Beranda / 現実ファンタジー / 玉封師 / 3.名前を与えた日④

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3.名前を与えた日④

Penulis: 鷹槻れん
last update Tanggal publikasi: 2026-05-04 06:07:02

 思えば幼い頃からずっと生活を共にしてきた玉である。その玉から出て来た眼前の男が、自分の名前を知っているのは何となく理解出来る。でも帝太郎にとっての彼は、つい今し方までただの玉――お守り――でしかなかったのだ。

「ねぇ、名前とかないの?」

「だから、玉封じの……」

「それ以外」

 呼び掛ける度に「ねぇ、玉封じの鬼」なんて言わせる気だろうか? 意図せず溜め息がこぼれる。

「そんなのねぇよ。名前なんざ、随分昔におさらばしちまったし。……まぁ、どうしてもってんなら勝手に付けてくれて構わねぇけど。好きにしな」

「それじゃあ……桃太郎にちなんで」

「|玉太郎《たまたろう》は却下!」

「勝手に付けていいって言ったくせにぃ~!」

 眼前の鬼のセリフに、ぶつくさ文句をたれる帝太郎。しかし持ち前の能天気さですぐににこやかな笑みを浮かべる。

「じゃ、|玉郎《ぎょくろう》! これで決定ね。異議は認めませ~ん。よろしくね~、タマ♪」

「た、タマ……?」

 唐突に差し出された手を条件反射で握り返してみたものの、帝太郎の言葉に玉郎は思わず目を見開く。

「玉から出てきたからタマ♪」

 その発想では玉太郎と大差ないのではなかろうか?

「でも今、玉郎って――」

「それは本名♪」

「じゃ、タマってのは」

「ん~? 猫呼んでるみたいで可愛いから! 僕、ペットって飼った事なかったからさ、一度気分味わってみたかったんだよね~」

 理由はそれだけ。

 言いながら満面の笑みを浮かべる帝太郎。

 いつから俺は愛玩動物になったんだっ!!

 そんな事を、声を大にして言いたい玉郎であったが、長年の付き合いで帝太郎の性格は|知悉《ちしつ》しているつもりだ。

 結論を言ってしまえば、つまりは何を言っても無駄という事で――。

 がっくりと肩を落とすと、

「……せめて『タマ』で切るのだけはやめてくれ……」

 消え入りそうな声音でそう呟いてから、恨めしそうに帝太郎を見やる。

「ん~。じゃぁ……玉ちゃん!」

 単に「ちゃん」が付いただけだから「タマ」と変わらない気もするのだが、ないよりは幾分かマシに思えた。……とすれば、この辺で妥協するのがよかろうか。

 そう考えて気を取り直すと

「こっちこそよろしくな! 頼りにしてるぜ、玉封師!」

 殊更「玉封師」のところに力を込めてニタリと|微笑《わら》う。

 玉郎の、こういう切り替えの早さは帝太郎と似ている気がする。

 玉郎と帝太郎の波長が合ったというのは案外そういうところに起因しているのかも知れない。

「玉封師の件は保障出来ないって言ったじゃん!」

 抗議の声を上げながら玉郎を睨み付ける帝太郎の頭を、挨拶代わり……と言わんばかりにガシガシと撫でまくる玉郎。

 俺じゃなくてお前が猫だ!

 無言で帝太郎にそう刷り込んでいるかのように――。

 ひとしきりそうした後、玉郎はふとこたつの上で視線を止めた。

「ところでな、帝太郎。そこ、大変な事になってねぇか?」

「え?」

 玉郎の指差す先を見て一瞬頭が真っ白になってしまった。

 長い事蝋燭に火をつけっぱなしにしていたため、ケーキの上には生クリームを覆うように五つの色が入り混じった極彩色の蝋コーティングが施されていた。

 倒れた蝋燭の大半は消火していたが、中には辛うじて数本、炎を宿したままのものもある。

「あーーーーっ!!」

 これがおよそ十二年前。二人の出会いの大体の経緯である――。

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