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第三章 第69話 主の温情に縋るが良い

Auteur: 輪廻
last update Dernière mise à jour: 2025-06-29 11:00:39
涙の王国方面にて勃発したハルモニアと聖教会諸勢力の争いは、早くも最終局面を迎えていた。

初戦を快勝した"軍神"エリゴール率いる帝国第三軍は、勢いそのままに各国の軍勢を次々に撃破。複数の国軍で構成された連合軍故、統率が乱れている聖教会勢力は苦戦を強いられていた。

連合軍の主戦力たる聖教騎士団は、第五騎士団・第六騎士団ともに涙の王国の国境付近に布陣して以降、頑なにその場から動こうとはしない。彼らは上官たる騎士団長レヴィの命により、エリゴールとの交戦を避け、睨み合いに徹する考えだった。

──"彼の軍神と尋常なる戦をしていては、命が幾つあっても足りぬというもの" 。

レヴィの判断は、ことエリゴールを相手にする場合に於いては最良のものであると言えた。聖教会の土地を守るだけならば、国境に兵を配置して睨みを利かせ、帝国第三軍を涙の王国に釘付けにしておけば良いのだから。下手に相手と交戦するだけ、兵や物資の無駄というものである。

果たして、他国の軍勢が軒並み、帝国第三軍の攻撃を受けて補給線を断たれ、前線で孤立してゆく中、聖教騎士団だけは全くの無傷であった。

一方、補給線を断たれた各国の軍中では餓死者が相次ぎ、士気は底をついていた。死んだ仲間の肉を貪り、僅かに残された食糧を巡り、身内同士で不毛な争いを繰り広げる。この世の地獄の全てが、そこにはあった。

後方に控える聖教騎士団に何度も救援を要請するも、未だ援軍の影一つない。余りにも距離が離れ過ぎており、使者の殆どが道中で力尽きて落命、或いは逃亡していたからだ。

補給線は断たれ、前線にて孤立し、周辺には魔族や堕罪者が跋扈。これだけでも十二分に絶望的な状況だと言うのに、それに追い討ちをかけるように、前方にはエリゴール率いる帝国第三軍の主力部隊が布陣し、威風堂々たる陣容をこれでもかと見せ付けてくる。

精神的にも肉体的にも追い詰められた将兵。正常な判断力を失いつつある彼らの前に蜘蛛の糸を垂らすが如く、エリゴールは優しく告げる。

──"速やかに降伏されたし。投降するのであれば、それ相応の待遇を保証しよう"。

敵将の、それも多くの同胞を殺した、恐ろしき堕天使の甘い言葉。多くの将兵は、それを戯れ言だと思った。

だが、中にはそうではない者も当然いる。

祖国に絶対的な忠誠を誓っているわけでもなく、軍人とし
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