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第4話

Author: シンプルノート
晴香は誠を見つめた。悔しさが、じわじわとこみ上げてきて、胸の奥が締めつけられるように痛む。

「私が邪魔……した?」

誠はジャケットをソファに投げ捨て、イライラした様子で眉間を揉む。

「晴香。今まで、お前の言うことはだいたい何でも聞いてきたつもりだ。でもな、それにも限界ってものがあるだろ?

さっきのことは母さんから聞いたよ。たかが水晶のペンダントじゃないか。なのに、そんな風に逆らうなんて、あまりにも子どもじみてるぞ」

使用人が手を離すと、晴香は目を赤く腫らし、よろめきながら床から立ち上がった。

「誠、よく見て!あのペンダントは、恵を守ってくれるものなの!それに、自分のものを取り返して、何が悪いっていうの?」

茜がそばで甲高い声でわめく。「誰のものとかうるさいわね!これはあなたが私にくれたものでしょ!もうすぐ松浦家の嫁になるんだから、あなたの物は全て松浦家の物になのよ!」

「いい加減にしろ!」

誠は数歩で茜のそばに駆け寄り、彼女の首からペンダントをひったくり、晴香が受け取ろうと手を伸ばした瞬間、彼はその水晶のペンダントを床に叩きつけた。

「これでいいだろ?もう物はなくなったんだから、二人して騒ぐな」

晴香は駆け寄って床に這いつくばりながら、破片を拾い集めた。割れた破片が手のひらに食い込み、いくつも切り傷ができて血がにじむ。

彼女は勢いよく顔を上げ、涙を浮かべて誠を睨みつけた。「これは私の物なのに、どうしてこんな勝手なことをするの!」

しかし、誠は晴香の怒りを気にも留める様子もない。

「もっといいのを買ってやるから」

晴香は破片をすべて布の袋に詰め込むと、言い放った。「いらない!」

誠は彼女の腕を掴んだ。「新しいのを買ってやるって言ってるだろ。なんでそんなに意地を張るんだよ?もうすぐ婚約パーティーだってあるのに。少しは大人になれよ」

険悪な雰囲気の中、美優が紙袋を手に部屋に入ってきた。彼女は誠の両親の様子を伺うと、おずおずと口を開く。「あの……お取り込み中でしたか?」

美優は袋から、生々しいキスマークがついたネクタイを取り出した。「誠のネクタイ、昨日の夜うちに忘れて帰っちゃったみたいんで、返しに来たんですけど。

他には何もないので、私はこれで失礼しますね?」

「待て。ここにいろ」誠は手を伸ばして彼女の腰に手を回し、懐に引き寄せる。

美優が、晴香のことを刺激する存在だということは、誠自身が誰よりも分かっていた。

この数年、彼は美優の名前を口にすることさえ避け、彼女の物が家にあることなど決してないようにした。

しかし今は、晴香を「懲らしめる」ため、わざと彼女の目の前で、かつて想いを寄せていた相手と仲のいい様子を見せつける。

晴香は全身を震わせた。胸に熱い油を注がれたように、焼けるような痛みとしびれが走る。

美優は頬を赤らめ、わざとらしく誠を押し返した。「誠、こんなこと……晴香さんが見てるでしょ?さすがに、まずいんじゃない?」

しかし、誠は晴香から目を離さず、そのまま美優の唇にキスをし、低い声で言う。「こいつには一度しっかり灸を据えてやらないとだからな。

晴香、出ていけ。反省して謝る気になったらに戻ってこい」

彼の言葉が終わるやいなや、茜が親しげに美優の腕を組んだ。

「あら、美優ちゃんじゃないの!高校の時、よくうちにご飯を食べに来てたわよね。数年見ないうちに、こんなにきれいになっちゃって!

ずっと前から、あなたにはとても好感が持てたのよ。あんな品のない女より、あなたがうちへお嫁に来てくれた方が、よっぽどいいのに」

美優は恥ずかしそうに微笑みながらも、横目では誠の様子を伺っていた。「そんなこと言わないでくださいよ。晴香さんはただ、少し気が強いだけなんでしょうから。だから、お嫁に来る前に、少し考えを改める時間があってもいいんじゃないですか?」

彼女はそっと誠の体を押し、「そうでしょ?」と同意を求める。

誠は腹を立てていたので、何も考えずにこくりと強く頷いた。

晴香は布の袋を抱きしめ、血のにじむ手を固く握りしめると、みじめな思いで松浦家の門を出た。

彼女の背後で門が閉まる。中からは、四人の楽しそうな笑い声が聞こえてきて、針のように耳に突き刺さった。

晴香は家には帰らず、まっすぐ病院へ向かった。

両親を早くに亡くした二人は、小さい頃から姉妹で支え合って生きてきたのだ。だから、晴香は辛いことがあると、いつも恵に会いに来たくなった。

この子がいてくれるだけで、どんなに辛い日も一人で耐えているわけじゃないと思える。

恵が細い小さな手を伸ばし、晴香の頬に触れた。「お姉ちゃん、最近なんだか元気ない?」

「ううん、元気だよ」

「でも、目が赤いよ?」

晴香は涙を見られないように、慌てて顔をそむける。

恵の優しい声が耳元で響く。「お姉ちゃんが私の看病で大変なのは分かってるから。だから、もしお姉ちゃんと誠さんが幸せになれるなら、私の病気は治らなくてもいいからね……

お姉ちゃんには幸せになってほしいの」

晴香は背を向けた。涙が止まらない。「恵、私はうれしいの。

それに、恵がずっと行きたいって言ってたレストラン、もう予約したから。先生も、最近は容体が安定してるから、少しなら外出してもいいって言ってくれたし」

恵はうれしくて、ベッドの上で飛び上がりそうになった。

「本当?本当に外出できるの?」

晴香は泣き笑いを浮かべた。「もちろん、本当だよ」

横山家がドナーを見つけてくれる件は、正直あてにしていなかった。

だから、もし本当に恵が間に合わなかったら、せめて彼女の人生から、少しでも後悔を減らしてあげたいと思っていたのだった。

しかし、1ヶ月も前に予約したそのレストランに着くと、ウェイトレスに貸し切りだと告げられた。

晴香が事情を尋ねようとしたその時、中からワイングラスを手にした美優が現れた。

「晴香さん?あなたも、私の誕生日パーティーに来てくれたの?

でも、残念。誠が言ってたの。ここは私以外、関係ない人は入れちゃダメだって」
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