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第5章

작가: 藤崎青子
美月はあろうことか手を伸ばし、吉田家の令嬢・吉田七海(よしだ ななみ)の腕にすがろうとした。

「これからは私ももっと外へ出ようと思ってるんです。皆さんにもちゃんとご挨拶したくて。私は江崎美月、氷室徹が一番大切にしている……妹です」

七海は一歩後ずさりし、まるで汚れたものを避けるように、美月の手をさらりとかわした。

美月には一瞥もくれず、そのまま綾乃へ向き直る。

「綾乃。今の家が居心地悪いなら、うちの山の中腹にある邸宅が空いてるから、いつでも引っ越してきていいわよ」

あまりにも露骨な無視に、美月の笑顔は顔に貼り付いたまま凍りついた。

その瞳には、隠そうともしない悪意が宿る。

次の瞬間。

彼女は突然、ものすごい力で綾乃の腕を引っ張った。

そのまま綾乃を巻き込むように、近くにあった等身大のシャンパンタワーへ突っ込んでいく。

ガシャァァン――!

無数のクリスタルグラスが床へ落ち、耳をつんざくような破砕音が会場中に響き渡った。

砕け散ったガラス片とともに、シャンパンが一瞬で二人の全身をびしょ濡れにする。

美月は割れたガラスの上へへたり込み、顔面蒼白のまま胸を押さえ、苦しそうに激しく息を切らせた。

まるで今にも息絶えそうな様子だった。

「綾乃さん……私は、皆さんと仲良くなりたかっただけなのに……どうして無理やりお酒を飲ませようとするの……」

徹が駆けつけた時、目に飛び込んできたのはその光景だった。

彼は立ち上がろうとしていた綾乃を乱暴に突き飛ばし、顔を強張らせながら床の美月を抱き起こす。

美月は血の気を失った顔で徹の胸に身を縮め、小刻みに震えていた。

そして潤んだ瞳で彼を見上げ、卑屈なほど怯えた表情を浮かべる。

「私なんかが皆さんと一緒にいる資格なんてないって分かってる。でも……ただ仲間に入れてほしかっただけなのに……綾乃さん、どうして私を突き飛ばしたの?」

徹は血走った目で綾乃を睨みつけた。

「美月は先天性の心臓病なんだ。酒は一滴たりとも口にできない。お前は美月を殺す気か」

七海たちは、その場で言葉を失った。

七海はすぐに前へ出て、全身傷だらけの綾乃を支え起こす。

「徹、あなた正気なの?どうしてこれが綾乃のせいになるのよ。この女が勝手に……」

「どけ!」

徹は耳を貸そうともせず、鋭く遮った。

「綾乃、やっぱりな。あの聞き分けのいい態度は全部芝居だったんだ。俺の目の届かないところでは、こうやって美月をいじめていたのか」

そう言うと、美月を背後に控えていた助手の中村隆一(なかむら りゅういち)へ預け、七海の腕から綾乃を無理やり引き離した。

「藤崎グループなんて、もうとっくに抜け殻だ。お前の父親を生かすも殺すも、今は俺の一存で決まる。よくもそんな真似ができたものだな」

言い終えると、床に転がる酒瓶を指差し、同行していたボディガードへ命じる。

「そんなに人に酒を飲ませるのが好きなら、本人に思う存分飲ませてやれ。床にある酒を、一滴残らず胃に流し込め」

綾乃は静かに徹を見つめていた。

「私はやっていない」

その言葉は喉元まで込み上げながら、結局口にはならなかった。

もう言うだけ無駄だった。

徹は最初から、自分を信じるつもりなどなかったのだから。

「無理やり飲ませなくていいわ」

綾乃の声は、泣き続けたあとのようにかすれていた。

「謝るわ。全部、私が悪かった。自分で飲むから」

そう言うと、友人たちの悲鳴にも似た叫び声が上がる中、綾乃は酒瓶を手に取った。

そのまま頭を反らし、中身を一気に喉へ流し込む。

一口。

また一口。

喉は焼けるように熱く、火を飲み込んでいるようだった。

酒を2本飲み干すころには、綾乃の手は止まらないほど震え、目の前の景色はすべて霞み始めていた。

七海は胸を締めつけられる思いで、ふらつく綾乃を抱き支える。

幽霊もまた悲しげな表情で綾乃の背中へ覆いかぶさり、抱き締めるように寄り添っていた。

「綾乃、いい子ね。少し眠れば、楽になるわ」

綾乃は、自分にしか見えない幽霊をぼんやりと見つめていた。

もうその声は、ガラスの破片を飲み込んだようなしゃがれ声ではない。

澄んでいて、どこか温かな響きを帯びていた。

首筋に残っていた痛々しい青紫色の締めつけられた痕も、跡形もなく消えている。

綾乃の口元に、かすかな笑みが浮かんだ。

――ほら。幽霊の傷は、ちゃんと癒えてきている。

あと五日だけ耐えれば、未来は変えられる。

私も、お父さんも、きっと生き延びられる。

激しいめまいと胃がひっくり返るような痛みに耐えながら、綾乃は静かに徹を見つめた。

「これで……満足なの……」

その言葉を最後に、彼女は力尽きるように床へ崩れ落ちた。

再び目を覚ましたのは、それから三日後だった。

目を開けると、最初に視界へ入ったのは徹の姿だった。

「綾乃。今回のことで、二度と美月をいじめようなんて考えるな。

あの子はただ無邪気なだけだ。俺があの子をそばに置いているのも、傷つけられないよう守るためだ。

これ以上騒ぎを起こすなら、その時は俺がお前に何をするか分からない。あの夜、一緒になって美月をいじめたお前の友人たちも含めて、一人たりとも容赦しない」

綾乃は長い間、ただ黙って彼を見つめていた。

整った鋭い顔立ち。薄い唇。

今になってみると、どうしてあれほど愛していたのか分からなかった。

どうしてこんな男のために、家族まで破滅へ巻き込むような道を歩んでしまったのだろう。

綾乃がぼんやりしている様子に、徹は苛立ちを募らせた。

「俺の話を聞いているのか」

綾乃はようやく我に返る。

「ごめんなさい。もう一度言ってくれる?」

徹は怒りを押し殺すように深く息を吸った。

「俺は、お前とは離婚しないと言った。美月に恋愛感情はない。だから、もうあいつを困らせるな。

藤崎グループは、とっくに氷室グループへ吸収されている。俺とお前は、一生離れることはない」

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