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第5話

作者: ルルル
「都合のいいセフレ」という残酷な言葉は鋭い刃となって、璃羽の胸を何度も何度も容赦なく抉った。

その瞬間、心が音を立てて砕け散り、無数の破片となってこぼれ落ちていくようだった。

璃羽は震える指で通話を切り、ぎゅっと目を閉じた。こらえきれない涙が、堰を切ったようにボロボロと溢れ出した。

――そう。所詮、私はただの「都合のいいセフレ」でしかない。

この何年もの間、彼のそばで食事も寝床も共にし、見返りなんて一切求めずに尽くしてきた。

ほんの少しの期待も抱いてはいけないと、自分に言い聞かせていたはずだった。彼の心の中で、自分がどれほど軽い存在なのかも、とうの昔から嫌というほど分かっていた。

それでも、いざ本人の口から直接その言葉を聞かされると、息ができないほど苦しかった。

きっと、彼と一緒にいた時間が長すぎたのだ。蒼蓮がそばにいるのが当たり前になり、この先の一生もずっと彼が一緒にいてくれるのだと、勝手に錯覚してしまうほどには。

その夜、高熱と絶望の中で自分がどうやって朝を迎えたのか、まるで記憶がない。ふと目を覚ましたときには、すでに蒼蓮が帰宅していた。

彼は窓辺に腰を下ろし、手には薬と水の入ったグラスを持ち、彼女の口元へ運んで飲ませようとしていた。

璃羽は反射的に身を引いてそれを拒んだ。彼女のその露骨に避けるような仕草を見て、蒼蓮は不機嫌そうに眉をひそめた。

「……まだ昨日のことで怒ってるのか。全部聞いてるぞ。昨日あの邸宅から出て行く時、中の家具を手当たり次第にぶっ壊していったらしいな。部屋中めちゃくちゃにして、それでもまだ気が済まないのか」

璃羽は驚いて弾かれたように顔を上げ、信じられないという目で彼を見つめた。

「……何の話?私が、何を壊したって言うの?」

蒼蓮は無言でスマートフォンを取り出すと、華苑とのメッセージ画面を開き、璃羽の目の前へと突きつけた。

「自分で見ろ」

画面の一番上に表示されている「華苑」という名前を見た瞬間、璃羽の胸がちくりと痛んだ。

この数年間、華苑が彼を捨てて海外へ行っていたあの期間でさえ、彼はずっと彼女の登録名を変えていなかった。

一方、彼のスマートフォンに登録されている自分の名前は、いつだってよそよそしさを感じる「宮下璃羽」というフルネームのままなのに。

璃羽は押し寄せる苦い感情を飲み込み、華苑から送られてきた写真に目を落とした。

画面に映る邸宅の中は、確かに見るも無惨に荒らされていた。それに添えられた華苑のメッセージは、さらに意地が悪く、火に油を注ぐような内容だった。

【璃羽さんのお気に入りだった家を奪っちゃった私がいけないの。だから、彼女が腹いせに暴れちゃうのも無理はないわ。

ただ……蒼蓮が心を込めて用意してくれた家具がめちゃくちゃにされちゃったのが、悲しくて……

ねえ蒼蓮、璃羽さんがこんな酷いことをする人だって分かってたら、私、この家なんてもらわなかったのに】

あまりにも荒唐無稽な写真と白々しい文面を目にして、璃羽は怒りを通り越して思わず乾いた笑いを漏らし、蒼蓮を見据えた。

「……彼女のこの言葉、全部信じたの?」

蒼蓮はその問いに正面からは答えず、どこか突き放すような冷たい声で言った。

「俺は自分の目で見た事実しか信じない」

その言葉に、璃羽の心は鋭く抉られた。彼女はぎゅっと唇を噛み締め、生きてきて初めて、どれだけ言葉を尽くしても信じてもらえない無力感を味わっていた。

一体何をどう釈明すればいいというのか。家具が壊されたのは間違いなく自分があの邸宅を出た後のことだが、自分にはアリバイを証明してくれる人間など一人もいない。

あの日邸宅にいた連中は華苑の取り巻きばかりだ。誰一人として自分を庇うはずがない。それに、あの場で助け舟を出してくれなかった秘書の健太が、今更になって真実を明かすために立ち上がってくれるはずもなかった。

誰にも信じてもらえないこの深い絶望感には、酷く覚えがあった。彼女の脳裏に、数年前の記憶が蘇る。当時、レストランでアルバイトをしていた彼女は、客の財布を盗んだという身に覚えのない濡れ衣を着せられたことがあった。

周りの人間全員から泥棒扱いされ、「財布を出せ」「身体検査をさせろ」と詰め寄られて泣きそうになっていた時。電話を受けて血相を変えて駆けつけ、彼女を背中に庇ってくれたのは、他の誰でもない蒼蓮だった。

「璃羽は盗みなんかやってない。あいつは絶対にそんなことをする人間じゃない!俺が命を懸けて保証する!

これ以上あいつを傷つける奴は、俺が絶対に許さない。

今すぐ警察を呼べよ。きっちり調べて無実が証明されたら、あいつを泥棒呼ばわりした連中全員、絶対に謝らせてやるからな!」

それは彼女の人生で、初めて誰かに無条件で信じてもらえた瞬間だった。そして、蒼蓮が自分を守るために必死になってくれた姿を見たのも、それが初めてだった。

帰り道、彼は泣きじゃくる璃羽を元気づけようと、屋台で甘いりんご飴を買ってくれたが、それでも呆れたように説教せずにはいられなかった。

「あんな濡れ衣着せられて、なんで言い返さないんだよ。黙って突っ立ってたら、認めたのと同じだろ」

璃羽はうつむき、顔を真っ赤に染めながらぽつりと言った。

「だって、言ったってどうせ誰も信じてくれないもん……昔から、ずっとそうだったから」

蒼蓮は一瞬だけハッとしたように言葉を失い、それから、力強く揺るぎない声で言い放った。

「これからは、俺がお前を信じる。どんな時でも、俺だけは絶対にお前を信じるから」

あの時の言葉を、今でもはっきりと覚えているというのに。それなのに今の彼は、華苑が送ってきたたった数枚の写真と白々しい嘘の言葉だけで、かつてのあの誓いをあっけなく捨て去ってしまった。

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