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第2話

作者: 藤原美咲
帰る前に奈緒はトイレに立ち寄った。

出てきたところで、安子と鉢合わせた。その体つきはメリハリがあり、顔は驚くほど綺麗で男が気に入りそうなタイプだった。

「石田さん、まだ帰ってなかったんですか?」

安子は隠すつもりなどまったくない様子だった。

わざと胸元を大きく開け、そこに残る無数のキスマークを見せつけてきた。それは自慢であり挑発だった。

奈緒は立ち止まり、彼女をじっと見つめた。

前世では素早い手で、わずか一日で安子を屈服させ、交渉の末自ら会社を辞めて港市へと行かせた。

だが今の奈緒はそんな駆け引きをする気も起きなかった。

視線を逸らし何も言わずに通り過ぎてエレベーターへ向かおうとした、まさにそのとき背中に熱い液体がかかった。

「きゃっ!」

安子がわざとらしく悲鳴を上げ、手に持ったカップを振って見せた。「すみません、さっき社長のお相手するのにちょっと力入りすぎちゃって、今もまだ手が震えてて」

その一言で、奈緒の頭にいやらしい光景が浮かび吐き気を催した。

奈緒はもう彼らの関係に関わるつもりはなかった。しかし、だからといって侮辱を受け入れるつもりもない。

彼女は素早く近づくと、安子の頬を思いきり平手打ちした。

ちょうどその瞬間、啓太がオフィスから出てきた。

安子は素早く彼の目の前に倒れ込み、顔を押さえてひざまずいた。「ごめんなさい、石田さん、わざとじゃなかったんです……怒らないでください……」

それを見て、啓太は慌てて駆け寄ってきた。

そして奈緒を乱暴に突き飛ばした。火傷したばかりの背中が壁の角にぶつかり、彼女は思わず息を呑んだ。

だが啓太はそれに気づかず、安子のもとにしゃがみ込み尋ねた。「何があった?」

安子は唇を噛み怯えた表情で言った。

「ちょっと低血糖でふらついて……それでコーヒーを石田さんの背中にこぼしてしまって……ビンタされても仕方ないです。私が悪いんですけど、頭がクラクラして……」

その言葉を聞いた啓太は、奈緒を鋭く睨みつけた。

抑えきれない怒りを宿した目で怒鳴った。「彼女はまだインターン生だぞ、ちょっとしたミスくらいで、そこまで責める必要があるか!」

そう言うなり、安子を抱きかかえてオフィスに入っていった。

焦るように背中を向ける彼の姿を見ながら、奈緒の中に溜まっていた悔しさが、ついに涙となって頬を伝った。

かつてはほんの小さな切り傷を指に作っただけで啓太は大騒ぎをし、病院へと抱えて行った。担当医が呆れるほどだったのに。今彼が心配しているのは他の女だった。

もう、忘れようと決めたのに……心がどうしても痛い。

必死に体を起こし会社を出ると、彼女はまっすぐ市役所へ向かった。離婚の手続きを済ませ、啓太とは正式に終わりを迎える。

その夜、啓太は帰ってこなかった。

【今夜俺は残業で会社に残る。明日の食事会には遅れないようにね】というメッセージだけが届いた。

以前から決まっていた、大事なクライアントとの食事会だ。

奈緒はただ【わかった】と返した。

今日受けた屈辱もまた嘘をついていることも、何も言わなかった。

もう、どうでもよかった。

翌日、会場の会員制クラブに到着するとそこに啓太の姿はなかった。

代わりに現れたのは、安子だった。

「石田社長はまだ会議中で。先に私がご挨拶と、お勉強をさせていただければと」

まるでいつものあざとさは消え、礼儀正しい態度で接してきた安子。仕方なく奈緒は彼女を連れて個室へ入った。

食事会が始まると、安子はやたらと酒を勧め、体をクライアントに寄せるような仕草ばかりしていた。その意味深な動作は誰の目にも明らかだった。

奈緒はそんなやり方には昔から軽蔑の念しか抱いていなかった。途中で席を立ち、トイレへ向かった。

戻ってくると、個室の前には人だかりができていた。

人をかき分けて中に入ると、そこには血の海が広がり、現場は混乱状態だった。

そして……啓太が、そこにいた。

そのうえ、クライアントの男が血だまりの中に倒れていたのだった。

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