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第3話

Auteur: 二ノ舞
「コトン――」

指輪が柚葉の指から滑り落ちた。

鷹真は心ここにあらず、頭の中は染花のことでいっぱいだから、指輪を間違えて着けたことにすら気づいていなかった。

彼はチップ入りの女性用リングを持ち去り、本来監視用の男性用リングは柚葉のところに置いていった。

少しの間ためらった末、柚葉はそのリングのスイッチを押した。

「ごめんね、あなた……私だって、うつ病なんてなりたくなかった。でも、ここに3年間も閉じ込められて、もう本当に気が狂いそうなの……」

染花のすすり泣く声がリングから漏れた。

「私のことなんて気にしないで。今日はあなたと夏見さんの5周年記念日でしょ?そばにいてあげて……私は頑張って乗り越えるわ。どうせこの3年もなんとか我慢してきたんだし……」

「馬鹿なこと言うな」

鷹真の低く、威圧感のある声が続いた。

「俺はお前の男だ。お前が病気なら、放っておけるわけがない。行こう、少し外に出よう」

「ほんとに?」染花は嬉しそうに言った。「夢みたい……私、本当にここから出られるの?」

「俺がお前に嘘をついたことあるか?今すぐ行こう」

聞き覚えのあるプロペラの音が響き始め、柚葉は、彼らがヘリに乗ったことがわかった。

彼女は思い出した――3年前、右手を失って絶望していた自分を、鷹真が慰めようとあらゆる手を尽くしたことを。

あのとき彼はこのヘリを買い、雲の上へ連れ出しながら、優しく語りかけてくれた。「柚葉、見てごらん。どんなに巨大な建物も、上から見るとこんなに小さく見えるのだ。人生の困難も同じさ。どんなにつらくても、俺が一緒に乗り越えるよ」

その言葉を、柚葉は信じてしまった。

けれど、今になってわかった。あの「困難」は、彼が与えたものだったのだ。

空に再びヘリが現れたとき、柚葉は一瞬、自分の目を疑った。

だがそれは現実で、ついにそのヘリは隣の別荘へと降り立った。

指輪から鷹真の声が聞こえた。「染花、今まで外に出る機会はなかったけど、実は記念日のプレゼントをずっと用意してたんだ。この山荘はお前のものだ。今日はここで、1日一緒に過ごそう」

染花の歓喜に満ちた笑い声が響く中、柚葉のスマホに鷹真からメッセージが届いた。

【柚葉、今クライアントとプロジェクトの打ち合わせ中だ。明日の夜には戻るよ。それまで自分で楽しんでね。何か必要ならすぐ夫に言って。愛してるよ】

スマホを握りしめる柚葉の目から、一滴の涙が落ちた。画面に映る「夫」の文字が滲んでいった。

彼は、まったく同じ山荘を二人の女性に贈ることはできる。

けれど「夫」になれるのは、たった一人に対してだけ。

壁一枚隔てた先で、彼は「本物の妻」と過ごしている。

まるで、自分が光の下に出られない愛人であるかのように感じさせられた。

……でも、こんな日々も、もうすぐ終わる。

柚葉は涙を拭き、山荘には留まらず、家に戻ってデザインの練習を続けた。

今はまだ予選を通過しただけ。左手だけでその先へ進むには、常人の何倍もの努力が必要だ。

この不意打ちの痛みが、インスピレーションを呼び起こしたのかもしれない。彼女は新しいアイデアを素早く描き上げた。

下書きを終えたあと、ペンを置いて、じっとそのスケッチを見つめた。その拍子に、うっかり指輪に触れてしまった。

スイッチが入った音と共に、またしても染花の泣きそうな声が流れてきた。

「……たった1日だけなんて短すぎる。また別荘に戻って隠れるの?……わかってるよ、夏見さんに見られちゃいけないってことは。でもね、私だって彼女みたいに、堂々とあなたの隣にいたいの……」

その先の言葉が聞こえた瞬間、柚葉の呼吸が止まった。

彼女の腕が小刻みに震え出した。3年前、右手を切り落とされた時の地獄のような痛みが蘇った。

痛い。あまりにも、痛すぎた。

全身が震え続けた。

鷹真こそが、彼女の痛みと憎しみを最もよく知っているはずだ。だからこそ、染花を人目に触れさせまいと、ずっと隠してきたのだ。

絶対に、あの女を人前に出すことなんて、あるはずがなかった。

……そう、思っていたのに。

沈黙の後、鷹真の声が響いた。

「……いいよ」

彼は、あっさりと答えたのだ。染花の願いを、受け入れたのだ。

柚葉は胸を押さえた。まるで心の奥を、何かに無理やり引き裂かれたかのようだった。

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