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8話

Autor: Amy
last update Data de publicação: 2026-09-07 20:01:45

防災表示中継所の扉を抜けると、幅の狭い階段が地下へ続いていた。

僕が先に下り、凪が扉を閉める。地下1階の短い廊下には3つの部屋があり、中央の制御室だけ緑の非常灯が点いている。

右側の壁一面に表示卓、左側に通信盤。僕は表示卓の前へ座り、凪は廊下側の扉を背にした。

午後5時0分12秒。

共通表示層の待機時間は、あと48秒だった。

「証拠媒体」

凪が封を切り、作業用メモリーを僕へ渡す。

「原本じゃない」

「原本は弁護士。照合番号は最後の18秒」

僕は表示卓の読取り部へメモリーを差した。画面に4つの枠が並ぶ。

【未編集映像 15秒】

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  • 歩きスマホは即死刑   10話

    11月3日の朝、大学前交差点を囲っていた白い工事幕が外された。南西角の文具店は閉店し、シャッターに【長い間ありがとうございました】と書かれた紙が貼られていた。道路の向こうにコンビニ、右手に大学の南門。位置は6月1日と同じだった。違うのは、足元だった。路面ディスプレイは撤去され、横断歩道には白い塗料とざらついた舗装材が敷かれていた。停止線の手前には、スマートフォンを見るための四角い区画が3つ。表示ではなく、青い塗料で囲まれていた。区画の脇には紙の案内板が立っていた。【スマートフォンを利用する時は、ここで立ち止まってください。利用は任意です】命令ではなく、使い方だった。僕は南西角に立ち、大学から正式に借り直した旧型カメラを肩から下げていた。隣に凪、その向こうに美紀と莉子がいた。「緊張してる?」凪が聞いた。「少し」「渡らなくてもいい」「渡る」信号が赤から青へ変わった。音響信号が鳴り、歩行者が動く。足元に矢印は出ない。残り秒数も、個人の歩幅も表示されない。僕は1歩目を出した。6月1日、翔が立っていた対岸を見る。配達用の自転車も、手を上げる姿もない。2歩目で、体が止まりそうになった。美紀が僕を追い越さず、横に並んだ。莉子は反対側へ回り、凪は半歩後ろを歩いた。誰も腕を引かなかった。

  • 歩きスマホは即死刑   9話

    7月14日の夕方、僕と凪は老人に教えられた道で駅へ向かう途中、パトカーで来た警察官に保護された。田辺弁護士へ連絡し、東央警察署へ同行した。夜をまたいだ7月15日の午前2時、僕は署内の会議室にいた。長机の片側に僕と凪、反対側に田辺弁護士と刑事がふたり。窓のブラインドは閉じられ、壁のスクリーンには白い布が掛けられている。逮捕ではなく、保護と事情聴取だと説明された。それでも廊下には制服警察官が立ち、僕らは自分の判断で外へ出られなかった。「中継所への立入りは、正規鍵で承認されています」田辺弁護士が書類を机へ置いた。「佐伯美紀の緊急停止申請、片桐誠教授の保守確認、図書館の防災表示確認端末と中継所の操作記録。破壊された設備もありません」刑事は黙ってページをめくった。「ただし、目的外使用の疑いは残ります」「人が撃たれる表示網を止める申請が目的外かどうか、先に調べてください」凪の声は低かった。僕は長机の木目を見ていた。63秒が終わってから、体の震えが止まらない。怖かったのだと、今になってわかった。刑事のひとりが、白い布を少し持ち上げた。「武器運用は、午前0時に全国で停止されました。今日から始まる予定だった屋外スマートフォン所持許可制も、施行凍結です」「法律は?」「残っています。凍結は廃止ではありません。政府が運用命令を止めただけです」僕は顔を上げた。「巡視機は撃たない?」

  • 歩きスマホは即死刑   8話

    防災表示中継所の扉を抜けると、幅の狭い階段が地下へ続いていた。僕が先に下り、凪が扉を閉める。地下1階の短い廊下には3つの部屋があり、中央の制御室だけ緑の非常灯が点いている。右側の壁一面に表示卓、左側に通信盤。僕は表示卓の前へ座り、凪は廊下側の扉を背にした。午後5時0分12秒。共通表示層の待機時間は、あと48秒だった。「証拠媒体」凪が封を切り、作業用メモリーを僕へ渡す。「原本じゃない」「原本は弁護士。照合番号は最後の18秒」僕は表示卓の読取り部へメモリーを差した。画面に4つの枠が並ぶ。【未編集映像 15秒】【危険度変更記録 15秒】【個別表示比較 15秒】【証拠照合・管理通信 18秒】合計63秒。廊下の天井で警報が鳴った。【危険行為者が施設へ侵入しました】「正規鍵で入った」凪が画面へ言った。【退去してください。30秒後に制止を開始します】「遼くん、押して」表示卓の中央に、物理ボタンがせり上がった。赤ではなく、災害標識と同じ橙色だった。僕は右手を置いた。翔の映像が頭に浮かんだ。スマートフォンを見る。顔を上げる。僕を見る。倒れる。

  • 歩きスマホは即死刑   7話

    7月3日、東央区役所前の公衆電話は、庁舎の北壁に3台だけ残っていた。僕は中央の受話器を取り、凪は2メートル離れた植え込みの脇に立った。頭上の庇には監視カメラがあるが、電話機の内側に画面はない。10円玉を入れ、佐伯家の代理人になった田辺一樹(たなべ かずき)弁護士へ電話した。「映像と記録を、紙の説明書と一緒に送ります」「電子送信は?」「相手ごとに違う警告が出ます。受け取れたかも確認できません」「原本は手元に残してください。会って封印しましょう。複製は届いた時刻と封の状態を記録します」受話器を置くと、硬貨が1枚戻った。それから11日間、僕らは証拠を6系統に分けた。6月1日の未編集映像原本は、田辺弁護士の目の前で封印し、そのまま預けた。検証用の複製は書留と別の運送便に分け、報道機関の記者にも直接渡した。合計6か所。受取人、時刻、封の状態、重量を紙に残した。郵便局の壁面スクリーンは、【虚偽情報を含む記録媒体の送付は処罰される場合があります】と警告した。窓口の職員は禁制品でないことを確かめ、表示を伏せて消印を押した。翌日、報道機関の1社から、封筒が空だったと電話が来た。こちらの控えには重量28グラムが残っている。田辺弁護士が計量記録を保全し、別便の受領も確認した。空の便は失敗系統として外し、同じ照合番号の複製を田辺弁護士の管理下で作り直した。別の報道社へ直接手渡し、受領時刻と封の状態を確かめて、最終的に外部6か所へ戻した。征一郎はスクリーンを支配できても、手から手へ渡った6系統を一度には消せなかった。父の設計にある2つの監査保全庫とは別に、人が証拠を守る経路ができた。7月13日の夜、美紀から固定電話があった。

  • 歩きスマホは即死刑   6話

    6月21日、湾岸部の光都展示館は、海へ突き出した半円形の建物だった。正面階段の両側に水盤がある。僕と凪が近づくと、水面に金色の道が現れた。【高瀬凪様 お帰りなさい】凪は足を止めた。「帰ってない」僕の側には、別の案内が出ていた。【神崎遼様 奨学金特別面談はこちら】「申し込んでない」「ここは、同意前に登録される仕組みなの」凪は水盤を見ず、中央の階段を上った。征一郎は最上階の都市展示室で僕らを待っていた。曲面ディスプレイには10年後の東京が映っていた。「神崎さん。孫がご迷惑をおかけしました」「私は孫として来たんじゃない」「もちろん。優秀な記者として招いた」白い長机には、僕の入構権限停止通知、翔の公式記録、旧図書館の使用申請が並んでいた。昨日までの行動が、紙に印刷されている。「監視していたんですか」「公共設備の安全を確認しています。あなたはその設備に、強い関心をお持ちだ」征一郎は椅子を勧めたが、僕らは座らなかった。原記録と測定端末は持ち込まず、胸元の小型カメラだけを入館前から回していた。征一郎はレンズへ一瞥を送り、「記録はご自由に」と言った。外へ出せないと考えているようだった。「翔の危険度を変えたのは、光都本社にある端末のはずです」征一郎は銀色のカフスへ触れた。

  • 歩きスマホは即死刑   5話

    旧東央図書館は駅北口から徒歩12分の住宅街にあった。新館ができた2年前から、灰色の3階建ては資料保存庫として使われていた。館内にシティレイヤーのパネルはなく、携帯電波も弱い。表示に誘導されず、外から映像を見られる心配も少なかった。6月11日の朝、凪は学内新聞の取材名目で、1階奥の閲覧室を借りた。右に書架、左に大窓。天井灯はつけず、白い朝の光だけが机の上へ伸びていた。「最初に決める」凪は【原記録】【作業用】【外部保管】と書いた3つの封筒を並べた。「原記録には触らない。複製で作業して、誰が何時に触ったか紙に残す」「僕を信用してるのか」「してない。だから手順を決める」凪は作業記録表に午前9時12分と書き、カメラとメモリーカードの番号も記した。手順のおかしい証拠は、内容までおかしいと攻撃される。「ひとつの映像に、別々の角度から見た表示を入れる」僕は小型カメラを固定し、その左右40センチに小型ミラーを置いた。凪が金属製のブックエンドで角度を固定する。左右の反射像を、同じ録画画面に並べる仕組みだった。鏡が少しずれるだけで片方の表示が消えた。正午までかかって完成した装置は小学生の工作のようだったが、同じ時刻の異なる表示を1本の映像で比べられた。……午後、僕らは駅の地下通路で録画を始めた。大型広告パネルの正面に装置を固定し、床へ僕と凪の立ち位置を紙テープで示す。2枚の鏡には、同じ表示面が別々の角度から入った。僕らが入れ替わっても、カメラと鏡は動かさなかった。左の鏡には、凪への旅行広告。右の鏡には、僕への警告記事。【危険思想の拡散

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