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第4話

ผู้เขียน: 酔夫人
last update ปรับปรุงล่าสุด: 2026-03-05 10:25:19

バーのカウンターに座って、初対面の男性と向き合う。

美咲の日常にはない異質さなのに、手には司狼から渡された名刺。

そして反射的に、鞄を探って名刺入れを探している自分。

薄暗い照明も、磨かれたカウンターも関係ない。

氷の触れ合う音に低く流れるジャズはロマンチックだけれど、現実がしっかりと美咲を捕まえている感覚がした。

「緊張が抜けた……」

「え?」

上から降ってくるような司狼の呟きに、美咲は司狼に目を向けた。

(近い……)

咄嗟に、美咲は司狼から距離を取る。

(しまった……あからさま、だったかな)

これでは、意識しているようだ。

美咲は司狼の表情を確認しようと、ゆっくりと顔を向ける。

そして、司狼の表情に戸惑った。

「どうした?」

「……いえ、何でも」

(なに、この表情……まるで、私が正しい行動をして、それに満足しているみたい)

美咲はグラスに視線を固定し、桃色の液体を見ている振りをしながら混乱をおさめる。

美咲は、司狼の目的をナンパだと思っていた。

(この見た目だし、自信はあったと思う)

彼氏彼女とか恋人関係にない男と女が、ひょんなことから一晩抱き合うことはある。

美咲に、その経験はない。

ただ、死んだ元恋人に対する意味不明な罪悪感を払うために、ときめいた相手でもあるから司狼と一晩過ごすのも悪くないと思いかけた。

そう、思いかけた。

それを、司狼の意味不明な反応が、押し潰すように消した。

まるで美咲が、自分も含めて、男に簡単に身を委ねることを許さないとでもいうような圧力。

……いや。

それだけではない。

まるで――それでいい、と確認しているような顔だった。

(この人……初対面よね……)

見かけただけでも、覚えていそうな男だ。

確かめるように隣に目を向ければ、司狼はグラスを指先でゆっくり回している。

氷が静かに音を立てていた。

「……なんです?」

突然笑った司狼に、観察していた気まずさもあって、美咲の口からはやや険のある声が出た。

「聞きたいことがあれば、言えよ」

「……こういう店、よく来るんですか?」

美咲が聞くと、司狼は笑う。

それが本当に聞きたいことなのかと、揶揄うように問う司狼の目に美咲は気づかない振りをする。

それにならったのか、司狼も美咲の聞いたことに素直に答えた。

「あまり来ない」

「それなら、今夜はなぜ?」

美咲の問い掛けは、先ほど司狼が美咲に問うたことだった。

「美咲さんが入っていくのが見えたから」

甘い言葉。

甘ったるい笑顔。

(この目がなければ、騙されてしまいそう)

流されるなという警告の目で、誘いかける司狼に美咲は内心呆れた。

「木崎さんって、いつもこうやって人を試しているんですか?」

「試す?」

心底不思議そうに司狼は首を傾げた。

その本気で分からないという顔に、美咲がいながら他の女と寝たことのどこが悪いのか、本気で分かっていなかった蒼太の顔が重なった。

(……似ている?)

似ているのは、目元でも、声でもない。

けれど今の「分からない」という表情が、美咲の記憶を妙な感じに逆撫でた。

もちろん、あり得ない。

(蒼太は――死んでいる)

死んだ男の影にまで揶揄われている感じがして……。

 カランッ

美咲はグラスに手を伸ばすと、一気に中を煽った。

グレープジュースの苦みに、それとは違う苦みが舌を刺激する。

「ちょっと……」

「不愉快なので、帰ります」

(グラスで千円をこえた飲み物は、カクテルにはなかった)

チャージと併せて二千円もあれば足りるはずと、美咲が財布を出そうとしたとき……。

「待って……」

その言葉に、続きかけた音があった気がした。

言葉を止めた、そんな雰囲気があった。

(今……)

気のせいだろうか。

まるで……。

(名前を呼びかけて、飲み込んだみたいな……あっ!)

戸惑っている間に、司狼の腕が伸びてきて美咲の鞄を奪った。

気づいたときには、美咲の鞄は彼の手の中にあった。

あまりにも早かった。

鞄を奪われたことよりも、その反射的な動きの速さに美咲は驚いた。

「悪かった!」

抗議をさせないように、司狼が勢いよく頭を下げた。

つむじまで見える見事な下げっぷりに、店内の客の視線が集中し、美咲のほうが慌てる。

「あの、頭をあげて……」

「不愉快な思いをさせて悪かった。言い訳になるが、人と接するのはあまり得意ではなくて……これも、その、勉強した人間の男女の駆け引きを試してみた……いや、試したというのは挑戦という意味で……」

さっきまでの自信はどこにいった?

思わずそう問い詰めたいくらい、全身でしゅんっとしている司狼に美咲は慌てる。

慌てたから……。

「しょ、職業病なら仕方がないですよね」

変な納得をして、司狼の謝罪を受け取ってしまっていた。

そして、受け取ってしまった以上は……。

(飲み直すの? でも、もう、飲み物はないんだけど……)

「ジンウーロン、ふたつ」

自分もスプモーニを一気飲みした司狼がバーテンダーに注文すると、バーテンダーはにこりと笑った。

「ひとつは、ウーロン茶を多めにしますね」

「……お願いします」

曖昧な決着になったけれど、大人なのだからと美咲は自分に言い聞かせて席に着いた。

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