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好きな気持ち-01

last update Last Updated: 2025-01-06 05:08:12

職場で回ってきた忘年会のお知らせメールに、紗良は悩む間もなく欠席と返答をした。

と同時に今回幹事である依美がすっ飛んでくる。

「ちょっとちょっと~。紗良ちゃんもたまには飲み会出なよ~。ていうか少しくらい悩みなよ」

「うーん、機会があれば、また……」

「却下! もうちょっと考えてから返事しなさい!」

「ええ~?」

悩むことなんてないのに……と思いつつも、確かに職場の行事ごとにあっさりと返事をしすぎなのかもと考え、一応頭を捻ってみる。

けれどやはり参加するということが現実的ではなく、申し訳なくもそのまま欠席となった。

社会人になってから飲み会の類は一度も参加したことがない。

それが嫌かと言われれば、そういうわけでもなくて……。

学生の時に友達とご飯を食べに行ったりすることはあったけれど、社会人になってからそういうこともすっかりなくなった。

急に誘いがなくなったわけではない。

行きたくないわけではない。

だったらどうしてと、その根底を辿れば『海斗がいるから』に終始してしまうわけなのだが。

自分が育てると決めたのだから、母にも迷惑はかけられない。

だから別にいいのだ、飲み会なんて行かなくたって。

それで職場環境が悪くなるわけでもないし、紗良は海斗と母親と、三人で年越しをして慎ましやかな新年を迎える。

それがいつもの流れなのだから。

ただ今年はいつもとはちょっと違って――。
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    カシャカシャカシャッその音に、紗良と杏介は振り向く。そこにはニヤニヤとした海斗と、これまたニヤニヤとしたカメラマンがしっかりカメラを構えていた。「やっぱりチューした。いつもラブラブなんだよ」「いいですねぇ。あっ、撮影は終了してますけど、これはオマケです。ふふっ」とたんに紗良は顔を赤くし、杏介はポーカーフェイスながら心の中でガッツポーズをする。ここはまだスタジオでまわりに人もいるってわかっていたのに、なぜ安易にキスをしてしまったのだろう。シンデレラみたいに魔法をかけられて、浮かれているのかもしれない。「そうそう、海斗くんからお二人にプレゼントがあるんですよ」「えっへっへー」なぜか得意気な顔をした海斗は、カメラマンから白い画用紙を受け取る。紗良と杏介の目の前まで来ると、バッと高く掲げた。「おとーさん、おかーさん、結婚おめでとー!」そこには紗良の顔と杏介の顔、そして『おとうさん』『おかあさん』と大きく描かれている。紗良は目を丸くし、驚きのあまり口元を押さえる。海斗とフォトウエディングを計画した杏介すら、このことはまったく知らず言葉を失った。しかも、『おとうさん』『おかあさん』と呼ばれた。それはじわりじわりと実感として体に浸透していく。「ふええ……海斗ぉ」「ありがとな、海斗」うち寄せる感動のあまり言葉が出てこなかったが、三人はぎゅううっと抱き合った。紗良の目からはポロリポロリと涙がこぼれる。杏介も瞳を潤ませ、海斗の頭を優しく撫でた。ようやく本当の家族になれた気がした。いや、今までだって本当の家族だと思っていた。けれどもっともっと奥の方、根幹とでも言うべきだろうか、心の奥底でほんのりと燻っていたものが紐解かれ、絆が深まったようでもあった。海斗に認められた。そんな気がしたのだ。カシャカシャカシャッシャッター音が軽快に響く。「いつまでも撮っていたい家族ですねぇ」「ええ、ええ、本当にね。この仕事しててよかったって思いました」カメラマンは和やかに、その様子をカメラに収める。他のスタッフも、感慨深げに三人の様子を見守った。空はまだ高い。残暑厳しいというのに、まるで春のような暖かさを感じるとてもとても穏やかな午後だった。【END】

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