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第 20 話

Author: 燈ちゃん
10日の朝早くに、凛のもとへ真也からメッセージが届いた。弁護士立ち会いのもとで署名した離婚協議書と離婚届の写真だった。

【これで満足か?】と、もう1通メッセージが届く。

画面に映る、力強く流れるような筆跡。

間違いなく、真也本人のものだった。

弁護士に立ち会ってもらっていたとはいえ、もし真也が後から約束を反故にしようと思えば、凛では太刀打ちできない。

それでも、彼にそんな暇があるとは思えなかった。

かつて彼が言っていたように、自分なしでは何もできないというわけではないのだから。

そして、伊織も帰国している。だったら、ただの「パートナー」である自分は、なおさら必要なくなったのだろう。

【まあ、これなら及第点かな】と、凛が返信する。

【明日の昼、迎えを向かわせる】

【了解】

たった一言の返信を見た瞬間、画面の向こうで真也はこめかみをひくつかせた。

桐生家の邸宅は、西京市の南にある麗山に位置している。綺麗な山と水に囲まれた広大な敷地は、千坪もの規模を誇る、格式ある庭園風の造りだった。

英一は昔、ゴルフを趣味にしていたため、裏山には専用のゴルフ場まで備えられている。もっとも、今ではもっぱら愛犬の散歩場所になっていた。

本来なら真也は凛と一緒に向かうつもりだった。だが、英治から急ぎで話したいことがあると言われ、先に桐生家へ向かっていた。

凛を乗せた車が邸宅の前に到着すると、使用人がすぐさま駆け寄り、ドアを開ける。凛はゆっくりと車から降りた。

身に纏っているのは、月明かりをそのまま閉じ込めたような、淡い色合いの着物。

柔らかな地色の上には、流れるような花模様が優美に描かれ、帯には伸びやかに絡む花蔓の刺繍が施されている。枝の間には小鳥が舞い降り、生地は光を受けるたび、繊細な輝きを放っていた。

長い髪は後ろで丁寧にまとめられ、梅の花をあしらった簪が静かに彩りを添えている。耳元で揺れる真珠のイヤリングも、華やかさを主張することなく、彼女の上品な雰囲気を引き立てていた。

もともと端正な顔立ちを持つ凛は、薄化粧を施しただけで十分な華やかさを纏っていた。伸びた背筋、穏やかな眼差し、どこか儚さを感じさせる清らかな佇まい。

その姿はまるで、古い絵巻物の中から抜け出してきた姫君のようだった。

使用人たちは思わず息を呑んだ。

――これが、自分たちが知っていたあの奥様なのか。

いつも真也の後ろをついて歩き、何を言われても静かに頷くだけだった、あの控えめな女性とはまるで別人だった。

彼女たちの反応を見て、凛は内心で満足した。

これでいい。

落差があればあるほど、人の視線を奪う。そして、その瞬間に名刺を渡せばいい。

……

来客の多くは、すでに広間へ集まっていた。

カードを楽しむ夫人たち、碁盤を囲む者たち、縁側で鳥を愛でながら談笑する者たち。

そこへ現れた凛の姿は、当然のように人々の視線を集めた。

「あの方、どなたかしら?」

夫人たちが小声で話し始める。そして、彼女が真也の妻だと知った瞬間、周囲には驚きが広がった。

「あの桐生社長の……?」

「まさか、あの人が……」

かつて誰もが「真也には釣り合わない」と見ていた存在。そんな印象を一瞬で覆すほど、今日の凛は堂々としていた。

しかし、凛は周囲の視線など気にも留めなかった。人混みの中を静かに見渡し――やがて、奥の間にいる真也を見つけた。

凛は迷うことなく歩み寄る。そして、柔らかな声で呼びかけた。「……あなた」

真也は振り返った。

逆光の中、入り口から歩いてくる人影に視線を向けた瞬間――その目に、隠しきれない驚きが浮かぶ。

凛が隣まで歩み寄り、自然な仕草で腕を絡めてくるまで、真也は言葉を失ったままだった。

ふわり、と風が吹く。

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