の人がいる。そうなれば、真菫の名誉は完全に地に落ちるだろう。

喉が渇き、頷くべきかためらった。

その時、彼のスマホの画面がふと光った。

視界の端に、真菫はそれが綾音からのメッセージだと気づいた。

【約束通りにしてね。私の気が済むように。また考えを変えたりしないでよ。そうじゃなきゃ、もう二度と口をきいてあげないから】

【わかった】

和哉は返信した後、すぐに画面を消して真菫をきつく抱きしめた。

笑いながら彼女を説得しようとする。

「もちろん行ってほしいさ。俺にこんなに綺麗な恋人がいるって、みんなに知らしめたいんだ。

断らないでくれよ。だって今日の誕生日、お前は最後まで一緒にいてくれなかったじゃないか」

真菫の唇の端に、乾いた笑いが張り付いたようだった。

袖に隠した手で、太ももを強くつねり、涙をこらえた。

「わかったわ。明日、一緒に行く」

今日の個室では、和哉に服を脱ぐのを止めさせた。

明日は、どうするのだろう。

真菫は知りたかった。この三年間、和哉が数えきれないほど囁いた「愛してる」という言葉に、果たして一言でも本心からのものはあったのか。

……

それは、屋外での歓迎会だった。

多くの人がキャンプやピクニックに来ていて、和哉一行のほかにも、周りにはたくさんの一般客がいた。

ただ、彼らの場所が一番豪華だっただけ。

テントを張るだけでなく、プロジェクター用のスクリーンまで設置されている。

一見したところ、何も異常はなさそうだった。

真菫はぼんやりと和哉の横に歩きながら、彼の取り巻きたちの偽りの賞賛を聞いていた。

突然、音楽を流していたプロジェクターから、赤面するようなうめき声が聞こえてきた。

全員がそちらに目を向けた。

綾音が甲高い声を上げた。

「何これ?松原さん、ビデオに映ってるの、あなたじゃない?」

真菫が顔を上げた瞬間、まるで雷に打たれたかのようだった。

再生されているビデオのヒロインは彼女で、相手役は太った中年男だった。男は後ろ姿しか映っていないが、彼女の顔と体は、様々な卑猥な表情と共に、アップで撮影されていた。

一目で理解した。これはAIによる顔の合成だ。

「違う、これは私じゃない。これは偽物よ」

真菫の体は、瞬時に氷のように冷たくなった。

彼らがこんなにも汚い手を使うとは、思ってもみなかった。

「松原さん、椎名さんがお前にあんなに良くしてやってるのに、裏で他の男と浮気するなんて、恥を知れ!」

「この身分で椎名さんと付き合えるだけでもありがたいと思えよ。なのにまだ浮気するなんて。だからお前は淫乱だって言われるんだ」

和哉の友人たちが口々に、真菫に汚水を浴びせかけた。

周りでキャンプをしていた一般客も、野次馬根性で集まってきて、スマホを掲げてビデオを録画し始めた。

彼らは真菫を指さして囁き合った。

「まさかなあ、あの子、あんなに綺麗なのに、そんなことするなんて」

「お前、わかってないな。あの体つきを見ろよ。絶対、寂しさに耐えられない飢えた女だよ」

「あんなブサイクな男でもいけるんだな。なあ、俺が金を出したら、一晩付き合ってくれるかな?はははは」

悪意に満ちた声が真菫の耳に突き刺さり、彼女は震えながらプロジェクターを消しに行こうとしたが、両足は非常に重くて動けなかった。

絶望と無力感に苛まれながら、真菫は和哉に視線を向けた。

これが、彼らの計画だった。

綾音の憂さ晴らしのために、自分の人生を台無しにするつもりなのか。

真菫の視線に、和哉は胸が締め付けられるような痛みを感じ、前に出てプロジェクターを蹴り倒した。

「もうやめろ!消せ!てめえら、何見てんだよ、失せろ!」

スクリーン上のビデオは、突然止まった。

顔色が真っ白な真菫を見て、和哉の胸が何故か痛むのを感じた。

前もってこの計画に同意していたはずなのに、なぜ今、こんなにも辛いのだろう。

「お前じゃないって、わかってる。真菫、怖がるな」

和哉は、自分でも制御できず、彼女を抱きしめようと前に出た。

しかし、綾音に腕を掴まれた。

「和哉、騙されないで。こんな尻軽女、あなたにはふさわしくないわ。別れなさい」

綾音は、必死に目配せをした。

これが、彼らの打ち合わせ通りだった。

大勢の前で真菫の浮気を暴露し、和哉を被害者として、何の責任も負わずに真菫と別れる、という筋書きだ。

和哉は口を開いたが、「別れよう」という言葉がどうしても言えなかった。

その時、派手な身なりの中年女性が現れた。

彼女は真菫に向かって走り寄り、いきなり平手打ちを食らわせた。

「この泥棒猫!やっと見つけたわよ!人の旦那をたぶらかしやがって、ただじゃおかないから!」

この思わぬ展開に、周りの野次馬はさらに興奮し、一斉にスマホを二人に向けて撮影し始めた。

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