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第 7 話

Autor: 燈ちゃん
明らかに距離を取るような態度。

それに気づいた陸は、一瞬だけ目を細めた。けれど、すぐにいつもの柔らかな表情へ戻る。

彼は凛の手を取り、テーブルまで案内すると、椅子を引いて座りやすいように整えた。

その気遣いを見て、凛も特に遠慮することなく腰を下ろす。

「聞いたよ」陸が静かに口を開いた。「離婚するんだって?」

凛の身体がわずかにこわばる。けれど、その話題には触れず、バッグから持参した企画書を取り出した。

「それより、まず結華の話をしましょう」顔を上げ、まっすぐ彼を見る。「光永商事が南川繊維を傘下に入れた理由は、国内市場を広げるためだけじゃないでしょう?」

凛の逃げるような態度に、陸はただ小さく笑った。椅子へ背を預けながら、彼女から受け取った企画書へ目を落とす。

「結華のことなら、俺もよく知っている。昔、お父さんが立ち上げたブランドだろ?運営が何年も止まっていたけど、積み重ねてきたものまで消えたわけじゃない。

昔からの顧客がいれば、ブランドとしての土台も残っている。だから、結華を生き返らせることができると光永商事が判断し、こうして取引が決まったのだ」

――お父さん。

その言葉に、凛の胸の奥がまた痛んだ。父を失った現実は、時間が経っても薄れることはない。

凛は陸を見つめ、ためらうことなく核心を突く。「結華を生き返らせる……それは光永商事の計画ではなく、あなた個人の考えでしょう?」

陸は一瞬だけ目を細めた。そして、静かに笑う。「そうだとしても、何か問題がある?俺には、君やお父さんのために何かする資格もないというのか?」

……

その頃。

真也の前に置かれた酒は、ほとんど減っていなかった。周囲では何度も乾杯の声が響き、取引先の笑い声が飛び交っている。

けれど、真也の意識はそこにはなかった。

スマホの画面を何度も覗く。

そこに表示されているのは、4日前に凛に送ったメッセージ。

既読はまだついていない。

「社長、高橋社長が声をかけています」隣にいた哲也が控えめに言う。

真也はようやく顔を上げる。

相手との会話を終えると、酒を一気に煽った。喉を焼くような感覚に思わず眉が寄る。

ネクタイを緩めても、胸の奥に溜まる苛立ちは、どうしても消えなかった。

こんな感覚は初めてだった。昔、父親と激しく衝突した時ですら、ここまで落ち着かないことはなかった。

スマホの暗い画面には、険しく眉を寄せる自分の顔が映っている。いつもの凛なら、どれだけ怒っていても2日以上連絡を絶つことなどなかった。そんな彼女が、今は4日間も沈黙している。

哲也は真也の様子を見ながら、少し迷った末に口を開いた。「……奥様ですが、最近は結華のことでお忙しいようです」

「結華?」

真也の眉がわずかに動く。

彼女の父親が残した、将来性も分からない小さなブランド。

以前、確か凛から相談されたことがあった。どうすればブランドを再建できるのか、と。

その時、自分は何か返事をしたはずだ。だが、内容までは覚えていない。

真也はグラスの縁を指でなぞり、鼻で小さく笑った。

――そのようなブランドなど、何の価値もない。彼女が一言頼めば、同じようなブランドを10個でも用意できる。

その思いを隠すように、真也は低く呟いた。「ふん……無駄骨を折らないといいがな」

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