LOGIN……そうだな、後は守護獣次第か。 俺は再び土山に手を当てた。「天馬、俺の、神子になるか?」(願ってもないこと、我が守護すべき存在を守れるだけの力が与えられるのだから) そして玲瓏とした声が響く。「生神よ、我に名を授けよ! 汝と共に征く我を繋ぐ新たな名を!」 土山が真っ二つに裂けて、背に大きな翼を持った真白の馬が姿を現した。風と大地の守護獣、天馬。 んー……。「ベガ」 俺は名を呼んだ。「お前は今日からベガ、俺の神子だ!」【神子候補:べガ 信仰心レベル50000 属性:風/大地/神/聖】 端末をタップした瞬間、天馬を包んでいた真白の光が、荒れ狂う風となって空間を吹き荒らした。「うああっ」 魔物たちが清浄なる風に打たれて悲鳴を上げる。そう、魔の者を浄化する降魔の風だ。 すぅぅ、と四方八方に魔物を追い散らしていた風が、俺の目の前で渦を巻いて形を成した。「ベガ……ベガか」 呟くような声。「では、我はこれよりベガだ、よろしく頼む、生神よ」 背の高い、クールビューティーが立っていた。 ……また女。 なんで俺が名付けると女になっちゃうわけ? と思って、星のベガが織姫星だったことを思い出した。俺がペガサスからペガ、ベガと変えただけなんだけど、無意識で女にしちゃったか。 そっか、これも俺の好みかあ。胸は確かにこの顔立ちと体型から行けばスレンダーな方がいいな。しかし生神様とか言っておきながら好みのタイプの女性集めてるって性癖晒して歩いているようなものじゃないだろうか。「さて」 膝を折るプフェーアトと、騒動の隙に逃げ出そうとしていてプフェーアトに炎の縄で縛り上げられた魔物と、念入りに蹄の跡をつけられてこれまたギッチリ縛り上げられた魔族のオグロ。「済まなかったな、我の力が足りなんだが故に。そして、よくぞ生神を案内してくれた。汝の判断がなければ、生神が遅れ、被害者も増えたと思う。その功績を持って、プフェーアトをケンタウロスの成人と認めよう」「守護獣御自ら……ありがたき……お言葉……!」 そこへ、足音が聞こえてきた。「来たか」 サーラがずるずると魔物たちを引きずって現れた。レーヴェとミクンも引きずっている。「大漁だな」「囮にしたからな」 サーラはニッと笑った。「子供を閉じ込めてある部屋の二つある入口の
『救出……感謝、する……』「サーラも直来る」『火蜥蜴の、今の名か……』 掠れる意識が流れ込んでくる。「とりあえず、グライフ、頼めるか」「ぐる」 グライフは悠然と歩き、土山に頭をつける。 グライフは神子じゃないけど、神獣で、俺とは主従関係にはあるし、天馬と属性が近いから、俺と天馬を繋ぐ溶媒になってくれるだろう。 グライフの背中に手を当て、俺は生命力を送り込んだ。「ぐぅっ?!」 一瞬グライフの身体が強張ったけど、ちゃんと生命力はグライフを通じて天馬に送り込めた。「悪いグライフ、無茶だったか?」「ぐるる。ぐるぅぐる」 大丈夫、と言いたげなグライフににっこり笑って頭を撫でてやって、土山を軽く叩く。「大丈夫か?」『生神の生命力……感謝する』 さっきよりはっきりした意識が届いた。『だが、情けない話だ』 自己嫌悪のにじむ声。『守護獣でありながら、守護する者を守ることも出来ず己を守ることも出来ず……彼らが切り刻まれるのを見ているしかないなどとは……』「……俺もだよ」 俺は首を竦めた。「人間を救うために来た俺なのに、こんな所でこんなヤバい研究されてるなんて思わなかった。俺がもう少し早く来れば、もう少し被害者が少なかったかもしれない……そう思うと、嫌になる」『生神もか……』 お互いに溜め息をつき合って、俺は心話を飛ばした。(ああ、シンゴ。天馬は見つけたんだな? いい風が吹いている)(完璧にじゃないけどな。まだ天馬は土山の中。俺の生命力を送り込んであるけど、守護獣を解放させる正しい方法俺知らないから)(神子契約を結べばいいではないか) サーラは何でもないことのように言うけど。(天馬は守りたい相手がいるだろう) そう、守護すべき存在を守れず悔やむ守護獣を神子にして連れ出すわけにはいかない。(シャーナを忘れたか?)(え) 忘れるわけがない。俺の最初の神子、世界を救ってくれと頼んできた、誰もいない神殿でただ一人俺が来るのを待っていた女性。厳しい旅には耐えられないからと神殿に残って俺たちのフォローをすると決めた強い人。(神子契約は確かに神子と生神を繋ぐ特別な絆だ。神子に信仰心がある限り、それは例え地の果てと果てに分かたれていたとしても絆は切れん。シャーナはお前と心を繋げるし、お前もシャーナの今を知る
「神威【鑑定】」 きゅう、と魔物の指揮を執る魔物にピントを合わせる。【鑑定結果:種族名/魔族ダークエルフ(闇魔術系) 固有名/オグロ】 魔族?【魔族とは敵対勢力に属する死物の種族名の一種であり、下から魔獣、魔物、魔族、魔人と続く。そのトップに立つのが魔神であり即ち滅亡の神、敵対勢力の長である】 なるほどね。これまで出てきた魔物よりワンランク上ってことか。あのワー・ベアが言っていた通り、いよいよ上層部がお出ましになる事態なわけね。 しかし……オグロとかいうヤツ、俺を生きたまま捕まえようって考えてる時点で、頭が回るとは思えないなあ。 頭の中に浮かび上がったそいつのステータスに目を通して、俺は肩を竦めた。「な……なんだ……? いや、私は魔族、魔物の上に坐する存在、それを生神が知って恐れ入ったのかもしれない。ならばそれを利用する価値はあるな」 ……うん、考え事は呟かないようにしようね。思い付きが全部出てるから。「うん、よし、私は偉い。大丈夫。出来る。これは神が私に与えたもうた機会だ。これを機会に私は魔人となり、神に傅く存在となるんだ。よし!」 どがっ。 うん、そりゃそうだろうなあ。ここまで考えてること口にして行動に移さない敵がいりゃあ、そりゃ俺だって蹴るだろうなあ。 後脚で蹴り飛ばしたプフェーアトは、くるりと体制を入れ替えて今度は前脚で魔族オグロを踏みつぶした。「ぐぎゅ」「魔族様が魔人様になっても俺は捕まえられないと思うけどねえ」 踏まれている魔族の前に座った俺の口角がまた上がる。「な、な、わ、私の考えを何故……いや、神に近い存在である私が神と同系統の考えを持ってもおかしくない……」「おーい、誰もこいつに、あんたは自分の考えを口にしちゃう癖があるよって教えてやんなかったのか? 可哀想に、自分の考え敵の前で喋っちゃった挙句不意付かれて潰されちゃったよ」「へ? へ?」 逃げ出そうとわたわたしていた魔物たちが、俺から一斉に目をそらす。うん、多分、知ってて誰も教えてやんなかったんだろうな。人望ねーな魔族様。「はい逃げんなよー? 逃げたら痛い目に遭う可能性が五倍増しになるからねー?」 オグロはプフェーアトに任せて、俺は魔物の群れに向かって歩いて行った。 多分、また、怖い笑みを浮かべているに違いない。 蒼海の天剣を握って
聖域に繋がるであろう入り口には、風が吹き荒れていた。 風の向こうからは怒鳴り声が聞こえてくる。「この風は」「本来は、気配を受け止められるようになったケンタウロスを清めて通す聖なる風が吹いていた」 プフェーアトは忌々しそうな声で言った。「今は……気配ではなく悲鳴が聞こえる」「悲鳴?」「近寄るな、触れるな、そう言う……声だ」「魔物どもが天馬をひどい目に遭わせている。そう考えていいか?」「ああ。中の連中は一網打尽にして蹴り飛ばしていいか?」「殺すなよ?」 俺はニッと笑った。「サーラがキレてるから。多分守護獣として属性は違うけど仲は良かったんだろうな。アウルムにキレた時もそうだけど、彼女がキレたら止められないぞ。力づくで抑えることは出来るかもだけど、俺、サーラの恨み買いたくないもん」「確実にひどい目に遭わされると言うんだな?」「簡単には殺されないだろうなあ。サーラは炎。キレたらだーれも止められない。事実、さっきの実験室も一瞬で蒸発したし。いや、一瞬で終わらせないだろうな。いたぶるだけいたぶるね。ミディアムレアに焼き上げて美味しくいただくだろう」「では、その前に蹴らせてもらうぞ」 俺が頷くと、プフェーアトは真っ先に風に突っ込んで行った。俺も続く。 辿り着いた部屋は、風が吹くほど広い部屋だった。通風孔でもあるのかと思ったが、そんなものはない。広い部屋のまん真ん中に一つの大きな土山があって、魔物どもがそこに群がっている。「急げ! 守護獣は連れ出さないと!」「ケンタウロスは?」「ソルドたちが向かった!」「くそっ、絶対ここに辿り着かないと思っていたのに!」「生神がもう入り込んでいるぞ!」「急げ! 移動だ!」 ががんっ! 岩を叩き割る音に、移動作業して気付かなかった魔物たちが飛び上がって驚き、恐る恐るこちらを向いた。「い、生神!」「グリフォンもいるぞ!」「ケンタウロスまで!」「焦るな! よく見ろ!」 怯えた顔を見せた魔物たちを一喝したのは、一番奥にいる大柄な魔物だった。「生神とケンタウロスとグリフォン、だけ、しかいない! グリフォンはいい実験材料だし、ケンタウロスを連れて行くことも、生神を捕えて実験に使うこともできるだろうが! そうすればこっちは大出世! 神様直々に褒美が与えられ
「生神様が連れているからただの獣ではないとは思っていたが……」「俺の神子でもあるから、神具でも持ち出さない限りコトラを倒せる敵はいないよ」「空の獣がいささか気にしているように見えるのだが」「だからお前のことはちゃんと信用してるって、グライフ。神子契約してないからって拗ねるなよ」 鷲の頭を撫でてやる。「信用してるから、お前に残ってもらったんだ」「ぐる?」「ここにいるのは大地と風の守護獣だ。空と風の神獣であるお前とは近しいだろ?」「ぐる」「多分守護獣は弱っている。封印されて、こいつらが研究に使おうかって程弱ってるって言ってたろ?」 研究魔物を足で転がしながら俺は言う。「風と空の神獣のお前なら、シンクロしやすいだろう。封印を解きやすいかもしれない」「ぐる!」 任せろ! と言わんばかりにグライフは胸を張った。 本当は神子契約したいんだけど、アウルムが真っ当に育ったら、その証として彼女に戻してやりたいと言う気持ちもある。だから主従契約は結んでいるけど神子契約を結んでいないと言うのがグライフの中途半端な立場。 俺は炎の縄をプフェーアトに渡し。端末の画面を見た。 本道を通る子供たちとコトラの周りに光点はない。サーラたちの光点がもう一つの光点が多い所に向かっていく。「こっち側に来る奴はないな」「仔馬を取り返されたことに気付いたのだろう。まだ捕えている仔馬や大人を連れて逃げようとしてるんだろうな」「そこでサーラに潰される、と」 サーラたちの光点は、光点が集まっている場所のすぐ傍から動かない。そして、光点が数体ずつ現れては、消えて行ったりサーラの光点の傍で動かなくなったり。多分、そこにいるケンタウロスを連れ出そうとやってくる魔物たちを陰で待ち伏せて、一体ずつ捕まえて締め上げてるんだろう。サーラのしゅうね……もとい、怒り……もとい、もとい……ダメだ、俺の少ない語彙力では今のサーラの感情を表現できない。「じゃあ、守護獣の方に行こう。きっと、封印されてるっていう守護獣も持ち出されようとする可能性がある」「封じられた守護獣が、無理やり移動させられたらどうなるか……」「移動させたらダメ、アウト」 俺はヘルプで調べて首を振った。「守護獣が封印されるのは、自分の意思と強要の二種類あってね。その地の龍脈……って通じた
「しゅ、守護獣です!」 研究者の魔物は悲鳴を上げた。「ケンタウロスの研究が一通り終わったので、今度は、守護獣の実験をすると!」「なっ」 プフェーアトが今度は2メートルを超える高さまで魔物の皆蔵を掴んで持ち上げた。「我らが守護獣を、実験に、使うと?」「は、はい! 封印し、いい具合まで弱って来たので、色々調査を始めようと!」「あ~あ」 俺は溜め息をついた。「そいつらはサーラに殺さ……もとい、締め上げられるな」 こんな近い場所まで来てしまえば、同じ守護獣である天馬の声を聞き漏らすサーラじゃない。きっとその声を聞く。サーラが乗りこめば……その場は灼熱地獄となるだろう。レーヴェやミクンも止めやしないだろう。 グイ、と炎の縄を引いて、悲鳴を上げる研究者を引きずる。「どうする? 外で待つ?」「外?」「十人ほどの子供と、大人……成人してるかは分からないけど、大人が一人、いる。俺の仲間が出入り口を塞いでいる。この神殿の中は把握してるから、君たちを戻すことができる」 子供たちは顔を見合わせた。「僕たち、大人じゃないから、足手まといになるよね」「……ん、まあな」 こういう時口先だけの慰めを言っても意味がないのは知っている。そして、この子たちは現実を受け止めることができると思う。「コトラ」「ぅな?」 それまで床に転がされた魔物を軽く爪で引っかいたり鉤爪に引っ掛けたりしていたコトラとグライフがこっちを見た。「この子たちをヤガリに預けて戻ってくる。出来るか?」「ぅな!」「ぐぅる……」「次に子供が見つかった時はグライフに頼むよ」「ぐぅるる!」 軽く魔物を蹴飛ばして悲鳴をあげさせて、グライフはコトラを見た。 コトラとグライフ、どっちが強そうに見えるか。 どうしたって足の太い子猫と成獣したグリフォン、見た目ではグライフに軍配が上がる。「大丈夫だよ」 不安そうな顔をした子供たちに、俺は笑った。「コトラは灰色虎だから。そこらの魔物なんて一掃できる。君たちを守りながら入口へ戻るなんて簡単な事」「灰色虎?」「山の獣?」「そう。山の聖獣。大きくないから弱そうに見えるけど、強いよ?」「大丈夫だ、外で仲間と待っていてくれ。オレたちはこんなふざけたことをした連中をとっちめなきゃならないからな」 プフェーアトの笑顔がダメ押しだったんだろう、子







