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第4話

Author: ちびネジ
「内山さんって本当に運がいいわね。交通事故で入院したっていうのに、慎一様がつきっきりで看病してるんだから。

私が傷口のガーゼを替えに行った時も、二人は手をギュッと握り合って離そうとしなかったのよ。

それに比べて奥様は気の毒ね。血を抜かれすぎて何度も処置室に運ばれたのに、慎一様は一度も顔を見せなかったんだから」

若い看護師が、羨望と哀れみの入り混じった声で語る。

「本当よね。慎一様は、奥様が内山さんに手出ししないようにって、わざわざ私たちに時間通り鎮静剤を打つよう念を押したのよ。内山さんがゆっくり療養できるようにって……」

もう一人の看護師が相槌を打つ。彼女は純佳の血を抜いたあの看護師だ。

崩れ落ちそうになる体を冷たい壁に預け、あまりにも残酷な現実に、純佳は眩暈を覚えた。

意識が戻らなかったこの一週間、すべては慎一が仕組んだことだった。自分が佑紀子に手出しできないよう、ただそれだけのために。

本当に滑稽だ。

血を抜かれ、傷だらけでボロボロのこの体で、一体彼女に何ができるというのか。

「内山の病室はどこ?」

噂話をしていた看護師たちの前に歩み寄り、冷たく尋ねた。

彼女たちは突然現れた純佳の姿に驚いて跳び上がったが、すぐに震える声で答えた。

「お、奥様……内山様はもう転院されました。この病院にはいらっしゃいません」

転院?

慎一のあの女に対する執着には恐れ入る。二人の邪魔をしないように、転院という手まで思いつくとは。

「どこの病院へ転院したの?」

「存じ上げません……」

看護師は怯えながら首を横に振った。

あちこち尋ねて回ったが、慎一が佑紀子をどこへ連れ去ったのか知る者は誰もいなかった。仕方なく、一旦自分の病室へ戻って療養することにした。

その間、慎一に何度か電話をかけたが、一度も繋がることはなかった。

それどころか、着信拒否にまでされていた。

スマートフォンからは無機質な音声ガイダンスが流れるだけだった。

純佳は電話を切り、すぐに別の番号へと発信する。

「夫である早川慎一と内山佑紀子の不貞行為の証拠を集めてちょうだい。調査費用も特急料金も、いくらでも払うわ。ただし条件がある。一週間以内に、裁判で確実に勝てる証拠を揃えて」

「一週間では短すぎます。せめて二週間……二週間頂ければ、必ず決定的な証拠を掴んでみせます」

電話の向こうの探偵は慎重に難色を示した。

「分かった、二週間よ。絶対に奴らが言い逃れできない証拠を用意してちょうだい」

そう言い残し、純佳は通話を切った。

家庭裁判所に離婚調停の申し立てを行い、それが受理されて慎一の元に呼出状が届くまで、早くても十五日はかかる。彼に知られる前に、自分に有利な証拠を必ず手に入れなければならない。

佑紀子の誕生日が来る前に離婚問題を公の場へ持ち込めば、慎一がどれほど絶大な力を持っていようと、裏で手を回して揉み消すことなどできない。そして何より、桃香を強引に奪い取ることも不可能になる!

権力に物を言わせて自分を捻じ伏せようとしても、まず「司法手続き」という壁を越えなければならない。

離婚に関する資料をまとめ終えると、純佳はすぐに家庭裁判所へ向かい、申し立ての手続きを済ませた。

すべての手続きを終えた後、病院でさらに一週間ほど静かに体を休めた。

退院の日。

思いがけず通りかかったベビー用品店で買い物をし、桃香のためのケア用品を一式揃えた。店を出ようとしたその時、早川家の使用人から一本の電話が入った。

「奥様、大変です。お嬢様が旦那様に連れ出されてしまいました。昨日からまだお熱が下がっておらず、絶対安静にしていなければならない状態だったのに、旦那様が無理やり……!」

純佳はスマートフォンを握りしめ、思わず声が上ずる。

「どこへ連れて行ったの!?」

「分かりません。旦那様は、我々使用人が口出しすることを決してお許しになりませんので」

その言葉を聞いて即座に電話を切り、純佳はすぐさま探偵を動かして佑紀子の居場所を調べさせた。

桃香が病気であるにもかかわらず無理やり連れ出すなんて。彼をあそこまで狂わせるのは、あの女しかいない。

しばらくして、スマートフォンに一つの位置情報が送られてきた。

ある会員制の高級クラブだった。

店員に購入したベビー用品を自宅へ届けるよう手配し、純佳は踵を返して指定された場所へと急いだ。

目的地に到着すると、支配人らしき男が慌てて前に立ち塞がった。

「早川様、本日はどのようなご用件で……」

純佳は氷のように冷え切った視線を向け、静かに言葉を遮る。

「くだらない御託はいいわ。夫のVIPルームへ案内して。

ここに来たってことは、すでに裏は取れてるのよ。早川の妻である私を敵に回して、この店が明日も無事で済むと思っているの?」

言い終わるや否や、純佳はディスプレイされていた最高級のヴィンテージボトルを無造作に手に取り、一切の躊躇なく大理石の床へと落とした。

ガシャンという甲高い破砕音と共に、琥珀色の液体が壁を伝い、絨毯の上に生々しい染みを作っていく。

数本も叩き割らないうちに、ラウンジにいた客やスタッフたちがざわめき始め、ひそひそと指を差し始めた。

支配人は純佳が次に手に取った店の秘蔵ワインを見て血の気を引かせ、すぐさま慎一の個室番号を白状した。

「やめ、やめてください!言います、言いますから!どうせお二人はご夫婦ですし、ご案内しても当クラブの規則違反にはならないでしょう……旦那様は二階の一番奥、VIPルームにいらっしゃいます!」

支配人は傍らのウェイターに案内するよう目配せをした。

純佳はその一本だけで一千万円は下らないであろうヴィンテージボトルを支配人に向かって放り投げた。

支配人は這うようにして飛んできてボトルを胸に抱え込み、心底安堵したように息をついた。

ウェイターの後について階段を上がり、VIPルームの扉を押し開ける。その瞬間、防音扉の隙間から、赤ん坊の泣き声が漏れ聞こえてきた。

聞き覚えのあるそのかすれた泣き声に、純佳の神経が一瞬で限界まで張り詰める。

桃香の声だ!

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