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第4話

作者: ルルル
邸宅からふらふらと歩み出た璃羽の体はずぶ濡れで、これ以上ないほど惨めな有様だった。

後ろからついてくる健太は、何度か何かを言いかけては、ためらいがちに口をつぐんでいた。

璃羽は振り返り、無理にぎこちない笑顔を作ってみせた。

「鈴木さん、私は大丈夫。先に帰って……少し、一人で歩きたいから」

言い終えるが早いか、健太の返事を待つこともなく、振り返ることもなくまっすぐ歩き出した。

この道はこれまでに何度も歩いてきた。そしてかつては、いつも蒼蓮が隣に寄り添ってくれていた。

邸宅は山頂にあり、バス停のあるふもとまで歩いて下りるには、丸1時間はかかった。

昔、ここでアルバイトをしていた頃、二人はタクシー代を浮かせるために、他愛もないおしゃべりをしながら歩いて下ったものだ。

途中で彼女が歩き疲れると、蒼蓮は彼女を背負い、一歩一歩、残りの道を歩いてくれた。

あの頃、璃羽は本気で思っていた。この先の一生、二人でずっとこんなふうに生きていけるなら、それだけで十分に幸せだと。

貧しく、慎ましい暮らしではあったけれど、少なくとも二人の心はぴったりと寄り添い、こんなに遠く離れてはいなかった。

だが今、二人の間には決して越えられない深い溝が横たわっている。彼女がどれだけ足掻こうとも、もう二度と跨ぐことはできない。

……

璃羽が重い足を引きずってアパートまで辿り着いた頃には、3時間もの時間が経っていた。ずぶ濡れのまま長く冷たい風に吹かれたせいで、部屋に戻った時にはすでに体調の異変を感じていた。

ふらつく足でどうにかシャワーを浴び、乾いた服に着替えてベッドに倒れ込んだが、ほどなくして全身が火のように熱く燃え上がった。

間の悪いことに、意識が朦朧として窓を閉め忘れていたため、容赦ないすきま風がひっきりなしに吹き込んでくる。

熱気でどっと汗をかいたかと思えば、次の瞬間には歯の根が合わないほどガタガタと震え上がり、熱と寒気に交互に責め立てられているような、逃げ場のない苦痛が彼女を痛めつけた。

璃羽は昔から、あまり体が丈夫な方ではない。以前こうして熱を出した時は、蒼蓮が夜のアルバイトをすべてキャンセルして、ずっと側で看病してくれたものだ。

それは彼女にとって、心置きなく彼に甘え、その温もりに浸ることができる唯一の幸せな時間だった。彼女は彼の胸の中にすっぽりと丸まり、まるで甘える子猫のようにその首筋に頬をすり寄せた。

「蒼蓮……あなた、すごくいい匂いがする」

彼は手で優しく彼女の額を撫でながら、解熱剤と水を、いたわるようにしてそっと口元へ運んでくれた。

「ただの洗剤の匂いだろう。何がそんなに特別なんだよ」

彼女は目を閉じたまま、彼の体にぎゅっと抱きついた。「特別だもん。私、この匂いすっごく好き……一生、嗅いでいたいな」

蒼蓮の前では、いつも素直に「愛している」と言葉にすることができなかった。だから本当は、「あなたが大好き、一生あなたの側にいたい」と伝えたかったのに、その本音はどうしても口に出せなかったのだ。

彼が本来いるべき華やかな世界へと戻ってしまってからは、その体から、あの愛おしい洗剤の匂いがすることは二度となかった。

代わりに漂うようになったのは、高価なブランド物のコロンの香りや、かすかなタバコの匂いばかり。

そのどちらも、彼女の知っている、彼女だけの蒼蓮の匂いではなかった。

高熱で意識が朦朧とし、頭は今にも割れてしまいそうなほど痛んだ。彼女は無意識に枕の下からスマートフォンを探り当て、すがるような思いで蒼蓮へと電話をかけていた。

コール音が数回鳴った後、電話が繋がった。だが相手は何も話さず、ただ耳をつんざくような音楽が響いてくるだけだった。どうやら彼はバーにいるらしい。

璃羽は全身の力が抜け、力の入らない弱々しい声で語りかけた。

「蒼蓮……一度、家に帰ってきてくれないかな。すごく、具合が悪くて……」

それでも電話の向こうからは一切の返事がなかった。少しの沈黙の後、もう諦めて電話を切ろうとしたその瞬間、不意に何人かの話し声が聞こえてきた。

誰かが蒼蓮と会話をしているようだった。

「蒼蓮。こっちの世界に戻ってきてから結構経つのに、お前、なんでまだあのボロアパートに住んでる貧乏くさい女を捨ててないんだよ」

「そうそう。華苑も帰国したんだし、何年もすれ違ってた二人が、ようやく結ばれる時が来たんじゃない?それともまさか……あの貧乏女に本気で惚れちまったとか?」

その言葉に、蒼蓮は鼻で笑うと、その唇から、どこまでも冷徹で容赦のない言葉を零した。

「まさか。あいつはただの、都合のいいセフレだよ」

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