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第339話

Author: 一匹の金魚
「寺原さんは全然あなたの面子を気にしてないよね。この証拠を公開するのは、高瀬家を侮辱することにならない?」

萌寧の声はとても小さく、周りの人には聞こえず、礼央だけが聞き取れるほどだった。

真衣がこの件を礼央に話すより、自分から口に出した方がまだまし。

何しろ、証拠は真衣の手にあるから、彼女が好きな時に公開できる。

今自分から話せば、自分と母さんの潔白は守れる。

礼央は萌寧を見て、「まあ既に決まったことだから、疑問があるなら警察に問い合わせて」

礼央の態度ははっきりとしている。もうこの件には関わりたくないようだ。

何せ、警察はもうすでに捜査を済ましていて、証拠も出揃っている。

これ以上騒いでも、何にもいいことはない。

萌寧は深く息を吸った。

「萌寧、焦らないで。桃代さんに早く出てきて欲しいなら、真衣と話し合ってみたら?賠償金はいくらでも出せるから、内々で解決すればいい」

周りの人々は萌寧たちを囲んで、あれこれとヒソヒソ話をし始め、まるで自分たちのことのように楽しんでいる様子だった。

萌寧は冷たい表情で、「何見ているんですか?もうやめてください!」とその場にいる人たちを追い払おうとした。

すると、会場の警備員が来て、場を収めようとした。

人だかりがあっという間に消えた。

人がいなくなると、萌寧は真衣のことを見つめた。

「あなたがわざとやったのね?」

真衣は肩をすくめて、「私がわざとできることじゃないでしょ?自ら飛び込んできたのはあなたたちでしょ?」と言い返した。

萌寧は歯ぎしりしながら、感情を抑えようとした。「金額を言って。どんな条件なら母さんを出してくれるの?」

萌寧は胸を張り、目に自信と傲慢さがにじみ出ている。

「どんな条件でもいいわよ。私たちは同じ業界で働いていて、顔を合わせることもあるから、事をあまりに追い詰めないでほしいわ」

自分の母さんは既に警察に連行され拘留されている。自分もただ見ているわけにはいかない。

話し合いで解決できるなら、しっかりと話し合うべき。

だけど、真衣のような人間に頭を下げるのは、自分にはどうしてもできない。

結局、真衣はお金にしか興味がない女だから、誰かがお金を持っていれば、その人にすり寄っていく。十分なお金を渡せば、自分の母さんを拘置所から出すことだってできるだろう。

真衣は冷たい笑み
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