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第4話

Author: フカモリ
由美は笑顔で立ち上がって出迎える。

「さっき真琴ちゃんに会ったから、一緒に食事に誘ったの。信行、気にしないわよね?」

信行は無表情で真琴を一瞥する。

「お前がいいなら、それでいいさ」

信行が隣に腰を下ろすと、由美は彼にお茶を注ぎながら言う。

「さっき真琴ちゃんと話してたの。二人は離婚するつもりなんですって。だから、もしそうなったら真琴ちゃんにいい男性を紹介しなきゃって考えてたところよ。信行に数年間も無駄にさせられたままじゃ可哀想だもの」

妻である真琴を前にして、信行はごく自然に由美の隣に座る。

その視線はどこか淡々としていて、真琴を捉えるたびに、まるで視界に入った障害物を避けるようにすっと逸らされる。

真琴はもう、気にする気力も余裕もなかった。

ただ、ひどく気まずい。

もっと早く気づくべきだ。由美が会社に現れたのなら、きっと信行と約束があったに違いない。

ウェイターがメニューを信行に渡すと、彼はいくつか料理を注文する。それを見て由美は窘めた。

「私の好きなものばかりじゃなくて、真琴ちゃんが好きなものも頼んであげなさいよ」

メニューを持ったまま、信行は再び真琴を一瞥する。

きっと邪魔だと思っている。

真琴も自分が邪魔だと感じ、こっそりとスマートフォンを手に取る。

信行がメニューを彼女に渡した、まさにその時。テーブルに戻したばかりのスマートフォンが鳴った。

慌てて電話に出ると、聞こえてきたのは秘書の美智子の声だ。

「副社長、崇成建設の水谷(みずたに)社長がお見えです。第二プロジェクトのプロセスがまだ完了しておらず、社長のサインがないため着工できないとのことです」

真琴は答える。

「分かったわ。すぐ戻る」

美智子からの電話を終え、由美に向き直って言う。

「由美さん、会社で急用ができたので、先に戻ります。お二人はごゆっくり」

バッグとスマートフォンを手に、二人の返事を待たずに店を出ていく。

レストランを出た途端、真琴は心がすっと軽くなるのを感じる。頭上の空が、いつもより高く見えるようだ。

……

レストランの中では、由美が信行の方を向いて尋ねる。

「本当に離婚するの?」

信行は鼻で笑う。

「あいつの言うことを、信じるのか」

自分以上に権力欲が強い女だ。離婚したくないのはもちろん、もし本当に離婚するとしても、真琴は緻密に計算するだろう。財産分与の交渉は、二人で相当揉めることになるはずだ。

由美は言う。

「真琴ちゃんは、本気に見えたわ。それとも、信行が離婚したくなくなったの?」

信行は可笑しそうに笑う。

「考えすぎだ。さあ、食べよう」

そして話題を変えて尋ねる。

「体の調子はどうなんだ?」

由美は答える。

「とてもいいわ。お姉ちゃんが見守って、慈しんでくれているの」

……

真琴のオフィス。

提携先との話し合いを終え、立ち上がって相手を見送る際、笑顔で言う。

「水谷社長、ご安心ください。契約書はすぐに社長にサインしてもらいますので、着工が遅れることは決してありません」

「それではお手数をおかけします」

「いえいえ、仕事ですから」

「片桐社長はあなたのような内助の功を得られて、本当に羨ましい限りですな」

真琴は微笑みながら彼をドアの外まで見送る。

提携先を見送ると、美智子が昼食を運んできて尋ねる。

「副社長、今日の検査はいかがでしたか?」

真琴は弁当箱を開け、笑顔で答える。

「全部正常だったわ。問題ない」

美智子は言う。

「副社長、それでもお気をつけください。今は若さで乗り切れるかもしれませんが、確実に体力は消耗していますから」

真琴は言う。

「分かってるわ。気をつける」

もうこれ以上、忙しい日々を送るつもりはない。自分をすり減らすのは、もうごめんだ。

口ではそう言ったものの、結局、昼食を終えるとまた仕事に没頭してしまう。

夜になり、また残業している。

残業が好きなわけではない。ただ、家に帰っても誰もいない部屋でぽつんと過ごすくらいなら、忙しくしていた方がずっとましだ。

一方、信行は今夜、接待があった。

テーブルで商談をしている最中、彼のスマートフォンが鳴る。

母親の美雲からだ。

信行はスマートフォンを手に外へ出る。電話の向こうから美雲の声が飛んでくる。

「信行、今何時だと思ってるの?どうしてまだ帰ってこないの?二、三日くらい大人しくできないの?数日くらい、いい夫を演じられないわけ?」

吸いかけのタバコを隣のゴミ箱でもみ消し、信行は気だるげに尋ねる。

「母さん、芦原ヒルズに行ったのか?」

「そうよ。しばらくここに泊まるつもりだから、早く帰ってきなさい」

そして付け加える。

「真琴ちゃんが残業しているから、一緒に迎えに行ってあげて」

信行はしばらく黙っていたが、感情のこもらない声で答える。

「分かった」

電話を切り、こめかみを揉み、頭痛をこらえるような顔だ。

その後、スマートフォンを手に連絡先を探し始める。

しかし、しばらく探しても、真琴の電話番号が見つからない。

そもそも、登録すらしていなかった。

それに、彼女の電話番号も、もうはっきりとは覚えていなかった。

帰り道に会社の前を通ることを思い出し、電話するのも億劫になって、直接車を向かわせた。

オフィスでは、真琴がまだ残業している。

九時過ぎ。彼女にとって、夜の仕事はここからが本番だ。

今日、取り組んでいたのは他のことではなく、仕事の引き継ぎ資料の整理だ。

離婚する以上、この会社に留まり続けるつもりはない。

この数年間で手掛けてきた仕事は少なくない。早めに整理しておく必要があった。

今頃、社内にはほとんど人影はなく、いくつかのオフィスの明かりだけが灯っている。

ビル全体が静寂に包まれている。

真琴は、この静けさにとうに慣れていた。

キーボードを叩き、スクリーンをまっすぐに見つめていると、突然、オフィスのドアがノックされる。

真琴は穏やかな声で応じる。

「どうぞ」

オフィスのドアが開かれ、真琴が顔を上げると、やって来たのが信行だと分かり、まず一瞬呆然とし、それからようやく挨拶をする。

「あなたも、まだ仕事でしたのね」

そう言うと、急いで立ち上がり、机の上のファイルを手に取り、デスクから出て彼に向き直る。

「崇成建設との提携プロジェクトが着工するんですけど、まだ契約が完了していなくて。午後に二度あなたのオフィスに行ったんですけど、留守でしたわ。

今、サインしてもらえますかしら?」

信行は彼女を見つめ、それから契約書を受け取って目を通し始める。

いつからだろうか。真琴は彼に会っても仕事の話しかしなくなり、他のことは一切口にしなくなった。

契約書に問題はなく、机の上にあったサインペンを手に取ると、身をかがめ、甲の欄数か所に、流れるような筆致で自分の名を記す。

サイン済みの契約書を受け取り、真琴はそれを開いて確認すると、また事務的に告げる。

「現在、私が担当しているのはこのプロジェクトだけです。引き継ぎは武井(たけい)と行います。他の仕事の引き継ぎ資料がまとまり次第、辞表をあなたと取締役会に提出するつもりです。

そうだわ、秘密保持契約書も起草しておきました。退職後は関連業界には従事しませんし、興衆実業に関する全ての情報も厳守します。他に何か準備すべきことがあれば、教えてください。もしあれば、この数日で済ませておきますので」

真琴の専門は金融でも経営でもない。彼女が学んだのはオートメーション専門の産業用ロボット工学で、選択科目としてインテリジェント制御を履修していた。

当時帝都大で、彼女は16歳という若さで、驚異の偏差値75を叩き出して入学し、教授の一番の愛弟子だった。

中学生の頃には自分でロボットをモデリングし、多くのコンテストに参加して数々の賞を受賞し、特許まで持っていた。

大学四年生の時には、帝都大と他の二つの大学から大学院への推薦入学が決まっており、いくつかの海外の有名大学からも、研究を深めてほしいと誘いがあった。

しかし、信行のために、それらを全て諦めた。

離婚したら、やはり元の道に戻り、研究を続けたい。

それに、ロボットやハイテクと関わる方が好きで、副社長になるのも、忙しく動き回るのも、毎日仮面をかぶって愛想笑いをするのも好きではなかった。

今、信行とこれらのことを話している真琴は、もはや彼の妻ではなく、ただの部下であるかのようだ。

無表情の真琴を見つめる信行の脳裏に、ふと錯覚がよぎる。

目の前の女は、昔の真琴ではない。もはや情熱的でも、明るくもなく、彼に媚びへつらうこともしなくなった。

真琴の言葉には応えず、信行は淡々と言う。

「母さんが芦原ヒルズに行ってる。まず家に帰ってから話そう」

まだ何か言いたげだったが、その言葉を聞き、真琴は「ああ」と一声漏らし、ゆっくりと手の中のファイルを置く。

「じゃあ、片付けてから帰りましょう」

パソコンの電源を落とし、ファイルを引出しにしまう。信行が先に出て行かないことに、少し驚く。

彼が自分を待ってくれるなんて、思ってもみなかった。

振り返って去っていく背中を見送り、ようやくスマートフォンとバッグを手に取り、信行の後についてオフィスを出て行った。

エレベーターで階下に降りる時、信行はいつものように両手をズボンのポケットに突っ込み、真琴は隣に立ち、まっすぐにエレベーターのドアを見つめている。

二人の姿がぼんやりとドアに映る。その距離は、他人よりも遠い。

一階に着くと、黒いマイバッハが会社の正面玄関に停まっていた。二人が近づくと、真琴は迷わず後部座席のドアに手をかける。

信行は、運転席のドアを開ける。

真琴が後部座席に座るのは、結婚して間もない頃、お婆様に言われて彼女を実家に連れて帰った時のことだ。彼女が助手席のドアを開け、乗り込もうとした。

信行は、無情にもドアをロックした。

あの時、彼女は道中ずっと気まずかった。

それ以来、二度と彼の車に乗ることはなかった。

今夜は……全くの想定外だ。

車が発進すると、真琴は左腕を胸の前で組み、右手でスマートフォンを持ち、俯いてニュースを追っている。

信行を見ようともせず、話しかけようともしない。

車内は、ひどく静かだ。

以前は彼と生活のあれこれを共有することに夢中で、何かあると真っ先に伝えたかった。だが、彼がわざと電話に出ず、メッセージも返さず、無視していると知ってからは。

彼女は口を閉ざすことを学んだ。

信行も彼女に話しかけず、二人は道中ずっと沈黙を保っていた。

車が庭に停まり、家に入るまで、母親の美雲が満面の笑みで出迎えてくれた。

それでようやく、雰囲気が和らぐ。

「真琴ちゃん、おかえりなさい。スープを作っておいたから、早く来て温かいスープを飲んでちょうだい」

「はい、お義母様」

親しげに真琴を迎え入れ、美雲は信行を完全に無視する。

信行自身は全く気にしておらず、まっすぐにダイニングルームに入り、椅子を引いて座った。

使用人が食事を運んでくる。

美雲は真琴の隣に座る。

「真琴ちゃん、お義母さん、芦原ヒルズに数日泊まるつもりなんだけど、構わないわよね?」

茶碗と箸を手に、真琴は急いで美雲の方を向く。

「もちろん、構いません。お義母様、いつまででも泊まってください」

真琴が承諾すると、美雲はたちまち笑顔になる。

信行の方を見ると、彼の顔色が悪いのに気づき、釘を刺した。

「信行、私を見なくていいわ。あなたが反対しても無駄よ」

そこまで言って、さらに付け加える。

「これからは仕事が終わったら帰ってきて、家で夕食を食べなさい。一日中家に寄り付かないなんて、やめてちょうだい」

しばらく泊まるとは言ったが、本当の目的は信行を見張ることだ。

彼女はすでに計画を立てていた。真琴が妊娠するまで、ここに泊まるつもりだ。

たかが由美一人、自分がどうにかできないはずがない。

気だるげに顔を上げ、信行は怠惰な声で言う。

「金を稼がなくていいのか?母さんが金を使わなくなるならな」

美雲は言う。

「まともな人間が、夜中に外で金を稼ぐもんか。言い訳しないで、素直に帰ってきなさい」

美雲は横暴で、信行は彼女と口論するのも面倒だ。

あの門を出てしまえば、誰が自分を縛れるというのか?

その様子を見て、真琴は信行を見上げる。

この離婚が成立しなければ、彼の日々は恐らく楽にはならないだろう。

食事が終わり、若い夫婦は階下で美雲としばらく一緒に過ごした後、美雲は彼らを部屋へ休むように促す。しかも、自ら二人を部屋へ送り届けた後、ようやく立ち去った。

ドアが閉められ、信行はスーツの上着を脱ぐと、無造作にソファに放り投げ、シャツの袖をまくり上げる。

白い肌に、青い血管が手の甲から上へと走っている。

その時、彼のスマートフォンが突然鳴った。

すぐには出ず、タバコとライターを手に取り、一本に火をつける。それからようやくスマートフォンを手に窓際へ向かい、電話に出た。

煙が口から自然に吐き出される。

「母さんが来てる。今夜は行けない。

うん、お前も早く帰って休め。

ああ、分かってる。

よし」

信行の話す声はとても低く、優しい。しかし、彼はこれまで一度も真琴にそんな風に話したことはなかった。

彼はまた、真琴が後ろにいることを全く気にしていない。

ただ、電話を終えた後、テーブルに近づき、何事もなかったかのように腰をかがめてタバコを消しただけだ。

部屋はタバコの匂いで満ちている。真琴はここにいると気まずいが、出て行けば美雲に見つかるかもしれない。

この義母は舞子たちのように簡単には騙せない。

信行は、まるで誰もいないかのように、自分のことに没頭している。

タバコを吸い、電話に出て、またパソコンを開く。彼はいつも何かすることを見つける。

進退窮まり、このままではいけないと思い、真琴は信行に向かって言う。

「この間、役所に問い合わせてみたんです。離婚届の証人は、必ずしも親族である必要はないそうですよ。お互いの共通の友人や、同僚でも問題ないと。

ですから、先に私たち二人で届けを提出してしまって、お互いの両親には事後報告という形にするのは、どうでしょう?」

彼女が役所にそう問い合わせたのは、つい二、三日前のこと。

証人は親族でなくても構わないという返事を得て、真琴はようやく安堵のため息を漏らした。

なぜならそれは、彼女と信行さえ望めば、家の意見を聞かずに離婚手続きができることを意味するからだ。

真琴のその言葉に、信行は視線を上げ、彼女を見つめる。

しばらく真琴を見つめた後、信行は気にも留めない様子で笑って尋ねる。

「そんなに離婚を急ぐなんて、外に男でもできたのか?」

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