Masuk「……KENGO」
この世界では最強の男。ボスに勝てる人なんてきっといない。 ボスの強さを知っているからこそ、私は強くなりたい。 今よりももっともっと、強くなりたい。そしてボスに認められたい。 私はただそれだけを生き甲斐にしている。
誰にも邪魔はさせない。私の復讐を終えるまでは、絶対にーーー。 ✱ ✱ ✱ 「南川先生、おはようございます」「おはようございます、中野先生」
私の表の職業は、高校の教師だ。担当教科は現代文だ。
「今日は少し寒くなりそうですね」
「そうですね」
天気予報ではにわか雨が降るかもとのことであったが、いまいち優れない天気に偏頭痛がやってきそうなくらいだ。
ただでさえ夏が終わりを迎えて涼しくなってきたと思いきや、すっかり秋模様になってきたし。「そろそろジャケット出さないとですかね」
「そうですね。コートも出しておいた方がいいかもですね」
なんて他愛もない話をしていると、自分の裏の顔は知られたくないと感じる。
むしろ知られる訳にはいかない。バレたらきっと、私は学校を辞めなければならなくなる。……それだけは、絶対に困る。両親が死んだことは伝えているが、まさか両親の復讐のために殺し屋をやっているだなんて、そんなことが知られたら大変なことになるのは目に見えている。
「南川先生、今度の日曜日合コンがあるんですけど先生も良かったら来ませんか?」
「え、日曜日……ですか?」
日曜日は確か……ボスから次の司令が来る日だ。
「すみません、日曜日はちょっと……用事が」
「え、そうなんですか?」
「はい。……日曜日は、両親の命日なんです」
言い訳をするつもりはなかったが、本当のことを言える訳もないのでそうウソを付いた。
「あ、そうなんですか……。じゃあ仕方ないですね」
「本当にすみません。せっかく誘っていただいたのに」
日曜日はボスから次の抹殺相手を知らされる日だ。どうしても抜ける訳にはいかない。 次のターゲットは、一体誰なのか……。「いえ、また誘ってもいいですか?」
「もちろんです」
教師という建前、誘いを断るのは心が病むところがあるけど、これも本職のため。仕方ない。
「今度は絶対に来てくださいね?南川先生」
「もちろん。行かせていただきます」
と笑顔で返してはみるものの、合コンなんてものは所詮男が欲しい女の集まりにしか過ぎない。
私はそんな女なんかじゃない。 私の目的はただ一つ、男を抹殺することだけ。依頼があれば、どこへでも駆けつけると決めている。
例え火の中でも水の中でも、嵐だろうが何だろうがどこへでも駆けつけるのが、殺し屋の仕事だ。私は絶対に男には媚びない。そしてターゲットなら誰であろうと抹殺する。
それがボスの依頼なら、誰であろうとね。「絶対に南川先生なら、イイ男寄ってきそうですよね」
「え?そんなことないですよ!」
と言いつつも、内心はイイ男ほど殺し甲斐があると思ってしまう。 イイ男が藻掻いて嘆いていく姿を見るだけで、私はやり甲斐を感じれるのだ。「絶対そんなことある!南川先生かわいいもん」
「いやいや!そんなことないですよ」
男なんて皆、信用出来ない。男はすぐに女を裏切る。
男なんてクズな生き物。 でも唯一信じられるのは、ボスだけ。ボスだけは、誰に何を言われても信じられる。ボスは私の味方、そして私の命の恩人。ボスがいれば、私は他に何もいらない。
ボスに抱かれることで幸福感を感じる。私はボスさえいれば、もう何もいらないの。「南川先生のために、とっておきのイケメン用意しておきますから」
イケメンなんて所詮は顔だけよ。そんなもの、何も信用出来ない。
「あら、もうこんな時間」
「ホームルーム始めないとですね」
足早に去っていく先生たちをちらっと見ながら、私はため息をこぼす。
そんなもののどこが楽しいのだろう。私は愛なんて知らないし、そんなものはいらない主義だ。
殺し屋に愛なんてものは必要ないし、変な感情でいざこざが起きるのも面倒だ。 そんなものにすがるくらいなら、男なんて作らない方がマシなんだ。今一番辛いのは、何より荒井さん自身だと思う。 だからこそ私たち教師は、生徒一人一人に対して向き合って行かないとならない。「荒井さん、辛いのに話してくれてありがとうね? 荒井さんの気持ちは、先生にもよく分かるよ」こんなことを言うのは、気休めにしかならないかもしれない。「荒井さん、恋をするのは本能だから。それを誰にも止めることは出来ないよ。 誰かを好きになる気持ちなんて、止めることは出来ないもんね」「先生……」「先生も人を好きになることあるから分かるけどさ、抗えないんだよね。誰かを好きになることって」私には正直に言うと、恋なんて分からない。私には恋なんて不必要だから。恋なんてしても、幸せにはなれない。 私にはやるべきことがあるから。「ありがとう、先生」「荒井さん、またいつでも相談してね? 先生、いつでもみんなの味方だから」 教師という立場上、生徒たちのいざこざが起きた時速やかに対応しないとならないけど、それだって教師という仕事の範囲だからだ。「先生、本当に優しいんだね」「そんなことないよ? 先生はみんなに楽しく学校生活を送ってほしいだけ」私には先生なんて、そんな立派な肩書きなんてない。ただ教師という仕事を全くしているだけ。「……将来は先生みたいな人になりたいな」「ありがとう、荒井さん」私にはそんな純粋な心はない。 でも私は、教師という仕事も大切にする。「先生、さようなら」 「はい、さようなら」放課後になり、部活動のない生徒たちは次々と昇降口から出て来る。「先生、またね。さようなら」「はい、さようなら。気を付けて帰るのよ」「はーい」元気な生徒たちを見ていると、元気がもらえるのは確かだ。生徒の明るい笑顔は、私たち教師を笑顔にしてくれることが多い。教師をになって良かったことも多いし、教師になったことに後悔などない。でも私には、教師という傍ら殺し屋というもう一つの仕事がある。 そっちのほうが本業と言っても過言ではない。教師になったのも、両親の影響だから。「じゃあ、お先に失礼します」「あ、お疲れ様でした」「お疲れ様です」教師をという仕事を終えた私は、一度家に帰るため車のエンジンをかける。そしてカバンから、もう一つのスマートフォンを取り出す。スマートフォンの電源を入れると、ボスから不在着信が入っていた。「もしも
「梓咲、締め付けすぎ……」 直弥は私の身体をギュッと抱きしめてくる。そうやって厭らしく笑う直弥は、私の奥を責め立てるように激しくしてくる。 「あぁっ、ダメッ……」 そんな直弥の動きに合わせて甘く妖艶な声を漏らす私に、直弥は「ダメじゃないだろ?これがいいんだろ?」と耳元で吐息まじりで囁いてくる。「ん、すごくいい……」「元カレより?」 【元カレより?】って聞いてくる所が、男だなって思う。 本当に男って、プライドが高い生き物ね。そろそろ絶頂を迎えそうな直弥に、私は「イッていいよ」と一言促す。「んっ……! あぁっ!」こうして私は、直弥を簡単に落とすことに成功した。もちろん、直弥との情事の様子はバッチリと録画した。私の計画は完璧だ。「今日はとても楽しい夜だったわ。ありがとう」「なあ梓咲、また会ってくれない?」【また会いたい】そう言わせるのが私のやり方。セックスして気を良くしている男をそう思わせるなんて、実に簡単なことだ。本当に男って単純だし、チョロい。「……また?」「だって梓咲、すげぇイイ女だし。……それに、梓咲とのセックスはマジで最高だったから。出来ればまた会いたい」ーーー絶対にそう言うと思った。「……私も、今日はとても最高の夜だった。あなたとの情事」さて、あなたはなんて言う? 教えて、あなたの答えをーーー。✱ ✱ ✱「はい、今日の授業はここまでにします。 明日は六十ページから始めますので、ここまで復習しておいてね」授業の終わりを知らせるチャイムが鳴った私は、生徒にそう伝える。 生徒たちは「はい」と返事をし、次の授業の準備をしていく。「みんな次移動教室だから、遅れないようにしてね」「はーい」ここの生徒は皆いい子たちだ。私の勤める山辺北(やまべきた)高校は、今後は有名大学への進学に期待がかかっている。私が高校の教師になろうと思った理由は、ひとつだけ。 両親が教師だったから、ただそれだけだ。教師という仕事もどちらかというと好きな方。でもやはり甲斐を感じるのは、裏の仕事の方だ。私は殺し屋として働くその瞬間が、何よりも甲斐を感じる。……ボスの元で働くその瞬間が、私とって何よりやり甲斐を感じさせてくれる。「先生、大変です!」「荒井さん? どうしたの?」「中庭で、航平くんたちがケンカしてるの!」「え!? ケンカ!?」
「マスター、お釣りはいらない。こちらのお姉さんの分も入ってるから」「かしこまりました。いつもありがとうございます」そして彼は私の手を引き、そのままバーを後にする。「お姉さん、俺に着いてきて」「……分かったわ」彼は私のターゲット。ここまで来た時点で、私の勝ち。彼と身体を重ね合わせれば、私の勝利だわ。 この身体を武器に、私はこうやって生きている。彼の後を着いていくと、着いた場所はちょっと高級そうなラブホテルだった。「ねぇ、この部屋でもいい?」「うん」彼は手慣れた様子でホテルの部屋にチェックインすると、私の手を引いてエレベーターに乗り込む。カードキーをドアにかざすと、私の先に部屋の中へと入れる。「先シャワー浴びてもいい?」彼は先にシャワーを浴びたいと言い出す。私は「どうぞ」と一言声をかけると、ベッドへと腰掛ける。 「すぐに出るから、ちょっと待ってて」「焦らないでいいよ。……夜はこれから、でしょ?」そう言って笑う私に、彼は「今日は最高の夜になりそうだな」と厭らしい言葉を吐き、そのままバスルームの扉を閉める。その間に私は、ベッドの下にボイスレコーダーを設置し、彼から見えない場所に隠しカメラを設置していく。これで証拠はバッチリと押さえられる。証拠はしっかりと残すのが、殺し屋の仕事だから。その後彼がバスローブを着てバスルームから出てきたことを確認し、私も手早くシャワーを浴びる。 ボスに何度も抱かれてきたこの身体を武器に、私は何人もの男を抹殺してきた。ターゲットの抹殺のためなら、私は自分の身体を犠牲にだってする。 初対面の男とこうやって身体を重ね合うことさえも厭わない。それが私の殺し屋としてのやり方だからだ。このやり方が間違っているとも思ってはいない。 それに男に媚びない私には、これがピッタリのやり方だからだ。このやり方で、私はターゲットを抹殺してきたのだから。「お姉さん、名前は……?」 私の身体を厭らしく触る彼は、私にそう聞いてくる。「……梓咲(あずさ)」 もちろん偽名だ。初対面の男に本名なんて教える訳はない。「梓咲か……。君にピッタリの名前だ」「あなたは……?」そう問いかけると、彼は私が殺し屋だということを知らずに本名を名乗った。「今だけ、梓咲って呼んでいい?」「……いいよ」本当にバカな男だ。この男は私
✱ ✱ ✱「いらっしゃいませ」「こんばんは。 ここ、座ってもいいですか?」そして次の週の土曜日の夜十八時すぎ、私はこのバーに潜入を開始した。「どうぞ。 ご注文はいかがいたしますか?」「そうですね……。じゃあジントニックを、お願いします」「かしこまりました」 彼がよく座るとされる席の近くに腰掛け、ジントニックを注文する。「お待たせいたしました」「ありがとうございます」目の前のジントニックが、コースターの上に置かれる。「お客様、うちのご来店は初めてですか?」バーテンダーからそう聞かれ、私は「はい。初めてです」と答える。「ごゆっくりどうぞ」「ありがとうございます」 ジントニックをゆっくりと飲みながら、彼が来るのを待つ。彼はまだ来ないわ……。本当に来るのかしら?しかし十九時を過ぎた頃、彼はついにここに現れた。「……来た」あの男が潮江直弥か。 私はスマホを取り出し、ボスに【現れました】とメッセージを送る。あの男が彷徨いていた男ね……。画像で見るよりもなかなかいい男じゃない。 「マスター、いつものね」「かしこまりました」 彼はここの常連のようだ。さっきの言葉から頻繁に来ていることが分かる。「お客様、次は何を飲まれますか?」バーテンダーから唐突に聞かれ、私は「じゃあ……ハイボールを」と注文する。「お姉さん、見ない顔だね?ここ初めて?」そして思惑通り、彼は私に対してそう口にする。「はい。今日が初めてです」嘘偽りの笑みを浮かべると、彼は私に「お姉さん、せっかくだしさ。今日は俺と一緒に飲まない?」と言ってくる。「……でもいいんですか? お兄さん、カッコイイから他に一緒に飲む人いるんでしょ?」 わざとらしくそう言った私に、彼は「いないよ。俺はいつも一人だからね。 な?マスター」とマスターらしき人を視線を送っている。「……そうですね」 ここのマスターはクールな人なのね。「じゃあ、ご一緒してもいいですか?」「もちろん。君みたいな可愛い子なら、大歓迎だよ」ーーー掛かった。間違いなく彼を落とせる。「ありがとうございます」私は彼の隣に移動し、彼と乾杯を交わす。「君との出会いに、乾杯」「乾杯」グラスを交わすと、彼は嬉しそうに笑っていた。「ねぇ、お姉さんは彼氏いないの?」「いないです。この前別れたば
男なんて……私はいらない。邪魔になるだけ。そうだよね?ボス……。それは教えてくれたのは、あなたですよね? 復讐のためなら、愛を犠牲にすることを厭(いと)わないのが殺し屋なんだよね?例え愛した人でも、殺すべき人なら殺すと、ボスは前に言ってたことがある。 愛は復讐において、最も邪魔な存在なんだと。だから私は、それを信じる。絶対に愛に縋ったりはしない。縋ったりなんて、しないーーー。✱ ✱ ✱「ボス、お疲れ様です」「お疲れさん」そして日曜日、私と他の仲間はボスの元を訪れていた。「お前たち、次の仕事だ」「はい」次の抹殺相手は、一体誰だろうか? まあどんな相手でも、私はひるまない。「次の仕事は、春沼製薬の春沼の秘書である、高田という人物からの依頼だ」「春沼製薬?」春沼製薬って……謎に包まれたあの人型(ひとがた)ウィルスに感染した人のための飲むワクチンを開発したというあの、春沼製薬?なぜ春沼製薬から依頼が? しかもその秘書って……?「春沼製薬の高田という人物からの依頼は、ただ一つ。春沼という男の命を狙っている者を抹殺して欲しいという依頼だ」「……命を狙われている?」ということは、その春沼という男を狙っている人物がいる?「何でも春沼会長の元に、脅迫文らしき物が届いたらしい」「脅迫文?」ということは……春沼は誰かに脅されている?「お前たちはその人物を特定し、急いで抹殺しなさい」まずはその人物を見つけ出す必要があるってことか……。なるほどね。「なお、これは極秘任務だ。 春沼会長が命を狙われていることは、本人と秘書の高田という男しか知らない」「どういうことですか?ボス」と問いかけると、ボスは「春沼製薬の社員たちを混乱させたくないからと、会長直々のお願いだ」と答えた。「……なるほど」でも騒ぎが大きくなれば、混乱を招かざるを得ないだろうし……。どうやってその人物を見つけるかが、カギになりそうね。「秘書の高田の話によると、春沼を恨んでいる人物に心当たりはないらしい。春沼は優しくて社員思いで、恨まれるような人でもないということだ」恨まれるような人でもない、か……。果たして本当にそうなのだろうか。なんとなくこのミッションには何か裏があるような、そんな気がする。「ボス、一つよろしいでしょうか?」「なんだ?朱里」ボスは私に視線を
「……KENGO」 この世界では最強の男。ボスに勝てる人なんてきっといない。 ボスの強さを知っているからこそ、私は強くなりたい。 今よりももっともっと、強くなりたい。そしてボスに認められたい。 私はただそれだけを生き甲斐にしている。 誰にも邪魔はさせない。私の復讐を終えるまでは、絶対にーーー。 ✱ ✱ ✱ 「南川先生、おはようございます」「おはようございます、中野先生」私の表の職業は、高校の教師だ。担当教科は現代文だ。「今日は少し寒くなりそうですね」「そうですね」天気予報ではにわか雨が降るかもとのことであったが、いまいち優れない天気に偏頭痛がやってきそうなくらいだ。 ただでさえ夏が終わりを迎えて涼しくなってきたと思いきや、すっかり秋模様になってきたし。「そろそろジャケット出さないとですかね」「そうですね。コートも出しておいた方がいいかもですね」なんて他愛もない話をしていると、自分の裏の顔は知られたくないと感じる。 むしろ知られる訳にはいかない。バレたらきっと、私は学校を辞めなければならなくなる。……それだけは、絶対に困る。両親が死んだことは伝えているが、まさか両親の復讐のために殺し屋をやっているだなんて、そんなことが知られたら大変なことになるのは目に見えている。「南川先生、今度の日曜日合コンがあるんですけど先生も良かったら来ませんか?」「え、日曜日……ですか?」日曜日は確か……ボスから次の司令が来る日だ。「すみません、日曜日はちょっと……用事が」「え、そうなんですか?」「はい。……日曜日は、両親の命日なんです」言い訳をするつもりはなかったが、本当のことを言える訳もないのでそうウソを付いた。「あ、そうなんですか……。じゃあ仕方ないですね」「本当にすみません。せっかく誘っていただいたのに」 日曜日はボスから次の抹殺相手を知らされる日だ。どうしても抜ける訳にはいかない。 次のターゲットは、一体誰なのか……。「いえ、また誘ってもいいですか?」「もちろんです」教師という建前、誘いを断るのは心が病むところがあるけど、これも本職のため。仕方ない。「今度は絶対に来てくださいね?南川先生」「もちろん。行かせていただきます」と笑顔で返してはみるものの、合コンなんてものは所詮男が欲しい女