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異世界はつらいよ
異世界はつらいよ
Author: 琉斗六

1-1:それを言っちゃあ、おしまいよ

Author: 琉斗六
last update publish date: 2026-08-09 14:23:00

 唐突に接待の日程を伝えられ、「今から現場の下見に行ってこい!」と上司に怒鳴られたのが、数時間前。

「どうせオマエなんか、社内にいたって役に立たないんだから」

 との、ありがたいお言葉を背に、俺こと風車かざぐるま虎七郎とらしちろうは、自腹で谷川岳へと向かっていた。

 なぜ接待の下見が谷川岳なのかと言うと、〝先方のご家族を招いたオートキャンプ場でのバーベキュー〟だからである。

 こんな仕事、SEにやらせるなよ……と思いつつも、自分の仕事に手落ちがあるのは許せない。

 駐車場の位置。

 当日の混雑予想。

 予約の可否──

 そんなことを調べ、最後に俺は湯檜曽ゆびそ川の河原を見に行った。

「ご家族の招待なんだから、子どもが遊べる場所があるかチェックしとけ!」

 という無茶な〝ご要望〟があったからだ。

 川遊びってのは、実に楽しいイベントだが、色々と危険も孕んでいる。

 バーベキューに興じる保護者の方々が、目を離した一瞬に事故でもあったら目も当てられない。

 だから俺は、スーツの裾をまくりあげて、川の中に入っていった。

 子供でも楽に立てそうな水深。

 石垣が組んであって、そこだけは飛び込み可だと、観光案内に書いてあった。

「うわ……、結構冷たいな」

 バシャバシャ水しぶきを上げて歩く。

 川底の石がコロコロしていて、裸足の足裏に気持ちいい。

「あ〜、あの上司の顔を見ないでいると、気分が晴れやかだなぁ」

 なんとなく空を見上げて、そんなことを呟いていたら。

 ズルっと足が滑った。

「うわっ!」

 川の流れは、思いのほか速い。

 腕を伸ばしたところで、掴めるのは水かもしくは石ころだけだ。

 立ち上がれば膝上ぐらいの水深のはずだが、足場を確保する前に体がどんどん流される。

 焦ってなにも分からない状況なのに、妙に冷静に水面に反射するキラキラした光の粒を〝あ、綺麗だな〟なんて思った。

 独身歴37年。

 長かったようで短かった人生で、心残りと言えば、女っ気が全くなかったことだけかもしれない……と、遠のく意識の中でぼんやりと考えていた。

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