เข้าสู่ระบบバーのカウンターに座って、初対面の男性と向き合う。
美咲の日常にはない異質さなのに、手には司狼から渡された名刺。
そして反射的に、鞄を探って名刺入れを探している自分。
薄暗い照明も、磨かれたカウンターも関係ない。
氷の触れ合う音に低く流れるジャズはロマンチックだけれど、現実がしっかりと美咲を捕まえている感覚がした。
「緊張が抜けた……」
「え?」
上から降ってくるような司狼の呟きに、美咲は司狼に目を向けた。
(近い……)
咄嗟に、美咲は司狼から距離を取る。
(しまった……あからさま、だったかな)
これでは、意識しているようだ。
美咲は司狼の表情を確認しようと、ゆっくりと顔を向ける。
そして、司狼の表情に戸惑った。
「どうした?」
「……いえ、何でも」
(なに、この表情……まるで、私が正しい行動をして、それに満足しているみたい)
美咲はグラスに視線を固定し、桃色の液体を見ている振りをしながら混乱をおさめる。
美咲は、司狼の目的をナンパだと思っていた。
(この見た目だし、自信はあったと思う)
彼氏彼女とか恋人関係にない男と女が、ひょんなことから一晩抱き合うことはある。
美咲に、その経験はない。
ただ、死んだ元恋人に対する意味不明な罪悪感を払うために、ときめいた相手でもあるから司狼と一晩過ごすのも悪くないと思いかけた。
そう、思いかけた。
それを、司狼の意味不明な反応が、押し潰すように消した。
まるで美咲が、自分も含めて、男に簡単に身を委ねることを許さないとでもいうような圧力。
……いや。
それだけではない。
まるで――それでいい、と確認しているような顔だった。
(この人……初対面よね……)
見かけただけでも、覚えていそうな男だ。
確かめるように隣に目を向ければ、司狼はグラスを指先でゆっくり回している。
氷が静かに音を立てていた。
「……なんです?」
突然笑った司狼に、観察していた気まずさもあって、美咲の口からはやや険のある声が出た。
「聞きたいことがあれば、言えよ」
「……こういう店、よく来るんですか?」
美咲が聞くと、司狼は笑う。
それが本当に聞きたいことなのかと、揶揄うように問う司狼の目に美咲は気づかない振りをする。
それにならったのか、司狼も美咲の聞いたことに素直に答えた。
「あまり来ない」
「それなら、今夜はなぜ?」
美咲の問い掛けは、先ほど司狼が美咲に問うたことだった。
「美咲さんが入っていくのが見えたから」
甘い言葉。
甘ったるい笑顔。
(この目がなければ、騙されてしまいそう)
流されるなという警告の目で、誘いかける司狼に美咲は内心呆れた。
「木崎さんって、いつもこうやって人を試しているんですか?」
「試す?」
心底不思議そうに司狼は首を傾げた。
その本気で分からないという顔に、美咲がいながら他の女と寝たことのどこが悪いのか、本気で分かっていなかった蒼太の顔が重なった。
(……似ている?)
似ているのは、目元でも、声でもない。
けれど今の「分からない」という表情が、美咲の記憶を妙な感じに逆撫でた。
もちろん、あり得ない。
(蒼太は――死んでいる)
死んだ男の影にまで揶揄われている感じがして……。
カランッ
美咲はグラスに手を伸ばすと、一気に中を煽った。
グレープジュースの苦みに、それとは違う苦みが舌を刺激する。
「ちょっと……」
「不愉快なので、帰ります」
(グラスで千円をこえた飲み物は、カクテルにはなかった)
チャージと併せて二千円もあれば足りるはずと、美咲が財布を出そうとしたとき……。
「待って……」
その言葉に、続きかけた音があった気がした。
言葉を止めた、そんな雰囲気があった。
(今……)
気のせいだろうか。
まるで……。
(名前を呼びかけて、飲み込んだみたいな……あっ!)
戸惑っている間に、司狼の腕が伸びてきて美咲の鞄を奪った。
気づいたときには、美咲の鞄は彼の手の中にあった。
あまりにも早かった。
鞄を奪われたことよりも、その反射的な動きの速さに美咲は驚いた。
「悪かった!」
抗議をさせないように、司狼が勢いよく頭を下げた。
つむじまで見える見事な下げっぷりに、店内の客の視線が集中し、美咲のほうが慌てる。
「あの、頭をあげて……」
「不愉快な思いをさせて悪かった。言い訳になるが、人と接するのはあまり得意ではなくて……これも、その、勉強した人間の男女の駆け引きを試してみた……いや、試したというのは挑戦という意味で……」
さっきまでの自信はどこにいった?
思わずそう問い詰めたいくらい、全身でしゅんっとしている司狼に美咲は慌てる。
慌てたから……。
「しょ、職業病なら仕方がないですよね」
変な納得をして、司狼の謝罪を受け取ってしまっていた。
そして、受け取ってしまった以上は……。
(飲み直すの? でも、もう、飲み物はないんだけど……)
「ジンウーロン、ふたつ」
自分もスプモーニを一気飲みした司狼がバーテンダーに注文すると、バーテンダーはにこりと笑った。
「ひとつは、ウーロン茶を多めにしますね」
「……お願いします」
曖昧な決着になったけれど、大人なのだからと美咲は自分に言い聞かせて席に着いた。
そのとき。「ねえ」声がした。振り向くと、男が二人立っていた。さっきバーに入ってきた客だ。「さっきの店、いたよね?」酒の匂いがした。近い。「……はい」「一人?」もう一人が笑う。「彼氏と喧嘩?」美咲は首を振った。「違います」「じゃあ、ちょっと飲み直さない?」腕が伸びてくる。咄嗟に一歩下がった。「すみません、急いでるので」「いいじゃん」手首を掴まれる。その瞬間だった。 「離せ」低い声が落ちた。 男の手が止まる。美咲が顔を上げると、そこに司狼が立っていた。いつの間に。本当に、いつの間に。足音も、気配も、まったくなかった。「……なんだよ」男が舌打ちする。「彼氏?」司狼は答えなかった。ただ、美咲の手首を掴んでいる男の手を見ている。その視線は、冷たかった。「離せ」もう一度言う。声は静かだった。でも、なぜか空気が張り詰める。男が笑った。「何だよ、お前」次の瞬間。司狼の手が動いた。 男の腕が、あり得ない角度でひねり上げられる。「うっ……!」悲鳴が上がった。一瞬だった。本当に、一瞬。男の膝が折れる。「……な」もう一人の男が固まった。司狼の目が向く。その瞬間。男は一歩後ろに下がった。
美咲と司狼の前にあるグラスの氷は、静かに溶けきっていた。いつの間にか、店内の客は増えている。カウンターの端ではサラリーマンたちが笑い、奥のテーブルではカップルが肩を寄せ合っていた。それでも、美咲と司狼のあいだだけ、妙に静かな空気が流れていた。「……時間、大丈夫か?」司狼が腕時計を確認する。美咲もその言葉に、スマートフォンを確認した。「あ……」(もうこんな時間……)さっきも思ったより長居していると感じたのに、結局それからも長居して、思っていたよりここにいてしまった。「家は、近い?」「……比較的」(悪い人ではないと思うけれど……)警戒心から、美咲は家の場所をぼかした。それに対する司狼の反応は……。(また、この顔)美咲が正しい行動をして、それに満足しているような表情をその端正な顔に浮かべていた。「街灯がなくて暗いとか、人通りがないとかではないから、大丈夫か」司狼の言葉に、美咲は首を傾げた。「どうして?」「ここから比較的近いといったし、美咲はそういう危機管理はちゃんとしていそうだから」「……ありがとう、ございます」美咲は、反射的に鞄を抱きかかえた。その仕草に、司狼の顔に変な表情が浮かぶ。「木崎さ……」「防犯ブザーに、痴漢撃退スプレー?」「……え?」司狼の目が、美咲の鞄に向かう。確かに、司狼の言う通り、防犯ブザーと痴漢撃退スプレーが美咲の鞄に入っている。―― 夜一人で歩くんだから、このくらい持っておけ。鞄に入っているのは、そう言って蒼太が渡してきた防犯
ヤンデレ執着溺愛系の男にする予定で、過去に「仕事」で岡本蒼太は美咲以外の女性と関係をもったが、状の入り込まない100%仕事でのことだから蒼太自身には浮気という認識はなかった。美咲に泣かれたことで彼女を傷つけたことを知り、彼女を傷つけた自分は消して(死んだこと)にして、名前・顔・声・匂いまで変えて新たな男として美咲と出会う。今の自分が美咲に愛されれば満足なのだが、美咲がまだ思っている『蒼太』には嫉妬し、もっと愛されるために愛し方も独占欲も、司狼の愛し方はエスカレートしていく。美咲のほうも、蒼太を忘れられないから、どこか蒼太に似た司狼にひかれるのか、単にこれが自分の男の好みなのか分からず、蒼太が死んだということもあって何となく踏ん切りがつかないじれったさ有り。最終的には蒼太が司狼だと気づかれることなく、美咲が蒼太を忘れて司狼を完全に受け入れる話にしたい。第1~第4話までは先にあげた感じで、全体的に20万文字の作品にしたい。プロットを作ってすごく良いコンセプトです。 特に面白いのはこの構造です。「同一人物なのに三角関係」美咲蒼太(過去の男)司狼(現在の男)しかも司狼は蒼太なのに、蒼太に嫉妬する。これは ヤンデレ溺愛系ではかなり強い設定です。 この強みを最大化する **20万字構成(全体プロット)**を作ります。全体構造(20万文字)恋愛長編で安定する構造はこれです。部文字数内容第1部0~5万字出会い・違和感第2部5~10万字恋の加速・執着
司狼の声は落ち着いていたが、それに含まれた何かに美咲は思わずグラスを持つ手を止めた。「……匂いで、覚えてる?」「あるだろ」司狼は淡々と言う。「家の匂いで、懐かしさを感じたり」「それは……ありますね」祖母の家の、畳のにおい。古い木のにおい。夏になると、開け放たれていた窓から入ってきた湿った風のにおい。美咲の頭の中に、幼い頃の記憶がふわりと浮かんだ。「恋人も同じ」司狼は氷を揺らしながら言った。「香水とか、煙草とか、シャンプーとか……匂いは、記憶に残りやすい」静かな声だった。けれど、その言葉は妙に胸に引っかかった。(なん
「美咲さん」話ている途中で、司狼が美咲を呼んだ。そして、視線を美咲の向こうの空席に向ける。「悪いけど、席を変わってもらっていい?」「別にいいですけれど……」美咲は司狼の向こうの空席に向けて首を傾げたが、エアコンの風が気になっていたので了承した。(お店に入ったときは気にならなかったけれど、思ったよりも長居しちゃっている)美咲と司狼が席を代わったタイミングで、男性の二人組が店に入ってきた。大きな声に、少しだけ粗野な雰囲気。一人の目が自分に向いて、美咲は居心地の悪さを感じたが。「お二人様ですね」カウンターにいたバーテンが、司狼の向こうにある空きの二つの席を示したことで終わった。「タイミングが良かったですね」バーテンダーの言葉に美咲は頷き、安心したことで喉の渇きに気づき、ジンウーロンを一口飲んだ。「それにしてもお客さん、耳がいいですね」「そうですか?」司狼がバーテンダーの声に笑う。「先ほどから、扉が開く前に扉を見ているでしょう?」「階段を下りる足音が聞こえただけですよ」(そう、なの?)「ここの階段はタイル張りで、革靴やヒールの人は慎重に降りるから一歩の音が大きいんです」自分も滑らないように気をつけて降りたことを美咲も思い出した。「さすが、小説家さんですね」「ありがとうございます。ああ、ほら、また」司狼が扉に目を向けた。まだ扉は閉まっている。けれど司狼は、まるで誰かが来るのを知っているみたいに見ている。次の瞬間。カラン、とベルが鳴った。扉が開く。入ってきたのは、サラリーマン風の男性だった。何も聞こえなかった美咲は驚いた。でも司狼は何事もなかったようにグラスを口に運んでいる。「どうした?」「いえ…
バーのカウンターに座って、初対面の男性と向き合う。美咲の日常にはない異質さなのに、手には司狼から渡された名刺。そして反射的に、鞄を探って名刺入れを探している自分。薄暗い照明も、磨かれたカウンターも関係ない。氷の触れ合う音に低く流れるジャズはロマンチックだけれど、現実がしっかりと美咲を捕まえている感覚がした。「緊張が抜けた……」「え?」上から降ってくるような司狼の呟きに、美咲は司狼に目を向けた。(近い……)咄嗟に、美咲は司狼から距離を取る。(しまった……あからさま、だったかな)これでは、意識しているようだ。美咲は司狼の表情を確認しようと、ゆっくりと顔を向ける。そして、司狼の表情に戸惑った。「どうした?」「……いえ、何でも」(なに、この表情……まるで、私が正しい行動をして、それに満足しているみたい)美咲はグラスに視線を固定し、桃色の液体を見ている振りをしながら混乱をおさめる。美咲は、司狼の目的をナンパだと思っていた。(この見た目だし、自信はあったと思う)彼氏彼女とか恋人関係にない男と女が、ひょんなことから一晩抱き合うことはある。美咲に、その経験はない。ただ、死んだ元恋人に対する意味不明な罪悪感を払うために、ときめいた相手でもあるから司狼と一晩過ごすのも悪くないと思いかけた。そう、思いかけた。それを、司狼の意味不明な反応が、押し潰すように消した。まるで美咲が、自分も含めて、男に簡単に身を委ねることを許さないとでもいうような圧力。……いや。それだけではない。まるで――それでいい、と確認しているような顔だった。(この人……初対面よね……)見かけただけでも、覚えていそうな男だ。確かめるように隣に目を向ければ、司狼はグラスを指先でゆっくり回している。氷が静かに音を立てていた。「……なんです?」突然笑った司狼に、観察していた気まずさもあって、美咲の口からはやや険のある声が出た。「聞きたいことがあれば、言えよ」「……こういう店、よく来るんですか?」美咲が聞くと、司狼は笑う。それが本当に聞きたいことなのかと、揶揄うように問う司狼の目に美咲は気づかない振りをする。それにならったのか、司狼も美咲の聞いたことに素直に答えた。「あまり来ない」「それなら、今夜はなぜ?」美咲の問い掛けは、先ほど司狼が美咲に問うた







