Masuk……お前の友達は私にとっても友達なのだから、いつでも呼んできなさい。 そんなおじさんだったから――最終的には俺に甘いおじさんだったから、俺が神子にした仲間……友達を、殺さなかったんだ。 俺を殺そうとした人間をそんな風に信じるなんて馬鹿げてる、と言う人もいるだろう。 でも、身内だから、育てられたから、分かることだってある。 エンドでサーラたちに出会った時、魔神の力なら殺すことだってできたんだ。それをしなかったのは、多分、魔神として生神である俺を殺すことになったとしても、俺の大事な友達は守らなければならないと思ったから。 魔神として俺と戦うことになるかもしれない。その結果、俺を殺してしまうこともあるかもしれない。 それでも、俺が手に入れた大事なもの……友達だけは、守らなければならないと。 例え、その結果、俺を殺し、彼らに殺されることになったとしても。 ああ、笑えるな。 笑えるくらいに矛盾してるな。「全てを破壊する魔神が、生神の神子を守るってどんだけだよ」「そう言う貴様は、生神の力を使い、死物を苦しめただろう」「そうだよ」「全てを救う生神が?」「俺は、全てを救うなんて言ってない」 ゆっくりと、天剣を構える。「手の届く範囲、助けられる人を助ける。全ての人間を救えるなんて思い上がってないからね」 だから、魔獣は助けたけど、他の死物は許せなかった。 俺の手の届く、俺が助けたい人たちを傷つけていたから。 魔獣は、助けてくれと言っていたから、そして俺の手が届いたから助けた。「結局、一人ですべてを救うなんて無理なんだよ。滅ぼすのも」「なら……何のための生神だ……何のための魔神だ……!」「貴船さんなら知っているかもね」「貴船……?」 仮面の下、おじさんの目が丸くなっていることは簡単に想像がついた。「お前、貴船を知っているのか!」「知ってるも何も、さっき会ってきた」 そうして、天剣を構える。「会いたかったら、一度死んでくれるか?」「冗談を」 おじさんはひび割れた仮面をむしり取って床に叩きつけた。 儚い音がして、仮面が粉々に砕け散る。 額から血が流れ続け、止まることがない。鮮血を帯びたおじさんの顔は、これまでにない程激怒していた。「お前が……お前が私を殺すことは出来ないのだ……私がお前を殺せても」「殺さ
解放されたサーラの混乱する意識が伝わってくる。サーラだけでなく、全員が混乱している。 そりゃそうだろ、最果ての地でいきなり争いに巻き込まれて封じられて、目が覚めたら水墨画の世界だったら誰だって混乱するよ。「私……は、魔神に……」「サーラ! レーヴェ! ヤガリ! コトラ! ミクン! アウルム! ブランも! よかった、全員無事だったか!」「シンゴ?! ここは一体……」「それは我が説明する! シンゴは魔神に集中しろ!」 ベガの絶叫が耳と頭脳の両方に届いた。 それもそうだ、相手は魔神、力の源を叩き割ったくらいでぶっ倒れる相手じゃない。 俺はすぐに魔神に目を戻す。 魔神の仮面は、善悪を見抜くという第三の目を印すルビーが砕け、その欠片がまるで血しぶきのように散っていた。「ぐう……う」 魔神は膝をついて、仮面の砕けた額を抑えて震えている。「馬鹿な……馬鹿なっ」「皆を封じることで、防御の力が失われていたんだ」 俺はゆっくりと、ゆっくりと間合いを詰める。「封印なんて真似をしなければ、第三の目が失われることもなかったのに」 魔神が気付いた時には、俺はもう、天剣の間合いに入っていた。「なあ……おじさん?」 よろけながら立ち上がる魔神に、俺はそう呼び掛けた。「なんで、神子を、滅ぼさなかった? 全てを滅ぼす魔神が、生神の神子を」「……気紛れだ」「本当に?」「…………」 聞かなくても、分かってた。 魔神が……おじさんが、神子を殺すのではなく、第三の目が弱体化するリスクを冒してまで封印した理由。 ……俺の、仲間だったから。 俺はおじさんの世話になっていた身なので、小学校の時から滅多に友達を家に連れて行くなんてことはしなかった。子供心に迷惑をかけると思っていたから。 でも、俺が風邪を引いて学校を休んだ時、プリントと皆からの「元気出して」レターを持ってきた友達二人に、おじさんは「風邪がうつるから」と俺と会わせなかったけど、お菓子やジュースでもてなしてくれて、「ずっと真悟と友達でいてくれ」と言った。トイレに降りてきて、俺以外の子供の声に気付いて応接間を覗いたのが、その場面だった。二人の手を握って、頭を下げていた。 ……小学生相手に、大の大人が。 友達を連れてきてもいいんだぞ――それが、おじさんの口癖だった。
(じゃあ、あのルビーを壊せば?)(恐らくは。例えそこにいなかったとしても、魔神の力の一部を大きく削ぐことになるのだから、無意味ではないだろう)(ありがとう、ベガ!)(気持ちは分かるが、しっかり倒せ!)「了解!」 俺は返事を声にして叫んだ。 しかし、この距離で、あのルビーを破壊することは難しい。天剣なら砕けるかも知れないけど、仮面を斬りつけるのが難しいだろう。 なら……。 魔神の剣戟を避け、俺は大きく後ろ向きにジャンプする。 禁断の剣の範囲外に出た。「謝る気になったか?」「ならないね」 俺は体の中を駆け巡る力に、属性を与えた。 そして、その呼び名も。 力に属性を与えて名をつけて具現化する。それが、魔法とも、神威とも呼ばれる力。「光の粒、いっぱい!」 叫ぶと同時に、無数の光の粒が俺の全身から現れた。 ……ネーミングセンスは相変わらず最悪なので許してほしい。 とにかく、現れた光の粒を動かして見る。 光の粒は、別々に、バラバラで、俺の望んだとおりに動く。「じゃあ……光の粒、行け!」 俺は魔神を指差した。 光の粒はそれぞれ軌跡を描きながら魔神に向かって飛ぶ。「この程度で、私を何とか出来るとでも?」 出来ると思ったからやってるんだけどな。 魔神は闇の盾を張り、光の粒を受け止めようとするが、粒は大きく迂回したり上から下から魔神を襲う。「闇粒!」 おじさんの身体から闇の粒が現れ、光の粒目指してぶつかっていく。 相殺するつもりか。 でも、信仰力の強さでは俺が上、その分数を出せる! 俺は次々に光の粒を生み出しては指した魔神に向けて飛ばす。 魔神が小さく舌打ちした。 相殺しきれない……ある程度は受けなければいけないと覚悟したか。 まあ、力を絞り込んだとはいえ数が数、一個一個は魔神を傷つけられても貫けるほどの力はない。 ある程度のケガは覚悟した。 それが、俺の狙い! 残った光の粒を、全身全霊で操った。 ぎゅうんっ! と音を立て、粒が合流して、光の塊になった。「む?」「悪いけど……仲間は……返してもらう!」「しまっ……!」 魔神は気付いた。だが遅い! 光の塊が仮面のルビーにぶつかる! 俺は光の塊に力を注ぎ込む。 ぱきっ。 乾いた音がした。「な……な!」 消えた光の塊の
「てえりゃああ!」「ぬんっ!」 神の剣同士がぶつかり合い、火花を散らす。 魔神の攻撃は、一撃一撃が、重い。 両手剣の全力での攻撃は、今まで受けた攻撃の中でも一番強い。 それを水鏡の盾で受けるのは、正直キツイ。 おじさんてこんな怪力だっけ。いや、神の力でブーストしてるんだ。 なら、俺も!「俺の……力になれ!」 魔獣の信じてくれる力がある。それを【混】の属性で俺の力にする。 信仰心とは言え、その力は破壊の力。そして、生神である俺にとって、破壊とは決して無縁の力じゃない。 だって、何かを作るためには何かを壊さなければならないから。 だから、魔神にも逆に創造の力があるはずだけど、魔神的考えでは自分にはそんな力などないと思うんだろう。そして、死物の正義だって、自分のそれと違っているとは思ってもいないんだろう。 生物にも、死物にも、生きている存在それぞれに正義がある。 魔獣にだって。 魔獣が死物の正義から解放された途端に俺に味方したのは、魔獣たちの正義は魔神の正義とは違うという証拠。 確か、なんか名言があったな。 みんなちがって、みんないい、って。 結局そう言うことなんだよな。 おじさんが激怒したのは、自分の正義を揺るがす存在が現れた時だった。 自分の正義を傷つけられるのを放置できない。 そう言う人だった。 だから、魔神は今、激怒している。 自分の正義を教えた甥っ子が、真っ向からその意見に反論したんだから。 正義を教えたはずの俺が敵に回る。俺も最初おじさんと戦うなんて認められなかったけど、おじさんも俺と戦うことになるなんて思ってなかったはずだ。 だからこそ、悔しいんだ。 正反対ではあるけれど同等の力を持つ相手に、自分の正義を否定されたんだから。 だから。「つぅりゃあっ!」 魔神は禁断の剣を持ち直し、横薙ぎで襲ってきた。 仰け反りになって何とか剣を交わす。 だけど、無茶な体勢をしたものだから、そのままぺたん、と尻もちをついてしまう。 そこへ迫る剣の切っ先。 俺はゴロゴロと横に転がって何とか回避する。「シンゴ!」「大丈夫だベガ! それより」 俺は心の中で叫んだ。(サーラたちを解放する方法はあるのか?!)(魔神の中に封じられていると言うのであれば、あの仮面のキャッツアイルビー) ベガの意識
本気だな……おじさん。 だったら、俺は生神として、本気を出さなきゃいけない。 蒼海の天剣を握る手に、ピリッとした緊張が走る。 おじさんから放たれる威圧感……自分の正義を是とする世界、それを壊されたくはないと。 だけど、おじさんの正義が実行されたら、俺が助けてきた人たちのほとんどが殺され、生き残った人たちで戦争になる。 それを見過ごせない。 なら。「……あの一瞬、確かにお前を殺したあの一瞬で、お前に何があった?」「すぐに分かるよ、おじさんも」 天剣に意識を集中させ、構える。「私は理想郷を創る……正義しかない世界を……だが真悟、お前は邪魔をするのだろう……?」「正義しかない世界なら、既に成立してるんだ。全員が分かる正義がないだけで」「なら、もう一度!」 おじさん……魔神は剣を大きく振りかぶり、振り下ろした。 切っ先から、破壊の、切り裂く力が俺に向かって飛んでくる。 俺は即座に水鏡の盾で身を守る。 ぎぃんっ! 鋭い音を立てて、水鏡の盾は力を明後日の方向に跳ね返した。「戦うしかないから……本気で行く!」 俺も天剣を構えて距離を詰める! ぎぎゃっ! 天剣と禁断の剣が噛みあう! あまりの力に手が震える。 すべてのものを断ち切る天剣が、禁断の剣を断ち切れない。 魔神具……魔神が創った、魔神にしか使えない武器。 蒼海の天剣と同レベルの剣だろう。 となると、本格的に肉弾戦になるか。それとも魔法の打ち合いになるか。 おじさんは俺より長く神の力を使ってきた。剣でも魔法でも、俺が不利なのは否めない。 でも、負けられない。 俺が今まで頑張ってきたことを無にされるわけにはいかない。 何が何でも、勝つ! 武器と魔法の扱いはおじさんが上だけど、力の源である信仰心は俺の方が上! ヴェデーレが勝ち取ってくれた魔獣からの信頼が、俺の力になる!「炎剣」 おじさんが禁断の剣に魔法の力を宿す。天剣が風属性と水属性の組み合わせらしいから、逆属性を突いたか。 なら。「生命盾!」 剣から振り下ろされた破滅の炎。 水鏡の盾の水属性、そして盾に宿した生命の力が禁断の剣を完璧に食い止める。「チッ」 おじさんは舌打ちして、一旦後ろに跳びのく。だけど俺は間合いを取ることを許さず、ダッシュで距離を詰
「自己満足だと……命懸けの行動を、自己満足と……」「ああ、紛れもない俺の自己満足さ」 俺の口角が持ち上がる。「放っておけばおじいさんは救急車で運ばれたろうし、子供は死んだ。それは嫌だった。だから俺は自己満足の為に勝手に助けた。それを正義と言う人がいるかも知れないけどね」「では、お前の正義とは……なんだ」「生きること」 俺は言った。言い切った。「生きる……?」「そう。正義ってのは誰の中にもあって、生きている限り育っていく。他の人の正義と時にはぶつかって、時には理解し合って、形を変えていく。多分、俺の正義は、俺が死んだ時に完成するんだろうな」「死んだ時……? お前は死んだはずなのに」「二回な。生神になった時と、さっき」 俺は腕を組んで魔神を……おじさんを見た。「俺は正義の結果として死んで、正義が完成していないから生神になった。さっき、おじさんに殺された時も、まだそれを伝えてなかったから生き返った」「伝える……何を……」「……おじさん、絶対の正義はないんだよ」 今度は分かりやすくおじさんは動揺した。「おじさんの持っている正義はおじさんだけの正義で、俺の正義は根っこは多分おじさんのものだったろうけど、おじさんと違うところ、おじさんと納得できないことはあった。そしておじさんがいなくなってから三年間、俺は自由解釈して正義を育ててきた」「真悟……。私はお前に教えてきたのは……」「おじさんの正義は広く正義だと思われているものだよ。それは認める」 だけど、と俺は剣を抜いた。「おじさんの正義とかみ合わない、でも立派な正義はたくさんある。そんな人たちに自分の正義を押し付けちゃいけない。どれだけ善意でも、それは押しつけがましいことだから」「私の正義を……馬鹿にするのか……私に育てられたお前が……!」「馬鹿にはしてない。俺はおじさんの正義は立派だと思ってる」 激昂しているおじさんに、俺は冷静に返した。「ただ、それを他人に押し付けるなって言ってるんだ」「真悟……!」「魔神がその正義で全てを裁こうとするのなら、俺は生神として止めなきゃいけない。そう言うことだ」 おじさん……魔神も剣を抜く。背中に背負われていた両手で扱う大剣だけど、おじさんはそれを楽々振る。切っ先が空を切る度にひょう、ひょうと子供の泣き声のような音を立てた。
「種族間の協力、ですか」 ダンガスさんが頷いた。「望むところです。我々にできる事なら、何でも」 ナセルさんも頷く。「森エルフの林業、無窮山脈の鉱業、ビガスの農業。これは人間がこの先生きていくのに必要な財産で、財産は回さないと意味がないのです」「どうやって。街道は魔獣の群れで、レーヴェのような騎士や神子でないと危険で移動もできない。一部の商人が使っているような裏道を通れば盗賊共に襲われる」「フェザーマンに頼みます」 俺の言葉にナセルさんが大きく頷く。「今のところ、空を征く魔獣はいない。そして我らには神獣グリフォンがいます。木材、穀物、金属、如何なるものでも運びます。安全な空を通
「ああ、それはいけません」 子供たちに見つからないよう物陰に隠れていたダンガスさんは小声で手を振った。「私が出て言ったら、スィンとフィリャは哀しい思いをするでしょう。イリスだけ喜ばせてもいけません、三人が笑顔で走り回れる地域にするのが私の仕事です」「ご立派だ、ヒューマンの村長殿」 ナセルはそう言うと、ダンガスさんの前に歩いて行って手を差し出した。「フェザーマンの長、ナセルです。公の為に私を堪える、その姿勢は素晴らしい。見習わせてください」「何と、フェザーマンの長ともあろうものがこんな年寄りに頭を下げずとも……。こちらこそよろしく、空の一族に会えたのは光栄です」 そこに、エルフの
「フェザーマンは喜んで協力します」 ナセルさんが立ちあがった。「元々我々は荒地で海藻を食べることでしか生きられぬ種族。空の民と呼ばれてもその生活は大変な苦労の連続です。それに比べれば荷運びなどお安い御用。我らが翼は生神様と共にありますよ」「最も神に愛されたと言われる種族が……」「愛されるに相応しくない者もいる。思い上がって旅立ち、帰ってこなかった者もいる。それは全ての種族に当てはまりませんか。もっともエルフらしい、ドワーフらしい、ヒューマンらしいと言われる人間ばかりで種族が成り立っているわけではないでしょう」「それは……」「質問なのですが、生神様」 考え込んでしまったフィエーヤ
視界が切り替わって、目に飛び込んできたのはやっぱり円と十字を組み合わせたシンボル。これが俺の紋章らしい。そう思ってみると何となく親しみを感じる。「お帰りなさいませ」 シャーナが深々と頭を下げた。「留守中、何もなかった?」「敢えて言うなら、魔獣が」 低い声でシャーナが言う。「魔獣?」「はい、さして力のない、しかし明らかにシンゴ様と正反対の位置に坐する存在に生み出された獣が、この神殿の結界付近を嗅ぎまわっています。生神様と信者にしか見えない神殿ですので、魔獣たちは何も見つけることはできず去っていきますが」「……子供たちが外に出たがったりとかは」 シャーナが目を伏せる、それだけ