Se connecter「分かっている……その為に私が言いだしたはずの約束を破らせたことも。だが……」 サーラの声は一層低くなり、周りの空気が熱を帯びる。「あいつは滅多なことでは弱音を吐かん。その奴がここまで必死に助けを求めている……嫌な想像ばかりが頭をよぎる。既に嫌な予感が当たっているというのに、これ以上何が起こるか分からないとなると……」「させない」 俺の言葉は、俺が思っていた以上に低くなっていた。「俺の力は死んだ人間を生き返らせることはできない。獣なら大丈夫なのに、理由とか理屈とか、そんなのは分からないけど。でも、逆を言えば、生きてさえいれば俺の力は通じる。通じさせる」「主よ……」 守護獣としての本能か、守られているヤガリが傍にいるおかげで炎になって飛んで行かないで耐えているサーラが、燃える瞳を俺に向けている。「主よ、我が暴走しそうになったら止めてくれ。我の力は溢れる炎水。それを心のままに暴走させれば、どのようなことが起きるか……」 サーラは忍耐力を試されているようなものだ。そもそも炎は燃え、荒れ狂うもの。制御できない熱量こそが本質。その彼女が必死で抑え込んでいる破壊の力……どれほどのものか想像すらつかない。「天馬さんを助け出した時」 俺はサーラに届くように力を込めて言った。「俺の守護する者をひどい目に遭わせたなどと言われないようにしよう」 ぐ、とサーラは息を飲み込んだ。「……分かっている。我の炎に耐えうるは、地においては我が主と我が同輩以外にはなし。彼の守護対象を傷つければ、その先一生涯文句を言われかねぬ」 呟いて、サーラは顔をあげた。「すまん、シンゴ」 いささか強張ってはいたが、普段のサーラの笑顔だった。「焦っていた。シンゴは精一杯急いでくれているのにな。そうだ、今できることを一生懸命やるしか、我ら生物にしかできることはないのだから」 自在雲の周りに溜まっていた熱気が散っていく。「見えた」 ミクンは前方を指さした。「あそこ! ちょっと盛り上がってるところ! 周りにいっぱい影がある……あ!」「どうした!」「ひどい……なんであんなことができるの……」 俺以上に視覚のいいレーヴェも、まっすぐ前を見て言葉を失っている。 数十秒後、俺たちはミクンやレーヴェの見たものを目の当たりにする。 そこにいたのは……数十の魔物。ここま
風を切って自在雲が飛ぶ。「空を征く鳥でもここまで速くはないだろう」 プフェーアトさんの感心した声。「神具だからな。俺にある信仰心が高ければ何処までも速くなる」「しかし、この背に生神様と守護獣様を乗せたとは。罰が下りそうだ」「俺が大丈夫だから、下さないよ」「それより」 一瞬振り返って、仲間もついてこれないほどのスピードなのを確認すると、プフェーアトさんは俺を見た。「天馬様は危険なのか」「同じ守護獣であるサーラがそうなんだって言うからにはそうなんだろう」 真剣なプフェーアトさんに俺も真剣に答えた。「俺たちは君たちに会ったあの時、敵対勢力の影を見た。魔物がケンタウロスを連れてどこかに消えている、そして洞窟である神殿がサーラの示した範囲内にあり、何より彼女自身があれだけ……ってことは、神殿が荒らされている……だけならいいけど、守護獣を封じ、自分たちの聖域として扱っている可能性もある」 そして恐らく、ケンタウロスに対する人体実験も。 喉の出口まで出掛かった言葉を飲み読む。「多分」 俺の小声に、プフェーアトさんが反応した。「辛いものを見るかも知れない」「承知の上です。それでも、ケンタウロスの問題にただの一人たりともケンタウロスが来ないと言うのはおかしいと、オレは思うのです」 そして進む先を見る。「それでも、やはり神の力なのですね。紛れもなく真っ直ぐに神殿を目指している」「間違いはない?」「はい。随分前、気配が告げた場所に向かっている」「この水晶球は、助けを求めている存在に反応する」 自在雲の先端に掲げられるように置かれた導きの球は、しっかりと北を示している。「これほどまでに強い反応は初めてだ。守護獣だけじゃない……捕らえられたケンタウロスの物も混ざっているかもしれない」「まだ、生きているのか?!」「殺すのが目的だったら捕らえたりしない。生かして捕らえて、そして……」 実験材料に。 さすがにそれは飲み込んだが、多分言葉の切れ端は届いたんだろう。プフェーアトさんは深刻な顔になった。「そうだ、生きたまま捕らえるには理由があったはずだ。……オレが忘れてしまっただけで。何か……何か、生神様の言う敵対勢力とやらが何かしたんだ」 サーラはイライラと前を見ながら頷いた。「これ以上あんな悲鳴を出させてたまるか……これ以上あ
「天馬が助けを求めている。誇り高いあいつがこのような弱弱しい風を吹かせてまで呼んでいるということは、天馬は今自分では何もできない状態だと言うことだ。あいつが優先するはケンタウロス。ケンタウロスが滅びかけていて何もできない状態を見過ごすことはできない。だから助けてくれと、呼んでいる」 サーラは苛立ったように言った。「いい、この風を追っていけば神殿に辿り着けるだろう。シンゴ、行くぞ」「こ、この広い草原の、彼方北にある神殿に、二本足で行くと言うのか?!」「サーラ……正体ばれまくって、どうすんだよ」「天馬が必死で助けてくれと叫んでいるのだ。ケンタウロスの守護も出来ぬ己を不甲斐なく思い、私に頼む風が吹く。助けてくれと。来てくれと。恐らく封印されて、風を飛ばすのも精一杯、……敵対勢力にこの風に気付かれれば、自分の居場所すら告げられなくなる。ケンタウロスをのんびり説得している間はない。シンゴ、雲を出せ。あれなら道も迷わず一直線にこの草原を飛べる」「ま、待て待て待て!」 パールトさんが慌てて口を出してきた。「守護獣がヒューマンとエルフとドワーフとフェザーマンを連れて、ドワーフの守護をおいてこんな所まで来ているというおかしい話が……」「シンゴ、いや」 サーラは言った。「我が主たる生神よ。神子の頼みを聞いてほしい。我が朋友と、朋友が守護する種族を救うため、神具、自在雲と導きの球を使ってくれ」 俺は溜め息をついた。 ここまで焦っているサーラは初めて見る。同じ守護獣で仲が良かったのであれば、救いたいと思うだろう。 助けを求める人を助けられる人間に。 それが、おじさんの言ったことだった。 だから、俺は。 もももももっと空間から出てきた雲に、ケンタウロス三人が目を丸くした。「生神、だと?」 パールトさんが呟いた。「世界が滅亡する時再生するために降臨する生神が? 守護獣を連れ?」 俺はもう一個、導きの球も引っ張り出し、自在雲の真ん前に置く。「導きの球よ、天馬の居場所を告げろ!」 ほわんと水晶球に宿った光が、真っ直ぐ北を指した。「それってそうやって使うものなんだあ」 ミクンが感心したように言った。そう言えば前に空から落ちてきた大人のアウルムを救う時使ったっきり、後で見せてやるって約束してたっけな。「グライフ、君も乗ってくれ」「ぐる?」「君の
カルさんとパールトさんは、勢いに押されて頷いたものの絶句している。そりゃ、いきなり守護獣とか言われてもそりゃ信じられんよな。でも恐らく成人の旅に出る前に自分たちの守護獣を会っているらしいから、ケンタウロスでもないのにその正体を知っているのは守護獣か神だけとなるんだから。……俺は神だけど例外だな。「ケンタウロスの方々に、我らが神殿に征くことをお許し願えまいか」「いいや、それは……」「気配がそう言っているのだ、我らは従うのみ」 そう言ったのはプフェーアトさんだった。見ると、サーラに向かって膝を折っている。ヘルプ機能の豆知識で、ケンタウロスは信頼した相手にしか膝を折らないって出てたな。背中に乗せて、それで何か分かったのか。「大地の民の守護獣よ、我らの代わりに神殿の無事を確認してはもらえまいか」「プフェーアト!」「ケンタウロスは三度、神殿には行けない。パールトはダメだ」「我はどうするのだ」「カルは行ける。だがカル、お前はこの方々を信頼してはいないだろう」「当たり前だ。唐突に守護獣など……守護獣とは獣。人の姿をしているではないか」「守護獣ならば人の姿も作れよう。そして、サーラ様が大地と炎の守護獣であるのならば、風と大地……同じ属性を持つ我らが守護獣を知っていてもおかしくはない」 あれ? サーラってケンタウロスに会ったことがないって言ってたような?「ケンタウロスにはな」 心の中を読んで答えるのは声でも意思でもやめて欲しい。「天馬とは仲が良かった。我らは積極的に人間と関わる方針だったから、私がドワーフの、あいつがケンタウロスの守護獣として人界に降りると決めた時に別れを決めた。ドワーフとケンタウロスは同じ大地でも岩と草原。交わることも難しいだろうと、袂を分かった。六千年ばかり前のことだ」「その聖地が荒らされていて、天馬が封じられている可能性もあるのだ。守護獣は封じられていても守護する人間に恩恵を与えることができる。あいつは弱っている」 サーラは彼方を……神殿があると言う方向を見た。ひゅう、と風が舞う。「風が助けを求めている。私がここにいることに気付いている。早く来いと」 ぽつり、サーラが呟いた。「風の声が聞けるのか!」「ケンタウロスでも滅多に聞けないと言うに?!」「だから言っているだろう、守護獣と」「気配が言う存在だ
「減っていくって」「ケンタウロスは成人の旅を終えないと仔を残すことができないのだ」 俺はひゅっと息を飲んだ。 それじゃあ、ケンタウロスは種族の存続の危機に晒されてるんじゃないか。「神殿に調べに行こうとか、考えなかったんですか?」「ケンタウロスにとって使命と神殿は絶対だ。気配もないのに神殿に行くなど……」「ケンタウロスさんって、神様の声が聞こえるんだね」 それまでグライフの上で黙って話を聞いていたアウルムが口を開いた。「ほう? フェザーマンにそう言われるとは思わなんだ。神の声を聞けると言い神に愛された種族と言うフェザーマンが」 パールトさんの言葉には明らかに皮肉が隠されていた。フェザーマンの話を色々聞いているんだろう。旅を終えて戻ってきた大人なら。 だけど、アウルムは気付いた様子もなく続けた。「わたしには神様のお声は聞こえない。でもケンタウロスさんたちは、神様の、やっていいとか、やっていけないとか、そう言う声を聞けるんだね。すっごい。すっごい。すっごいよ」 皮肉に気付かれず真っ直ぐに返されて、パールトさんは複雑な顔をした。「神殿って、どんな形をしているのか、それを教えてくれないか?」「……洞窟だ」 しばらく悩んだ後、パールトさんは言った。「教えてくれるんだ。……もしかして、気配?」「……ああ。全員に帰草の気配がしてから、気配が吾輩たちに下ることはめっきり少なくなった。ケンタウロス狩りが起きて、それでも気配はしない。だが、唐突に、気配がしたのだ。吾輩たちが、お前たちに頼らなければならないと言う気配が。だから話した」「ケンタウロス族の守護獣は?」「風と大地の守護獣、天馬」 俺の問いにすかさずサーラは言った。「ケンタウロスたちに気配がしなくなったのは、恐らくは飽きた日だ。神がモーメントを見捨てると決めた日。だが、守護獣は残っている。天馬は恐らくは神殿で、封じられている」「何故それが分かる!」「私が守護獣だからだ」 サーラはあっさりと言った。「岩と炎の守護獣、火蜥蜴」「おい、サーラ!」「天馬はまだ在る」 真剣な声で、サーラは言った。「気配は、天馬がケンタウロスに与えた恩寵だ。それが我々が
三人は端末の画面をまじまじと見つめていた。「この辺りはプレアリーの縄張りだ」「ここは雨季に川が出来て、洞窟などない」「ここは一面草原で、建物などない」 ていうかこんな草原にケンタウロスの住む建物あるんだろうか。見た限りないんだが。 こっそり頭の中でヘルプ機能を展開。端末に出たらどうしようと思ったが。ちゃんと頭の中に出てきた。【ケンタウロス族は基本屋外で立って眠る。雨季などは水に浸からない高地を縄張りとして選ぶ】 サバンナみたいなもんかな? サバンナにいるのはシマウマだけど。ていうかほんとケンタウロスは本能のままに生きてる。ある意味理想だなあ。自然と共に生きている、か。そう言う人間なんだな。「ん? ここは……」 パールトさんがふと指を止めた。「プフェーアト。この辺りは……」「……ああ。だが、まさか」「どうしたんです?」「ここはケンタウロス族は滅多に近付かない場所だ」 パールトさんは、北の果てを指した。「何で近付かないんです? 戦争でもあったとか……」「いや、逆だ」 カルさんが首を横に振る。「ここにあるのは、我らが神殿だ。ケンタウロスの守護神と守護獣が共に奉られている。だが、ケンタウロスがこの神殿に行けるのは一生のうちに、二回だけだ」「……成人の旅?」「何だ、知っているではないか」「いや、彼女が」 俺はレーヴェを指した。「成人の旅をしているケンタウロスに昔出会ったと言っていて。それを覚えてただけ」「では、一から説明せねばなるまいな」 カルさんはこほんと一つ咳払いして、語り始めた。 曰く。 ケンタウロスは、成人に認められたその日に、『我らが神殿』へと向かう。ケンタウロスには誕生日や成人と言う感覚はないのだが、あの気配で自分が親元から離れる時が来たと知る。そして神殿へ向かう。ケンタウロスはその日を迎えるまで神殿の場所を知らないが、あの気配がケンタウロスを導くと言う。神殿でケンタウロスはこれからもケンタウロスとして生きていくと誓う。そうすると、神から使命が与えられるのだ。使命の内容は、与えた神と、受けたケンタウロスしか知らない。ただ、その使命を「成人の旅」と呼び、世界を駆けて使命を果たし、再び神殿に戻る。そうして、ケンタウロスは成人と認められて草原に戻れるのだ。「じゃあ、三人とも成人の旅を……」「い