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7. 取決≪Arrangement≫

Author: Mr.Z
last update Last Updated: 2025-08-02 00:51:20

 楽屋へ戻った瞬間、アイツと目が合った。

 帽子、マスク、赤レンズの"ハイスマートグラス"で隠れて、こっそり並んでいたアイツと。

「⋯⋯」

 そんな睨まなくてもいいだろ⋯⋯

「⋯⋯今日は、よろしく」

 俺がそう呟き、自分の部屋へと入ろうとした時だった。

「ねぇ、なんで君なんだ?」

 突如そう言われた。

「なんで僕じゃなくて、"三船さん"は君に付いている? 僕にこそ相応しいのに」

 どうやら、三船コーチが俺に付いているのが気に食わないらしい。

 これまで話した事も無いのに、いきなり失礼な野郎だよ。

「⋯⋯そういう取り決めなんだから、仕方ないだろ」

 そう言うと、冷たい表情で俺の顔を見た。

「それでも、認めない。あの人はこんな所にいるべきじゃない」

 ⋯⋯分かってんだよ、そんなの

 ― 【境覇宰星《きょうはさいせい》】の三船ルイ

 それを持っている者は試合を出禁とされる、もう誰も取る事が出来ない唯一無二の称号。これは不名誉な物ではない。一撃も食らう事無く、一撃も外すことなく、これまでの出場大会全てを優勝し続けた者にしか与えられない。

 この界隈の人間なら誰もが欲しがる称号で、知らない者はいない。ただ、彼は名前と顔を隠して試合に出ていたため、素性を知るものはいないと言われていた。

 が、最近になって名前を公開し始め、そろそろ復帰するのではないかと噂されている。

 こんな凄い人が、なぜ俺のコーチをしてくれているかというと、運営から一つの指示があったからだ。

 ― プロとしての実力が足りないため、あの人に付いてもらう

 たぶん三船コーチにとって、これも復帰のための条件の一つなのだろう。あまり勝てていない俺の面倒を見る事で、さらに大会に復帰し易くする、みたいな。きっと三船コーチも、本当は乗り気ではなかったはずだ。

 なのに、三船コーチは毎回会う度、そんな素振り一つ見せない。いつも楽しそうで、本気で俺が勝つ事を考えてくれる。その結果の一つが、人外カウンターの使い手である"秘桜アマへの勝利"だった。

 三船コーチは死ぬほど喜んでくれて、夜中遅くでも焼肉に連れて行ってくれて、次の作戦を練ってくれた。自分の事だって、いろいろと忙しいはずなのに。だって、あの人が経営する事務所には、"日本代表の有川シンヤさん"がいる。

 たまに有川コーチとしても参戦してくれたり、もう何もかも助けて貰
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  • 異常のダイバーシティ   17. 出口≪Exit/Escape≫

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