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第1279話

Penulis: 夏目八月
翌日の昼過ぎ、二人はようやく目覚めた。

目が合った瞬間、玄武の瞳が欲望に翳り、一晩の休息で完全に回復したとばかりに妻を引き寄せ、耳たぶに唇を這わせた。

「もう、起きなきゃ!」さくらは慌てて身を引いた。

外で物音を聞いていたお珠は、二人がまた戯れ始めそうな気配を察し、急いで声をかけた。「親王様、王妃様!皇太妃様からもう三度お使いが」

手を引っ込めながらも、玄武の瞳には未だ情欲の炎が残っていた。「今は君の言う通りにするさ。だが、今夜は私の思い通りにさせてもらう」傲然と宣言した。

昨夜の遅い帰還で、玄武は恵子皇太妃への挨拶を欠いていた。

これまで皇太妃は息子の動向にさほど神経を尖らせることはなく、戦場に赴くときですら深い憂慮を見せなかった。

それは戦場の危険を軽視していたわけではない。太后が常々、我が子は天下無双の武勇の持ち主だと皇太妃を安心させていたからだ。

だが今回ばかりは、屋敷内の人々が総出で緊迫した空気を醸し出すため、皇太妃までもが不安に押しつぶされそうになっていた。

昨夜、さくらは戻ってきたのに、玄武の姿が見えない。参内したと聞いてはいたが、実際に息子の無事な姿を確認できぬことには、胸が締め付けられる思いだった。

今日も何度も使いを出したが、まだ起きぬとの返事ばかり。あの二人がそれほど怠惰なはずはない。

普段なら朝議がない日でも、辰の刻には起きているというのに。

恵子皇太妃は初めて、子を持つ親の焦燥を痛感していた。

ようやく二人が姿を見せた時、颯爽とした装いの夫妻の手が繋がれているのが目に入った。

皇太妃は珍しく、二人が礼儀正しく大礼を尽くすのを静かに見守り、それが済んでから初めて着座を許した。

今回の心労は並大抵ではなかった。たとえ三拝九拝の礼をされても、決して大げさではないと感じられた。

挨拶を済ませた二人は、それぞれ刑部と禁衛府へと向かった。

今日は影森天海の厳しい取り調べが待っていた。

天海は骨と皮ばかりに痩せ細り、髪の毛から垢まで含めても九十斤もないほどの姿になっていた。

「私は無実です!ただ銀子が欲しかっただけで……」日々、処刑を恐れ戦く天海は、震える声で繰り返した。

このような人物には拷問など必要ない。「命が惜しければ、すべてを話すことだ」たったそれだけの言葉で充分だった。

その一言で、飢えで衰えていたはず
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