Mag-log inそう言って名乗り出てくれたのは幼い頃からセレスティンの世話をしている専属侍女のハンナだった。
ハンナは、唯一侍女の中でもセレスティンを慕い、傍にいてくれた。「いや、今はセレスティンに命令しているんだ。いいから、行ってこい。まったく、それぐらいの融通が利かないのか?」
「は、はい」
理不尽だと思ったが、皇太子の命令は絶対だ。渋々セレスティンは取りに行く。
しかし去り際にウィルモットはカトリーヌに、「いや~まったく役の立たない婚約者で、すまない。少しでも聖女である君のように、国の役に立てばいいのだが、ただ傲慢で威張り散らしているだけでさ。俺も気苦労が絶えないよ」
と、まるでセレスティン自身に問題があるかのように言ってくる。
(そんな……私はウィルモット様のためと思って、行動しているのに)
いわれのない悪口にセレスティンの心は深く傷つく。
悲しみのあまり、早々とその場を後にする。ウィルモットの部屋まで時間がかかる。 階段の上り下りだけだって大変なのに、セレスティンに取りに行かせた理由は1つしかない。ただセレスティンが邪魔だったのだろう。 婚約者が傍にいてはカトリーヌと、いちゃつけない。だから、なかなか帰って来られないようにしたかったのだろう。(そこまでして……聖女様と一緒にいたいの?)
ウィルモットにとったら可愛くない婚約者よりも、純粋で可憐なカトリーヌの方が魅力的だとしても、これはあんまりだ。
溢れてくる涙を拭きながらウィルモットの部屋からプレゼントを取ってきた。箱の中身はピンクダイヤモンドの宝石がついたネックレスだった。 国の中でも貴重で高価とされている宝石。皇族や身分の高い貴族ではないと、なかなか手にすることが出来ない品物だ。(私には宝石すら貰ったことがないのに……)
セレスティンは絶望を味わいながら部屋を出ていく。ふらふらした足取りで廊下を歩いていると、メイドたちの話し声が聞こえてきた。
「本当に聖女様って素敵よね。セレスティン様と大違い」
「なんか噂によると、殿下は婚約破棄を考えているらしいわよ? 聖女様を新しい婚約者にしたいからって」
「えっ? そうなの? でも、当然よね~扱い方が全然違うし」
その場を立ち聞きしてしまったセレスティンはショックを受ける。令嬢だけではなく、メイドたちまで、そんな噂が出回っているなんて。
このままでは、婚約者との立場が危うくなってしまう。皇妃になるために厳しい教育に耐えてきたのに。 セレスティンは、どうしようもない不安と焦りが襲う。(どうにかして食い止めないと)
どうしたらいいのか分からない。だが、今のままでは良くないだろう。
せめてカトリーヌとウィルモットの距離感を改めてもらわないといけない。近過ぎるから変な誤解を生むのだろう。 セレスティンは、そう考えてながらメイドを去るのを待ってから、廊下を再び歩き出す。 そして1階に下りたぐらいの時だった。「あ、セレスティン様~」
慌てて小走りになりながら追いかけてきたのは他でもないカトリーヌだった。
「えっ? 聖女様!? どうして」
必死に走ってきたのだろう。ハァハァッと息を切らしながらこちらに来る。
お茶会をしているはずの彼女が、どうして追いかけてきいたのだろうか? セレスティンは驚くがハッとする。令嬢が走るのは、はしたないとされる時代。これを他の人に見られたら聖女としての評判に関わる。レンデルは冷静に答えるが、それでもウィルモットは引き下がらない。「それなら何故、こんなガキを連れてくるんだ? 聖女の葬式だぞ? そうでもなくても、皆が悲しんでいるのに」「……だったら、なおさらだろ? この子は俺の母の友人の子だ。聖女が亡くなったと聞いて、会いたいと泣くから連れてきただけだ」 レンデルのフォローにハッとしたセレスティンは、慌てて泣く真似をする。このままでは怪しまれてしまうからだ。「ご、ごめんなさい。だって……せいじょさまにあいたかったんだもん」 必死にしくしくと、本当に泣いているかのように鼻をすすったり、目を手で隠したりする。すると掴んでいた手をレンデル目がけて投げてきた。 レンデルは、そのままキャッチしてくれたが。子供を投げ飛ばすとか信じられないとセレスティンは恐怖を覚えた。「だったら、大人しくしているように見張っとけ。まったく、どいつもこいつも俺に逆らってばかりだな」 ウィルモットは、ブツブツと文句を言ってくるので、何かを探ろうとセレスティンの方から口を開いた。なるべく幼女っぽい言葉づかいで。「ど、どうして、せいじょさまが……しんじゃったの? ママがわるいひとに、ころされたといっていたけど……ほんとう?」 なるべく何も知らないように。 少しでも情報になるヒントが見つかればと思って。 するとウィルモットの顔色が変わる。荒々しい言葉づかいと態度で、「ああ、そうだ。セレスティンという大悪女にな!? あの女は、俺と聖女の仲を嫉妬して殺したんだ。あの女さえ、いなかったら上手く行ったのに。あの女は、生意気で、可愛げがなくて、本当に鬱陶しいだけの」 と、次々とセレスティンの悪口を言いふらしてきた。まるで憎んでいるかのように。 しかし最後まで言い終わる前に、レンデルはウィルモットの頬を殴りつけた。 殴られた衝撃で後ろに倒れ込んだウィルモットを見て、セレスティンは啞然としてしまう。ウィルモットの頬は赤く腫れあがっていた。「き、貴様。皇太子である俺を殴るとは、どういうことだ!?」「仮にもお前の婚約者だった人だろう? よく恥ずかしげもなく彼女を侮辱できるものだな? 恥を知れ」 普段のレンデルと違って、声を荒げて怒ってくれた。だが、そんなレンデルが気に食わないウィルモットはすぐさま立ち上がり、彼の襟を掴んだ。「なんだと!? 貴様こ
シャノンの決めてくれた通りに、友人の子で聖女に憧れていた設定にする。 葬儀のために喪服を着ると、馬車で神殿に向かう。たくさんの人たちが嘆き悲しんでいた。 貴族だけではなく民までいる。カトリーヌがどれだけ慕われていたのかが分かる。 棺の中心でトリスタンが泣いているのは見えたが、アンナの姿は何処を探してもいなかった。イトコだから来ていてもおかしくないのに。 不思議に思っていると、民や貴族がコソコソと噂話をしているのが聞こえてきた。「聞きました? 聖女様が亡くなったのは、あの悪女・セレスティン公爵令嬢が殺したからですって」「なんて恐ろしい。聖女様に嫉妬して、そこまでやるなんて」「偉大な聖女様がやっと、この国に現れてくれたと思ったのに……なんて罰当たりなことを。早く捕まって死刑にすればいい」 その内容は、カトリーヌを殺したのはセレスティンだというものだった。 いつのまにか、その話題は民にまで流れてしまっている。怒りと悲しみで、口々とセレスティンのことを悪く言っている。 すると、その声を聞いたウィルモットは涙を拭きながら、集まった貴族や民の前に立った。「皆の者、よく聞け。国始まって以来の偉大な聖女が死んだ。その大切な命を奪ったのは、セレスティン・アーノルド公女だ。俺と聖女の仲を嫉妬し、よりにもよって聖女の胸をナイフで刺すという、非道最悪な方法で殺した。それを許していいのだろうか?」 まるで演説をしているかのように大声を張り上げて訴えてくる。 これでは、本当にセレスティンがカトリーヌを殺したように聞こえてくる。しかしウィルモットの言葉は止まらない。「ここに宣言する。セレスティンは今日もって婚約を破棄とする。そして聖女・カトリーヌを殺害した容疑で逮捕すると。あの女はどの方法で脱獄したか分からないが、もし見つけた者や捕まえた者には皇宮から褒美を贈る。聖女のために、協力を頼む」 ウィルモットのかけ声に、特に民たちは賛成の声や拍手があがる。 それを望むようにトリスタンが絶賛されていて、セレスティンはひどくショックを受ける。まるで自分が本当の悪役令嬢……いや、殺人者にされてしまうなんて。 しかも婚約破棄まで。あまりに衝撃が大き過ぎて足元がふらつく。 後ろに倒れそうになるセレスティンを支えてくれたのはレンデルだった。「大丈夫か?」「レンデル……さ
カトリーヌとの仲や、このような事態になったことまで詳しく話した。 しかし話につれて、ある疑問に気づく。(やはりおかしいわ。あの時に呼びにきたのはアンナなのに、なぜ彼女は黙秘しているの?) 一緒に来たはずのアンナの姿はどこにもなかった。本当なら同じ現場を目撃しているか、何か情報を掴んでいるはずだ。(それに皇帝の呼び出しと言っていたのに、私があれだけ騒いでも起きてこなかった。意識があったのなら気づくはず……だとしたら彼女がカトリーヌを?) うーんと考え込んでいると、それに気づいたレンデルは、「どうした? 何か悩みことか?」 と、心配そうに聞いてくれた。セレスティンはハッとして首を横に振るう。 まだ確証が持てない以上は、下手に話さない方がいいかもしれない。向こうに気づかれたらシャノンの身も危険にあわせてしまう。 するとシャノンは何かを思いついたようにニコッと笑った。「そうだわ。このままだとまずいから。偽の身分を作りましょう。私の友人の子で、しばらく預かっていることにして。名前は……そうね。『キャサリン』がいいかしら?」 身を隠す間の仮の名前をつけてくれた。 確かに『セレスティン』という名前のままだと怪しまれる。子供になったとしても、身分がハッキリしていないと不自然に思われてしまう。 特に皇宮の人たちには少しでも疑われないようにしないと。「とりあえず君は、ここの生活になれるまで俺も泊まり込んでサポートしよう。あと犯人探し。疑わしい人物を見つけて、動機や、その日の行動を調べる」「は、はい」 まさかレンデルが泊まり込みでサポートしてくれるとは思わなかった。 少し何を考えているのか分からなくて戸惑っていたが、本当は優しい人なのでは? と思ってしまう自分がいた。(私は、まだレンデル様のことを何も知らない) 外からの得た情報や噂話ぐらいでしか彼がのことを知る機会はなかった。(これから知っていけるかしら? レンデルの本当の性格や本心とか) しかし、今はそんなことを考えている暇はない。 セレスティンは、そう自分に言い聞かせて事件の真相を解いていく決心をするのだった。 その後、キャサリンと生活をすることになったセレスティン。 何処で情報が漏れるか分からないので、とりあえずレンデルとシャノン以外には警戒することに。 メイドと執事長でも明ら
「凄い……本当に魔法みたいな薬って、実際していたのね!?」 その効果に驚くも、セレスティンは事実だったことに感動する。しかしレンデルは慌てるように近くに置いてあった大きめの袋を取ってくる。「詳しい話は後で聞く。とりあえずこの中には入って。子供が入るぐらいの大きさだから、疑われずに済むだろう」 レンデルは持ってきた袋は、確かに小さな子供が入れるぐらいのサイズだ。これなら他の人たちに見つからないように逃げられるかもしれない。 セレスティンは恐る恐る、その袋に入る。 レンデルは、袋を持って肩に抱えると地上に上がっていく。暗くて狭い袋の中では、外の様子がどうなっているのか分からない。だが、安全には行けているようだ。 馬車までたどり着くと、それに乗り込みと走り出す。身の安全を確認した後に袋の中を開けてセレスティンを出してくれた。「とりあえずこれでも羽織っておけ」 その効果に驚くも、セレスティンは事実だったことに感動する。しかしレンデルは慌てるように近くに置いてあった大きめの袋を取ってくる。「詳しい話は後で聞く。とりあえずこの中には入って。子供が入るぐらいの大きさだから、疑われずに済むだろう」 レンデルは持ってきた袋は、確かに小さな子供が入れるぐらいのサイズだ。これなら他の人たちに見つからないように逃げられるかもしれない。 セレスティンは恐る恐る、その袋に入る。 そう言ってレンデルが黒いローブを頭に被せてきた。「えっ? あっ……キャアッ」 よく見たら小さくなったせいでドレスが脱げてしまい、生まれたままの姿になっていた。危うく恥ずかしい姿を見せるところだった。 セレスティンの頬を赤くしながらローブを羽織っていると、馬車は森の奥に入っていく。「あの……どちらに向かわれているのでしょうか?」 セレスティンの実家がある方向ではないようだが?「ああ、俺の実家。つまり母が住んでいる離宮に、一時避難しようと思ってな」「離宮ですか!? シャノン様が住んでいる……あの?」 離宮といえばレンデルの母親で皇帝の側室であるシャノン・アルバーンが住んでいる屋敷だ。 側室なのだが、もともと体が弱く、病弱のために病養として離宮に移り住んでいるとされているが、本当は皇后が嫌っており、森奥に追い出したと噂がある。 レンデル自身は騎士になってからは寮に住んでいるら
「そんな……」 まだ、弁解もなにもしていないのに。急に決まった死刑判決に啞然とする。 セレスティンは檻の鉄格子に掴まり、必死に訴えようとする。このままでは、本当に無実の罪で殺されかねない。「皇后様。ですが……これは」「ああ、本当に残念だわ。でも……聖女が亡くなった以上は、仕方がないことよね」「えっ……?」「明日は、その足で死刑台に上がってちょうだい。いい? どうせ逃れられないのだから、余計なことは言わないこと。そうすれば、あなたの家族だけでも助けてあげるわ」「ま、待ってください!?」 セレスティンの表情は青白くなっていく。助けてくれるどころか、余計なことを言うなと言われてしまった。しかも家族を人質にされて。 皇后はボソッと何かを呟くと、そのまま帰ってしまう。取り残されたセレスティンは、ただ頭が真っ白になり絶望していた。(このまま私は死刑台に上がって、皆が見ている前で首を吊らないといけないの?) カトリーヌを殺してはいない。それどころか、いつも優しくて、悪女と呼ばれていたセレスティンにとっては、初めて出来た親友だった。 もっと仲良くなりたかった。 お茶を飲みながら、たくさんお喋りをして、笑い合いたかった。 そう思ったセレスティンの目尻には涙が溢れてくる。どうしようもなく悔しくて、切ない。 遅くの時間まで泣き崩れていると、また誰かが入ってくる気配が。すると近くにいた看守の人は悲鳴を上げて倒れ込んだ。 セレスティンは恐怖で顔を上げると、その人影はレンデルだった。「……助けに来た」「レンデル様。どうして?」 まさか第2皇子である彼が助けに来てくれるとは夢にも思わなかった。 レンデルは倒れている看守から鍵を奪うと、牢の扉を開け、手を差し出してくれた。「君は、こんなことをする女性ではないはずだ。助けてやるから、一緒にここから出よう」 レンデルはセレスティンの無実を信じてくれた。それは思いがけないことで、セレスティンは動揺を隠せない。 戸惑いながらも、その手を受け取り、牢の外に出るとレンデルは透明の小瓶を取り出した。「これを飲むといい。魔塔に作ってもらった体を小さくする薬だ。これを飲めば、一時的でも正体を隠すことが出来るはずだ」 手に渡されたのは、体を小さくする魔法の薬だった。(こんなものを私のために? 本当
ガチャッガチャッとドアをこじ開けようとする騎士たち。でも、丈夫にドアになっているため、そう簡単には開かない。 するとウィルモットの声が聞こえてきた。「お前ら一体何をしているんだ!? それにあの声は何だ? 悲鳴のようだったが」「それが……鍵がかかっていまして、悲鳴もこの中から聞こえてきました」「何だと? お父様の部屋に……とにかく、鍵を持って来い」「は、はい。鍵は宰相である父がマスターキーとして持っているはずです」 トリスタンの声も聞こえる。慌てて予備のマスターキーを取りに行く。 鍵は、部屋の持ち主か宰相しか持っていないはずだ。 しかし、このままでは自分が犯人にされてしまう。 セレスティンは動揺を隠せないながらも、必死にキョロキョロと辺りを見回す。騒ぎになっても目を覚まさない皇帝。窓もしっかりと閉まっていた。 これでは完全の密室だ。 そうこう言っているうちに、鍵を開けられる。そしてウィルモットが中心になって中に入ってきた。 目の前には血まみれで倒れた聖女のカトリーヌと、血が付いたナイフが落ちた密室現場。そして手に血をつけたセレスティンが。「か、カトリーヌ!?」 ウィルモットは大声を上げながら、カトリーヌの傍まで駆け寄り、急いで抱きかかえた。冷たく遺体となってしまったカトリーヌ。「お前が聖女を殺したんだ!? セレスティン」 ウィルモットは涙を流しながら怒鳴り散らした。そしてセレスティンが犯人だと決めつけてきた。(そんな!? 違う……私じゃないのに) セレスティンは慌てて否定しようとする。このままでは殺人事件の犯人にされてしまう。 ち、違います。私は、殺してなんていません」「じゃあ、誰がカトリーヌを殺すと言うんだ!?」 誰が殺したと聞かれても犯人は分からない。一瞬アンナの顔が浮かんだが、彼女がやったという証拠はない。 戸惑うセレスティンにウィルモットは、さらに冷たい目をしてくる。「答えられないのがいい証拠だ。貴様以外はいないのだからな。早く、この女を牢にぶち込んでおけ」 ウィルモットは容赦なく、そう言い放った。騎士たちは、セレスティンを押さえ込む。必死に抵抗するが強く腕を掴むので痛い。 自分は無実だと言いたいのに、周りの空気は冷ややかだった。まるで犯人を見るような目で、誰も話を聞こうとはしなかった。







