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第592話

Auteur: 清水雪代
智美は笑った。「今日、美穂さんも同じことを言ってたわ。お義兄さんに会社に戻るよう説得してほしいって。お義兄さんをその気にさせるのは、一苦労ね」

「まったくだ。兄さんは究極の愛妻家なんだよ。俺が岡田グループにいるのをいいことに、毎日家で美穂さんにべったりしていたいだけなんだ」

……

翌日、智美は梨沙子のマンションを訪ねた。

インターホンを押すと、すぐに梨沙子がドアを開けて迎え入れてくれた。

「昨日一人でここに泊まって、大丈夫だった?」智美は心配そうに尋ねる。

梨沙子は晴れやかな笑顔を見せた。「正直、結婚してから一番よく眠れたわ。義母に理不尽に叱られることもないし、夫の機嫌を伺う必要もない。一人暮らしって、本当に最高ね」

智美は差し入れをテーブルに置くと、ソファに腰を下ろした。生き生きとした梨沙子の表情を見て、心から安堵する。

「本当ね。見違えるほど元気そう!」

しかし、梨沙子はふと表情を曇らせ、不安げに付け加えた。「でも……昨夜、義母から電話があったの。出なかったけど。実家の両親に連絡されるのが怖いわ」

「あちらがあなたに愛人の世話までさせようとしたのよ。それなのにご
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