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涙□□

last update Last Updated: 2025-10-18 06:40:18

第四回 さようなら□□

 「頼むよるい。目を覚まして。僕を見て……」

 壊れたるいの瞳は真っ黒で、命が毀れるように感情が消えるように涙が永遠と流れている。

 僕を忘れていいから、記憶から消していいから、君には生きてほしいんだ。僕は沢山の涙と叫びを嗚咽として吐き出しながら、彼女を抱きしめる。

 「るい?」

 ピクリとも動かない彼女は壊れた人形そのものだった。周りの人間は僕をずっと責め続けるだろう。きっと、もう彼女の傍にはいれない、永遠と……。

 僕が消えれば、君は元に戻るの?僕はただ君を愛してただけ、そしてるい、君も答えてくれた。

 「あああああああああああああああ」

 子供の頃のるいを思い出す。僕と君は年が離れていたね。環境が原因でいじめと虐待に耐えながらでも、表では笑顔だったのを覚えている。

 体に沢山の傷跡を残して、僕は当時の君と出会い、どうしても見て見ぬ振りが出来なかった。少しずつ大人になっていく度に、背中のミミズ腫れが落ち着いて、今では傷が残っていない。まるで最初からなかったように……。

 でもね、僕は君の隠された傷跡を知っているよ?それは右目の上側だよね。殆ど気にならないけど、くぼみが出来ている。よく見ると凹んでいるんだよ。一㎝位だし、昔に比べては誰も気付かないだろうね。

 ――僕以外はね。

 ねぇお腹は大丈夫かい?君が内蔵弱くなったのも、毎日蹴られていたからだよね。時々心臓が痛むんだろう?僕は知っているよ。

 ――君の心の一番は僕の居場所だからね。

 見えないよね、僕の姿。そうだよね。僕は『もういない』存在なんだから。それでも我儘を言うとね、せめてきみの記憶には存在していたかった。

 僕と君を引き裂こうと君を地獄へと叩きつけた周りは、君の心から僕の存在を消した。こんなふうに複数の人間が一人を攻撃すると、簡単に心が死ぬんだと現実を知ってしまった。

 僕は泣きながら、彼女の名を呼びながら、右手を伸ばす。せめて最後に君に触れたい。

 ――愛している永遠に。

 ◇◇◇◇◇

 貴方はだあれ?

 僕はその言葉で、たったその一言で、彼女の前から姿を消した。

 笑顔で僕を見つめてきたるいは、初めて会った時のように優しく僕を……。

 ――さようなら。僕の愛した人。

 ◇◇◇◇◇

 私は長い間眠っていたみたい。でも不思議なの。二年間の記憶がないの。思いだそうとすると頭がズキズキして、おかしくなりそうで、怖い。

 ――まるで思い出してはいけないと誰かに言われているみたい。

 知らない男性が私の右手を握りながら、悲しく微笑んでいる。見ていると心臓が飛び跳ねて、息苦しくなる。それでも、私にはこの男性が誰か分からない。

 ――ねぇ特別な存在なの?貴方って。

 「貴方はだあれ?」

 そう聞くと、傷ついたような表情をして、私に言葉を残して去っていく。

 『幸せになってねるい

 どうして貴方は私の名前を知っているの?るいと呼ばれると涙が毀れそうになるのはどうして?

 過去の私の呟きが聞こえた気がした。

 ――私の愛した人、さようなら。

 風の音になって現在いまの私には何も聴こえない。

 ただ涙が溢れる……どうして?

第五回 貴方さえいてくれれば□□

 産まれてきてくれてありがとう。私に向かいながら、両親らしき人物が温かい呟きを残しながら、私を置き去りにした。カランコロンと天空から綺麗な音と共に、私の大好きなおもちゃたちがくるくると、回っている。

 ――楽しい、楽しい。

 その光景に目を奪われる『赤ん坊』の私は、その他、何も見えていなかったの。『赤ん坊だから仕方ないじゃない』と言われても、納得できないのよ。

 だって、あの時、手を伸ばしたら、失う事なんてなかったのに、現在いまの私もきっと後悔なんてしなかったのに。

 親戚の家を転々としながらも、いつかは『両親』が迎えに来るなんて、甘い考え、いや夢物語を見ていた幼い心。すがりつきたい気持ちってあるじゃない?分かるかしら、私の気持ちなんて。

 学校に行くとね、私の机はいつもマジックで見たくない現実を見せつけてくるの。沢山の暴言が文章になっていて、沢山の色で落書きみたいに、いろどりを見せている。自分がされている事なのに、もう何とも思わなくなってきたんだ。

 これが『慣れ』なのかもしれないね。今では『綺麗な色の使い方するなぁ』とか関心してしまう位の余裕があるの。割り切っていると言えば簡単かもしれないけれど、そんな単純なレベルじゃないのに……ね。

 『ほらほら。皆、席につきなさい』

 担任はいつも通り、何事なにごともないように、日常を繰り返そうとしている。私の毎日の異変も、日にちが経つにつれて、当たり前になっていくんだなって悲しくもなるし、なんだろう、少しすっきりするのかもしれない。

 ――生きている人間を信じて、何になるの?

 私の心にひそむものは『陰』と『陽』の私の分身、そして気持ち。期待していたはずなのに、願って、祈っていたはずなのに、希望はどこにもないんだなと思いながら、その憎悪が叩きつけられた机の上で、いつも通り、何事もなかったように、私も馴染んでいく。

 両親もそう、私をたらい回しにした人間も、同級生も、先生も、そして……きっと、あの人も同じ……なのよね。

 そう考えると胸が締め付けられるのはどうしてだろうか。これって『悲しい』って感情なのかな?過去むかしに置いてきた感情だから、どんなものなのか忘れちゃった。

 ギュッと目を瞑りながら、心の痛みを誤魔化そうとする。少しでも、和らぐように。

 その時だった。ある人の冷静な言葉が耳をかすめた。

 『これが人のする事か?見て見ぬ振りするのも、いい加減にしろよ』

 冷たい声のトーンに体を震わせながらも、何が起こっているのか考えてみる事にした。この声は誰の声?こんな声、聞いた事ないよ。

 恐る恐る振り返ると、そこには私の大切な『あの人』が力強く立っていた。

 ――私を守るように、声のトーンを元に戻して呟くの。

 『大丈夫か?るいちゃん』

 皆に嫌われても、両親が私を捨てたままでも、貴方がいれば、何もいらない。

 「……うん」

 泣きそうなのは秘密。

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