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母がいなくなった日、私は自分を取り戻した

母がいなくなった日、私は自分を取り戻した

By:  京月一華Completed
Language: Japanese
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母は怒りのあまり命を落とした。 私の結婚式は本来、私が主役となるはずだったのに、新婦が福原紀行の女性パートナーにすり替わっていたことを知ったからだ。 母が息を引き取った瞬間、私の結婚式は彼女の葬儀と化した。 それでも福原紀行は、式を予定通り続行するよう命じ、私に向かってこう言った。 「さっさと遥に指輪をはめろ。夜になったら説明してやる」 福原紀行の歯ぎしり混じりの命令を無視し、私は母の遺体を抱えたままホテルを去った。 その日の夜8時、新婦が入れ替わった結婚式は無情にも「無事」幕を閉じた。 江野遥はすぐさまツイッターに投稿し、数十万の「いいね」を獲得していた。 「ふふっ!今日はついに私の光と結ばれました。自分の立場をわきまえたあの人が去ってくれてありがとうね!」 福原紀行も続けて投稿をした。 「愛される価値のない人間には、愛する資格もない」 私は冷えきった霊安室でその投稿に「いいね」を押し、「末永くお幸せに」とコメントを残した。 その後、母の骨壺を抱えながら引っ越しの準備を進めて帰宅したのだが、新居として購入したばかりのリビングで、福原紀行と江野遥が抱き合い熱いキスをしている光景に出くわした。

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Chapter 1

第1話

深夜、月明かりが冷たく肌を刺す中、疲れ果てた体でようやく家にたどり着いた私がまず目にしたのは、玄関の女主人の場所に無造作に置かれた江野遥のハイヒールだった。

江野遥がこの家を訪れるのはこれが初めてではない。

3年前、彼女が福原グループのシニアパートナーになった頃から、「仕事の話」を理由に頻繁に出入りしていた。

早朝だろうと深夜だろうと、たとえ外が土砂降りでも、彼女の「仕事熱心」を止めるものは何もなかった。

最初のうちは、私も福原紀行に抗議したことがある。しかし、彼は私に向かって冷たく言ったのだ。

「会社が稼いでいるおかげで、お前みたいな何もしない人間が楽して暮らせるんだぞ」

それ以降、私がまた文句を言えば福原紀行は口をきかないまま、何日も私を無視するのが常だった。最終的には私が折れて謝るしかなかった。

あの頃、私はまだ福原紀行を愛していた。だから自分を納得させていたのだ。

しかしその結果が、今私の手にあるたった二百グラムの骨壺だった。

皮肉な笑みを浮かべながら家に入ると、目に飛び込んできたのは、福原紀行と江野遥が新婚生活のために私が用意したソファで熱いキスをしている姿だった。

薄暗い照明の下、江野遥の白い頬は赤らみ、酔いしれて福原紀行にだらしなくもたれかかっていた。

私が家に入ると、福原紀行はまず私が抱えている骨壺に目をやり、それから江野遥をそっと押し離し、丁寧にソファに横たえた。そして、こう言った。

「どうやら本当に死んだようだな。演技じゃなくて」

福原紀行は目を伏せたまま、上から目線で私を見下ろしていた。声色は一見すると慰めのようだが、その言葉には苛立ちが透けて見えた。

「まだ足りないのか?わかったよ。言ってやるよ。俺は後悔してる」

彼を見つめたまま、私は呆れたように笑った。

母が倒れたあの時、彼は「ただの芝居だ」と言い切り、「本当に死ねばいい」とまで吐き捨てた。そして、結婚式を続行するよう命じたのだ。

今、母は彼の望み通り本当に死んだ。それなのに、こんな口調で「後悔してる」と言われても、笑うしかなかった。

本来なら――

今日は私にとって一生に一度の、最も幸せな日となるはずだった。20年想い続けた幼なじみとついに結婚できる日だったからだ。そのうえ、私は福原紀行にもう一つのサプライズのプレゼントを用意していた。

福原紀行は精子の数が極端に少ないという疾患を抱えており、一生で子どもを授かる可能性が百万分の一と言われていた。

彼の一番の夢は、自分の子どもを持つことだった。その夢を叶えるため、福原家全体が神頼みをし、福原紀行の祖母は剃髪して仏門に入るほどだった。

それでも叶わなかった夢――その奇跡が、私に訪れたのだ。

医者として積み重ねてきた功徳のおかげだろうか。

私は福原紀行の子どもを授かっていた。そして、その妊娠報告書は彼へのサプライズとしてポケットにしまってあった。

だが、今となっては、彼の顔を見るだけで嫌悪感しか湧かない。私は冷静に言った。

「紀行、終わりにしよう」

彼が驚きの表情を浮かべるのをじっと見つめ、私はさらに続けた。

「これからは、あなたと私は、二度と顔を合わせることのないように」

母が亡くなったその瞬間から、私の中で福原紀行への愛情は完全に消え去っていた。本来なら福原家の祖母が私を溺愛してくれていることを思い、今夜は何も言わず静かに立ち去るつもりだった。

だが、彼は私の限界を超えたのだ。

「俺が反省してるだけじゃ足りないのか?土下座して謝れってことか?」

福原紀行は私の手を強く掴み、吐き捨てるように言った。

その目は冷たく苛立ちが混じり、どこか憎しみにも似た感情が見え隠れしていた。まるで、あの時、江野遥に指輪をはめるよう命じた時と同じ、怒りに満ちた口調だった。

「自分の立場をわきまえろ、雪乃」

私は一言も返さず、無理やり手を引き抜いた。そして、母の遺品を整理するため静かに動き始めた。

一刻も早く、この空間から、この二人のいる家から、逃げ出したかった。

その時、ソファに横たわっていた江野遥が体を起こし、私が抱えている骨壺を目に留めた。彼女の顔には驚きの色が浮かんでいた。

「あれ?その中にいるの、お母さんなの?」

彼女は、本当に不思議そうに言葉を続けた。

「えーっ、もう亡くなっちゃったの?雪乃ちゃん、ごめんね~」

しかし、その言葉の終わりには、福原紀行に目を向け、猫なで声で甘えながらこう言い出した。

「ねえ、紀くん!この骨壺、すっごく素敵じゃない?昨日ね、私が飼ってた雑種犬が死んじゃったのよ。ねえ、雪乃ちゃんにお願いして、この骨壺を譲ってもらえないかな?かわいそうなワンちゃんのためにさ、お母さんの骨壺を使いたいの。いいでしょ?」

耳を疑った。私は呆然と江野遥を見つめたまま動けずにいた。

その間に、福原紀行は平然と手を伸ばし、私が抱えている母の骨壺を奪い取ろうとしてきた。

「渡せ。この骨壺、雑種犬にぴったりじゃないか」
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