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第4話

Author: 糖衣ドロップ
私は狂ったように部屋を飛び出した。

「私の荷物、どこにやったの!?」

それは19年間の人生で、初めて両親に向かって張り上げた声だった。

両親はソファに深く腰掛け、テレビの正月のお笑い特番を見て腹を抱えて笑っていた。

私の怒鳴り声を聞いて半秒ほど呆気に取られた後、二人はスッと顔を曇らせた。

「何、大声出してんのよ」母が眉をひそめた。

「引き出しの中に入ってた日記帳! それから手紙! どこにやったの!?」

私はローテーブルの前に駆け寄り、全身をワナワナと震わせた。

父はゆっくりとみかんの皮を剥きながら、目線すら上げずに答えた。

「ああ、あの紙クズか。母さんに捨てさせた」

「捨てた……?」

頭の中で、ピンと張っていた何かの糸がプツンと切れる音がした。

「どこに捨てたの!?」

母は悪びれる様子もなく、あっさりと答えた。

「マンションの下のゴミ捨て場よ。そんなのいちいち覚えてるもんですか。

あの日記、ネガティブなことばっかり書いてあって気味が悪いったらありゃしない。息が詰まるだの、消えてしまいたいだの、正月早々縁起でもない。裕子さんの手紙も最悪ね。あんたをそそのかして、親に反抗させようとしてるんだから」

「あれだけが、私の生きる支えだったのに……」

ぼう然と呟いた瞬間、せき止めていた涙が一気に溢れ出した。

あの日記帳は、孤独で押し潰されそうな無数の夜に、私が唯一本音をこぼせる場所だった。

あの手紙は、私が今日まで生きてこられた、最後の温もりだったのに。

「生きる支えだと?」

父が突然激昂し、手にしていたみかんの皮を私の顔めがけて投げつけた。

「お前を生かしてやってるのは俺たちだろうが! たかが薄汚いノート数冊で、親の俺にたてつく気か! いいご身分だな!」

父は立ち上がり、部屋の隅に置いてあった木製の折りたたみ椅子を掴み上げた。

「あなた! 頭は叩かないで!」

母の叫び声が聞こえた。

私は避けなかった。

この光景は、あまりにも見慣れすぎていた。

6歳の時。近所の人からもらった飴玉を一つ食べただけで、「卑しい真似をするな」と鼻血が出るまで殴られた。

10歳の時。テストで学年2位になった時、「なぜ1位じゃないんだ」と雪の降るベランダで一晩中正座させられた。

15歳の時。同級生にいじめられてやり返したら、「お前にも隙があるからだ」と加害者の前に引きずり出され、土下座をして謝罪させられた。

折りたたみ椅子が振り下ろされ、目の前が真っ暗になるほどの激痛が走った。私は床にうずくまり、ただ父の荒い息遣いと怒鳴り声を聞いていることしかできなかった。

「よくも親に向かって怒鳴りやがったな! その目はなんだ! 俺はお前の親だぞ!」

母がようやく歩み寄り、父の腕を引いて制止した。

「あなた、もういいわ。それよりこれを見て」

母は私のスマホを拾い上げると、私の手を力任せに掴み、指紋認証でロックを解除した。

メモ帳アプリには、私が消し忘れていた下書きが一つ残っていた。

【裕子伯母さんのいる街の大学院に進学したい】

母はその一行を憎々しげに睨みつけ、しゃがみ込んで画面を私の顔に突きつけた。

「逃げる気? 裕子さんのところに行く気? 私たちから離れるつもり?」

母は父を振り返った。「あなた、この子、すっかり心ここにあらずだわ。大学はもう通わせられない」

父は荒い息を吐きながら頷いた。

「大学に行かせて逃げられるくらいなら、地元の工場ででも働かせろ!」

母は私の目の前で、大学のゼミの担当教官である木村誠一(きむら せいいち)教授の携帯番号に電話をかけた。

「もしもし、木村先生でしょうか。元日早々に申し訳ありません。高橋雫の母です」

母の声は、途端に悲痛で哀れみを誘うようなトーンに変わった。

「実は、娘を休学させたいんです……ええ、そうせざるを得なくて。この子、家で急におかしくなってしまって。お金を盗んだり、親に暴力を振るったり、精神的に深刻な状態なんです」

私は床に倒れたまま、必死に手を伸ばしてスマホを奪い取ろうとした。

「違う! お母さんは嘘をついてる!」と叫びたかった。

しかし声は出なかった。喉の奥は血の泡で塞がれ、肩が砕けそうなほど痛くて身動き一つ取れない。

「学校に戻って、他人の皆様に危害を加えないか心配で……退学になっても構いません。どうせこの子の人生はこんなものですから」

通話が切れた。

母は今度は私のLINEを開き、学年のグループLINEとゼミのグループLINEを見つけると、私の目の前で、私のアカウントからメッセージを打ち込んだ。

【高橋雫の母です。雫は自宅で金品を盗み、親に暴力を振るうなど、精神的に極端な状態にあるため、私たちが強制的に実家で療養させております。もし金銭トラブルや不適切な行動などがありましたらご容赦ください。皆様には多大なるご迷惑をおかけしました】

送信。

画面には即座に「???」や驚愕する顔のスタンプが次々と並んだ。

その瞬間。私が大学で必死に繕い、ようやく築き上げた「普通の女子大生」としての居場所は、母によって完膚なきまでに踏みにじられた。

たとえ大学に戻れたとしても、これからの私は「親の金を盗んで殴りかかる頭のおかしい女」として扱われるのだ。

母はスマホをローテーブルに放り投げ、冷酷な目で私を見下ろした。

「聞いたわね? これからは一生私たちのそばで大人しくしていなさい。どこへも行かせないから。

それと、明日からあんたの部屋のドアの鍵は外すわよ。あんたにプライバシーなんて必要ない」

両親はリビングの電気を消し、寝室へ戻っていった。

家の中は真っ暗になった。窓の向こうには、遠くの夜景の明かりが冷たく瞬いているだけだった。

あなたたちは、私を永遠にこの家に閉じ込めておきたいんでしょう?

いいよ。

私は這うようにして、少しずつ自分の部屋へ戻った。

ベッドの下から、去年裕子伯母さんが買ってくれた赤いパーカーを引っ張り出す。

一度も袖を通したことのない服だ。母に「赤なんて派手で落ち着きがない。みっともない」と禁止されていたから。

私はそのパーカーを頭から被った。

鏡に映る私の顔は死人のように青白かったが、その鮮やかな赤色のおかげで、少しだけ生気を取り戻したように見えた。

机の前に座り、白い便箋を広げて短い文章を書きつけた。

【お父さん、お母さん。私、ようやくあなたたちの望む通りの娘になれました。

ずっと言うことを聞いて、ずっと静かで、一生この家から離れない娘に】

私はカッターナイフを握りしめ、浴室へ向かった。

バスタブに熱いお湯を張る。

お湯に身を沈めると、全身の打撲で青ざめた肩や、熱湯がかかって爛れた手の甲を、温かいお湯が優しく包み込んだ。

ああ、なんて気持ちいいんだろう。

私は刃を高く振り上げ、一瞬の躊躇いもなく手首に当てた。

そこには恐怖ではなく、待ちきれないような快感すらあった。

痛みは感じなかった。

ただ、身体が少しずつ軽くなっていくのを感じた。

私を縛り付けていた理不尽なルールも、容赦ない罵声も、絶え間ない暴力も。すべてが手首の傷口からお湯の中へと流れ出ていく。

窓の外から、新聞配達のバイクの音が微かに聞こえてきた。

夜が明けた。

あけましておめでとう、雫。

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