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強いのはわかった

Author: 景文日向
last update Last Updated: 2025-10-05 19:01:40

 何処にいる、と思った時に遅いのはもうわかった。

「その通り、だな」

「ぐっ!?」

 今度は手刀。首に当てられ、一瞬呼吸が詰まった。というか、その通りって……心が読めるのか?

「そうだ」

 動きが止まった。アマツミカホシは、随分と饒舌だな……。蓮といい雷斗といい、神とは饒舌な存在なのか。

「俺は星神。星というものは、時に人を惑わす。別の時には、人を魅了する。心を読むなんて、当然の技術だろ」

 そんなものなのか……? 蓮も土星の神とか言っていたが、心を読んでくることはなかった。見透かすようなことは言っても、本当に読んでいたわけではないだろう。

 「ははっ、そうだろうな。大半の神は、読んでも口に出さない。俺は、長い間神付き合いがなかったからか……話すのが好きでな。話しながら追い詰めて絶命させる──そういう過程を味わいたいんだよ」

 悪質というか、陰湿というか。雷斗の方がまだマシだ。

 「そういえば、蓮と雷斗は?」

 自分のことで手一杯だったけど、よく考えたらあの二柱だけというのもマズいのではないか。一度、敗北しているわけだし。

「あいつらは、今……別の次元にいる」

「別の次元?」

 オウム返しをしてしまった。だけど、理解できない。別の次元?

「少し語弊があるな。実際、別の次元にいるのは俺たちの方だ」

「だから、別の次元って何なんですか」

「焦るなよ。俺は星の神。即ち、宇宙の神と同義だ」

 それは飛躍しすぎだろ。口に出そうと出すまいと、こいつには全部聞こえてるんだけど。

「だから、多層的に次元を捉えられる。お前にわかりやすく説明するなら、だ。今俺たちがいるのは四次元。あいつらがいるのは三次元、と言ったところか」

 いまいち容量を得ないが、言いたいことはわかった……気がする。

「で、次元が違うとお互い干渉はできない。だから、あいつらはお前を助けられない。俺も、お前を徹底的に嬲り殺せる。いい事しかないだろ?」

 いちいち物言いが物騒な神だな。だけど、こんなことが出来るくらいだし実力はあるのだろう。それだけは認めておいた方が良さそうだ。

 蓮から常々言われていることだが、相手の実力を見誤ると必ず負ける。多分、これは蓮がアマツミカホシに対してそうだったのだろう。自分が強いと思って、慢心した結果負けた。僕も、宗吾を失った時そうだった。だからこそ、これ以上の負けは避けたい。

 もう
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