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密かに甘噛み 10

last update Last Updated: 2025-05-24 14:50:35

上手く言葉を返せない。

頭の中に繰り返し巡る『危ない人間』という響き。

セツ君は更に言葉を重ねた。

「そう。もし、僕が実は藤堂組の若頭、つまりヤクザだとしたらーー花ちゃん、僕のこと嫌いになる?」

若頭だなんて嘘⋯⋯セツ君が?

「え、えっ!?変な冗談だよね?セツ君がヤクザな、わけ⋯⋯」

「う⋯⋯ん。まだ隠すつもりだったんだけど⋯⋯まあ、いいか」

セツ君はソファにもたれかかっていた身体を起こして、急に着ていた黒いシャツのボタンを外していく。

私は、見てはいけないと目を伏せた。

「これが僕の秘密、だよ」

え、背中?ーー何でと目線を向けると

セツ君の背中には⋯⋯

桜と龍がこれでもかと舞っている、鮮やかな入れ墨が刻まれていた。

龍がまるでこちらを睨みつけてるみたい。

桜は美しい花吹雪として散っていて、それがかえって龍の迫力を引き立たせていた。

私は、セツ君がたまらなく怖くなった。

心臓が激しく痛いくらいにバクバクしてる。

まさか、本当にヤクザだなんて。

優しいセツ君が、どうしてなの。

信じられない、信じたくない。

でも、あの入れ墨どう見たって本物だよ、ね。

「何気に人に見せないからさ、こういうの。びっくりしたでしょ」

ワイシャツを着なおしたセツ君は、まるでなんでもないよ、みたいな態度。

やけに落ち着いた口調で、微笑んでいる。

びっくりも何も、一体どういうことなのセツ君⋯⋯!?

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  • 極めて甘い愛〜若頭を拾ったら溺愛されて困ってます〜   密かに甘噛み 12

    唇がそっと離れて、セツ君は私を見つめてる。「絶対、絶対に逃さないから。花ちゃん。大好きだよ」私の髪を撫でる手が、まるで美しくて壊れやすいものに触れるみたいに、そっと優しい。ああ、私はその気持ちから逃げようにも逃げられないんだ。黒い影をまとうような、その瞳にはきっと私だけが映っていて、閉じ込められている。セツ君の気持ちが痛いくらい、心にとろけては流れ込む。こんなに好きにさせてしまっていたなんて、知らなかった。セツ君を止めないといけないのに。でも拒んだら、もっと迫ってくるかもしれない。そう考えると、もう私はどうすることもできない。このままじゃ、されるがまま。「いいね、そのもっとって顔。気持ちよくなってくる」自分がそんなだらしない顔をしていたなんて、恥ずかしい。 セツ君の顔をまともに見られない。「ふふっ。本当に可愛い、花ちゃん」本気で自分のものにしようとしてる。真剣な眼差しで私を見てるもの。私は何も出来ないまま、ただセツ君の目を見るしかなかった。「いきなり、過ぎたよね。続きはいつか、必ず⋯⋯ね」セツ君はそう言ったあと名残惜しそうに、じゃあ、また。帰るねと身支度をして帰ろうとした。そして帰り際に教えてくれた。 「あの日ゴミ捨て場に居たのは実は死にそうだったんだ。他の組と争っててね。それで死ぬ前に、花ちゃんをひと目見たかった。でも、花ちゃんが僕を拾ってくれたから、死ねないなって」そんなとんでもない事実、驚かないわけない。 私の心を乱してくるセツ君は、極道の若頭だったなんて、ああ!やっぱり信じられない!セツ君という人間が分からない。それに、プレゼントされた7本の薔薇の意味も知らない。セツ君がさっき隠してた気持ちって?指が緊張で震えながらもスマホで調べてみると、「あなたに密かな想いを抱いています」これがセツ君の気持ち、なの。密かな思いって?単に私を好きなわけじゃないってことかな。⋯⋯私を取り返しがつかないくらいに壊したいとか?いや、考えるのを止めよう。きりがない。私はため息を大きくついてから、テーブルに置いていた500ミリリットルのペットボトルレモンティーを飲んだ。キスをした感触が今でも生々しい。 レモンティーでかき消したはずなのに、喉奥に残るキスの甘たるさがどうにも、簡単には消えなかった。

  • 極めて甘い愛〜若頭を拾ったら溺愛されて困ってます〜   密かに甘噛み 11

    ーー嫌だ。セツ君が、ヤクザだなんて。  「ごめんね、黙ってて。怖いよね」口調があまりにも優しいから、私は混乱してしまう。「い、いや⋯⋯」「こんな僕から、逃げないでね。もし、逃げたら」逃げたら、どうするの。まさか⋯⋯私をめちゃくちゃにするとか?そんなこと、セツ君がするはずない。ゆっくりと近づいてきて、手首を掴んできたので、思わず声をあげてしまった。「なーんてね。花ちゃんを傷つけたりしないよ。逃げられないように、今から捕まえてあげる」セツ君の顔が近づいてきて、恐怖のあまり目をつむってしまった。唇に柔らかい感触がして、キスをされたのだと分かった。 「僕は、花ちゃんの普通の日常を壊してしまうよ。僕を心底好きになる運命にしてあげる」今までに見たことのない表情をした彼。本当に私を捕らえるような、妖しい微笑み。なんだか、獲物を求めるケダモノみたいで。いつもの優しさなんてほんの少しですらもない顔だった。再びキスをされそうになり、拒むと私の頭を引き寄せて、舌を入れてきた。嫌なはずなのに、身体が反応してしまう。拒むと尚更迫ってくる。熱が下腹部に集まるような、きゅっとした甘たるい痛みを感じてしまう。ざらりとした舌が絡んでくるのが、気持ちよくて頭がぼんやりとしてくる。でも、受け入れちゃ駄目。危ない人なんだから。分かっているはずなのに。セツ君の優しさに、甘いぬくもりに抗えば抗うほど堕ちていくみたいで、たまらなく怖い。私の全てを奪いにいく、そんな強引なキス。身を委ねてしまいそうになる。

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  • 極めて甘い愛〜若頭を拾ったら溺愛されて困ってます〜   密かに甘噛み 8

    「私、昔のセツ君が好きだったな」口をついた言葉を自分で感じた瞬間、自分はやっぱり今のセツ君を好きになれないって分かって、心が凍てついた。セツ君の表情がゆっくり変わるのを、ただ見つめてた。目の奥の光がすうっとなくなり、底のしれない暗さをまとい始めた。「昔なんて、もう⋯⋯過ぎたことなのに」いつもよりか甘さのない声でセツ君は呟いた。私は余計だったかも、ごめんって言わなきゃと声をあげようとした。でも、言葉につまる。彼の表情をずっと見ていられなくて、部屋の窓に視線をそらした。   空は重たい鉛色が垂れ流されている。また、雨だなんて。つーっと雫が窓を濡らしているのをじっと見つめてるしかない。まるで、自分が泣いているみたいに思えてきた。私の知っているセツ君がどこにも見当たらない。頼りなくても、臆病でも、ひたすら優しかった昔の彼の方がずっといい。 あの頃の彼はまるで死んだみたい。昔の欠片が一欠すらもない、今のセツ君を心の奥で拒絶してる、自分。 所詮変わらないでいてほしかったなんて、私のわがままなのに。変わったのは間違いみたいに思ってるのはおかしいことなんだ。それなのに、やっぱり寂しい。「だって、今のセツ君はまるでセツ君じゃないみたいだよ」「僕は僕だ。今の自分を好きになってもらえるように努力するね。ごめんね、花ちゃん。嫌な気持ちにさせて」「嫌というか⋯⋯私、正直こういう贈り物とかされると困っちゃうし、セツ君の気持ちを受け止められないから、辛いの」

  • 極めて甘い愛〜若頭を拾ったら溺愛されて困ってます〜   密かに甘噛み 7

    仮に好きになるとしても、今のセツ君をあまりにも知らなさ過ぎる。 ⋯⋯子供の頃の彼の方が好きだった。どんなに時が経っても、セツ君は何ひとつ変わらないでいてほしかった。過去の愛しさから、私は抜け出せず、今という時間においてけぼりにされているよう。私は、大人になってもなんにも変わってないのに。今のセツ君は完璧なはずのに、昔あった大切な『なにか』は欠けてしまったんだ。それは、彼の1番の魅力であった純粋さかもしれない。そういや小学校の頃を思い出してみると、セツ君は家族の話だけはしてくれなかった。家族は怖いから嫌だって、それだけ。それ以上は聞けなかった。今、セツ君が抱えてるのは家のことなのかな? 「ねえ、セツ君」「ん。なあに、花ちゃん」「なにか悩んでるんだ?もしかして、お家のことかな」「それは⋯⋯」セツ君の顔から笑顔が消え、真剣な顔になった。「昔の弱いままじゃ、大切な人をきっと守れないから。あの時みたいに臆病じゃ、駄目だったんだよ。だから、僕は⋯⋯」僕は強くなったんだ、だから大丈夫。その言葉に、全く揺らぎはなかった。 まるで自身に大丈夫だと言い聞かせてるみたいだった。でも表情はどことなく不安げで、見てるこっちまで心がざわめいてしまうくらい。

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