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紅玲の取材旅行6

Author: 東雲桃矢
last update Last Updated: 2025-12-17 14:32:02

『それならよかったわ。最近、時々思いつめたような顔をしてたから、心配だったの』

「……気づいてたの」

うまく隠せていたと思っていた紅玲は、驚きのあまり返事が遅れる。

『恋人なんだから、当然でしょ? お手洗いに行くから、そろそろ切るわね。新しいシナリオ、楽しみにしてるわ』

「うん、期待してていいよ。それじゃあ、またね」

電話を切ると、紅玲は軽い足取りで帰路を辿る。

「バレてたのはちょっと悔しいけど、気づいてくれたのは嬉しいね」

そう呟くと、口角を上げた。

一方千聖はというと、電話を切ってからお手洗いに行った。スカートをたくしあげて黒タイツを下げると、赤いまだら模様の太ももが目に入る。

「もう、なに考えてんのよ……」

頬を染めながら言うと、洋式トイレに腰掛けた。

昼休みになると、後輩達と一緒にランチを食べる。彼女達は食堂で買って食べるが、千聖だけは紅玲の手作り弁当だ。

「綾瀬先輩、また彼氏さんのお弁当ですか」

後輩の瑞希はカツカレーを持ってきながら、羨ましそうに千聖の弁当を覗き込む。

「少し前まではここのパスタが1番だって言ってたのに……」

「まさか綾瀬先輩に彼氏が出来るなんて、夢にも思いませんでしたよ。しかも超イケメン!」

千春と美幸も、それぞれ昼食を持ってきた。

「なんで美幸が綾瀬先輩の彼氏知ってんのよ?」

「だって今朝、キスしてましたし。会社前で」

美幸の言葉に、3人はむせ返る。

「み、見てたの……?」

「バッチリ!」

恐る恐る言う千聖に、美幸は親指を立てて頷いた。

「見たかったなぁ……」

「おアツいことで」

羨む瑞希と冷やかす千春に、千聖は頭を抱える。

「あーもう、冷やかさないでちょうだい……。あれは、私も予想外だったんだから……」

「で、綾瀬先輩の彼氏さんってどんな人なんですか? 写真見せてくださいよ」

瑞希は目を輝かせながら、身を乗り出す。

「やめておくわ。好きな物は独り占めしたいの」

千聖が片目を閉じながら言うと、3人の後輩達ははしゃぎ出した。

(惚気けるのも、悪くないものね)

自分の恋人についてあれこれ想像を膨らませる3人を見ながら、千聖は静かに口角を上げた。
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  • 独占欲に捕らわれて2   策士愛に溺れる40

    「そうだったら嬉しいね。チサちゃんが俺に染まってるってことでしょ?」「もう、すぐ恥ずかしいこと言う……。はやくまとめて、今日はもう休みましょう」千聖は頬を染めながら、手を動かす。「照れちゃって、可愛いんだから」紅玲は千聖の近くに置いてある着替えを取るついでに、彼女の頬にキスをする。「なにするのよ……」「ただの愛情表現だよ」千聖はなにか言い返そうとしたが、いつもの余裕たっぷりの笑顔を見てやめた。ふたりは時折こうしてじゃれ合いながら荷物をまとめると、風呂と夕食を済ませて眠った。翌朝、ふたりは荷物の最終確認をする。「パスポートに、海外旅行保険証。証明写真と空港券。ちゃんとある?」「うん、あるよ」千聖はスマホを片手に、必要な荷物を読み上げていく。「現金にクレジットカード。セキュリティポーチでしょ。あと、歯磨きセットとトイレットペーパーにタオル」「あるよ」「くし、石鹸、シャンプーとコンディショナーは?」「えーっと、あぁ、あった」紅玲はがさごそと奥の荷物を漁りながら確認する。「粉末ポカリと薬」「風邪薬、酔い止め、痛み止めがあるよ」「日焼け止め、下着、靴下、着替え。あとパジャマね」「あぁ、ケースの大半を占領してるよ」「充電器、カメラ、海外用電源プラグ変換アダプター。筆記用具と使い捨てスリッパ」「うん、あるよ」「トラベル枕と紙製便座シート、ペットボトルのお水。これで確認はおしまいよ。全部あった?」千聖は顔を上げて紅玲に聞く。「うん、あった」「それならよかったわ」「ドレスやタキシードは向こうに送ってあるしね」紅玲の言葉に、胸が高鳴る。「いよいよね……」「そうだね。もう少ししたらタクシー来ちゃうから、はやくまとめなきゃ」ふたりは荷物をまとめ直すと、家から出た。タイミングよくタクシーがふたりの前に停まった。千聖は海の向こうで行われるふたりきりの結婚式に期待で胸を膨らませながら、タクシーに乗り込んだ。

  • 独占欲に捕らわれて2   策士愛に溺れる39

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  • 独占欲に捕らわれて2   策士愛に溺れる36

    その後男性は女性の墓参りをしたあと、彼岸花畑で服毒自殺を図るも失敗。彼女の墓を管理する寺で目が覚める。悪友と住職と話して女性の真相を知り、誰とも恋をせずに生きていくことを密かに誓う。そんな話だった。読み終えた千聖は、複雑な気持ちで本を閉じる。「ふぅ……。あ、チサちゃんも読み終わったの?」満足げに本を閉じた紅玲は、にこやかに千聖を見る。「えぇ、読み終わったんだけど後味悪い話だったわ。主人公の男性は恋人がお嬢様だと知った途端一方的に別れて、女性は自殺しちゃうの」「それは悲しい話だね……。その男性は金持ちが嫌いだったとか?」千聖は静かに首を振る。「いいえ、女性の愛が重すぎると思っていたんですって。それに、女性には勝手に決められた婚約者がいたんだけど、その婚約者や義理のお母さんから逃げるにしても、逃げる資金も外国に逃げる度胸もないからって、理由を並べ立ててたわ。ひどい話よ」「愛だけじゃどうにもならないって話?」「それもあるんでしょうね、たぶん。最後に男性が美談にまとめて、その女性以外のことは好きにならず、幸せに暮らしていきたい、みたいな終わり方だったのが気に入らないのよ」千聖の話を聞き終えると、紅玲は腕を組んで唸る。「本を読んでないからなんとも言えないけど、ほかの女性を好きにならないって言うくらいだから、大きな幸せは手に入らないんじゃないかな? それでも小さな幸せは許してくれってことじゃない?」「うーん、たぶんそんな話、なのかしら?」「その本、あとで読んでみるよ」紅玲はテーブルのすみにあるボールペンでしおりになにか書き込むと、徒花にしおりを挟んだ。「じゃあ私は、次ここに来た時はその本を読もうかしら」千聖は“綾瀬”と書くとすぐに塗りつぶし、“鈴宮千聖”と書き直した。「さっそく苗字書いてくれたんだ、嬉しいな」紅玲は本を差し出しながら言う。ふたりは自分が読んでいた本を本棚に戻すと、会計を済ませて店を出た。

  • 独占欲に捕らわれて2   策士愛に溺れる35

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