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余韻□□

last update Last Updated: 2025-10-20 11:00:50

第十回 フラッシュバックと無力□□

 夜は地獄の時間。私にとって苦痛の時間。全身が張り裂けそうな痛みと首を絞められるような感覚が残り、今日も明けない夜が始まるんだ。

 誰も助けてくれない、いつもベッドの中で涙しながらも、唇を噛み締めて、誰にも気付かれないように感情を溢れさせていた。

 恐怖でカタカタと震える身体の抑え方を知らなくて、フラッシュバックを体感しながら、人間の悪の部分に埋もれて……頭が壊れそうだった。

 耐えれない私は、泣き声をあげる代わり、自分の右手の中指で左腕の肉を切り裂く。なんとなく意識を保っている状態だけど、痛みなんて、何も感じなかった。あるのは恐怖と過去むかしの自分のおぞましさだけ。

 ――あんなの私じゃない、違う。

 両耳を両手でさえぎって、私の唸り声と人の叫び声と、ギュッと瞼を閉じ、見たくないものを見ないようにしたの。

 それでも見える。それでも聞こえる。それでも、私は幼少こどもに戻る。インナーチルドレンがケラケラと微笑みながら『貴女も潰れてみる?』なんて私に囁くの。

 ――やめて、もう。お願いだから。

 毎晩毎晩、何日も何か月も何年も、永遠に続く地獄の記憶。それから逃げる術はない。ある訳ないんだ。

 頭がボーッとする。まるで脳に直接麻酔を打たれたみたいに、自分の心も体も固まって、視界から色が消える。全てがモノクロの世界。懐かしい世界でもあるんだ。

 『逃げれると思うの?あの時から、そしてあたし・・・から……』

 ふふふと嗤う・・幼少の私の姿をかたどった亡霊は、私を自由にするつもりはないらしい。永遠に自分のものとして、おもちゃとして、操り人形として、生きて苦しめるつもりなのだろうか。

 ――こんなの望んでないのに、どうして?

 背中の十字架は重くて重くて、私の身体は耐えられない、壊れそうだ。周囲の人達は背負わない方がいいものを背負わされたと、他人事ひとごとのように呟き、私から離れていく。そして哀れみの旋律を落としていくのだ。『可哀そう』と……。

 「いやだ……もう」

 ポタリポタリと床を伝う赤いものは涙。色を失った私はゆっくりと感覚だけで左腕の流れ出る血潮の温もりを感じながら、舐めてみる。

 懐かしくて、悲しい味だったんだ。

 ◇◇◇◇◇

 ガタンと音が聴こえた。今日もまた・・あの子を襲う苦しみが始まるのかと考えると、涙が溢れた。誰にも気付かれないように、必死に耐える彼女の事を強いと思っていたが、一週間、泊まらせてもらって理解わかった事がある。

 彼女は強くなんてない、ただ背中に背負う事になってしまった現実を受け入れ、戦っているだけだと。そして自分の精神を支える為に明るくいる、自分があんな・・・思いをして生きてきたのだから余計に、他人ひとに厳しくもなる。

 身近な人でも気づく人は気づくんだ。彼女を優しい人と呟く者達が、何度も助けようと試みたのは、彼女の隠している人柄が、ふとした瞬間、外に出ているからだろう。

 「う……ぐ」

 いくら声を殺したところで、完璧に消せる訳ないんだ。君は人間なのだから。いくらロボットとして、人形として、マリオネットとして、ペットとして、育てられてきたとしても、知ってしまった人の温もりを忘れる事は出来ないのだからな。

 (人間は無力。人を助けるなんて言うけど、こういう時、何の力にもなれないのが現実)

 僕は綺麗事を言うつもりも、その中で生きるつもりもない。それでも、見守る事は出来る。現在いまの君は、助けを求めてこない。それは君が守りたい人達の存在がどれほど大きいのか実感してしまうくらいに。

 (そんなに大切なのか。だから自分が身代わりになって。庇って、こんな事になるなんて……)

 ――残酷じゃないか……。

 僕に出来る事は、傍にいて、彼女が手を差し出すのを待つ事。

 僕が無理矢理近づいても、君を壊すだけだから……。

第十一回 今だけ□□

 ――ねぇ知ってる?一番安心する方法って『抱き合う』事なんだよ?

 泣きじゃくる弱い僕に、るいさんは言った。ピアノの先生をしている僕の恩師だ。正直、別にピアノなんて興味なかった。逆に『大嫌い』だったんだ。音楽なんて、僕には必要なくて、ただ古傷を浮かばす存在の一つにしかなかった。

 『君の心は沢山、傷ついたのね。ここでは無理して『自分』を演じなくていいのよ。好きなように感情を出しなさい。私が傍で支えるから、大丈夫』

 第一印象、不思議な人だと思った。髪が長くて、少しウェーブががってる。服装は基本落ち着いた色のワンピースを着ている。落ち着いた風貌は、温もりを感じる程だった。何故か、るいさんといると素直な自分が出てきて、駄々っ子になってしまう。

 僕はいつも強いはずなのに、一人の女性がいとも簡単に僕の『ボーダーライン』を軽々と越えて、最初から居たように馴染んでいて、違和感が全くないんだ。

 ――まるでソウルメイトのように。

 どうして父さんは、僕に音楽を習わそうと思ったのか不思議だった。るいさんに出会うまでは……。

 (きっと、僕の居場所になると考えたのかもしれない)

 身内でどうにもならない状況だからって、何の関係もないるいさんにさじを投げるのはどうかと思うけど。落ち着く場所が手に入ったのは事実なのだから、感謝するべきなのかな?るいさんには悪いけどね。

 「……るい先生。僕はまともに授業を受ける事も出来ない、だから……」

 続きの言葉を口にしようとした瞬間だった。まるでその言葉の続きを知っているみたいに、悲しい表情かおをしながら、僕を見つめて、こう言うんだ。

 『授業よりも、貴方の心のケアの方が大切よ。授業が受けれるようになるまでお金は受け取らないからね』

 「え?」

 僕の心のケアの方が大切と言葉にした塁さんかのじょはにっこりと優しく微笑みながら、軽くパニックを起こしそうになる僕の体を抱きしめて、囁く。

 『言葉一つで壊れるのね。大丈夫よ、落ち着くまでこうしているから』

 「……」

 『人の心音って肌で感じると落ち着くでしょう?まるで赤ちゃんに戻った感じがすると思うのよ』

 「……」

 口を開いて塁さんかのじょの言葉に返答をしようとすると『無理しなくていいから』と僕の頭を撫でる。

 懐かしい匂いと温もりと、ゆりかごを思い出した。

 『言葉で人を安定に導くのって凄く大変でね。だから人間は色んな表現が出来るんじゃないかな?って思うの』

 「……」

 『貴方は知ってる。言葉はあくまで言葉であって『まやかし』にもなるって。だから貴方が求めるものは行動のみだものね』

 その言葉を聞いて、心の奥底まで、覗かれている気がしたんだ。

 『驚いている?』

 塁さんかのじょの言葉にコクリと頷きながら、その温もりに埋もれる選択をした。

 ――今は、どうかこのままで……。

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