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繋がり□□

last update Last Updated: 2025-10-20 14:00:18

第十二回 感謝□□

 いつからだろうか『笑顔』が苦痛になったのは。楽しくて笑っているのではなく、周りに合わせて笑っているだけ。自分を守る為に……。

 私は学校に着いて、一息つこうと教室へと向かうと友人の一人が後ろから抱きついてくる。『おはよう』と微笑みながら、いつものスキンシップをする。基本群れるのは好きではない、ある程度の距離を取りながら人間関係を作る。じゃないと余計な情で動いてしまうし、友人達が間違った行動をした時に、止める事も出来ない。だって、価値観が同じになったりすると、他の人達の考えや気持ちを見る事も出来ないし、話を聞く事も無理になってしまう。

 だから私のあだ名は『旅人』だったの。いつもトラブルがあるとサッと現れて、一言で解決するとか、周りは言っていた。

 『るいは正論しか言わないから。皆、何も言えなくなるのよ』

 「そう」

 『本当、ドライだね。さすが、期待してる』

 「他人の為に動くなんて、しないから」

 『そう言って、いつも私達・・を守ってくれるのは誰かな?』

 「気のせいでしょ。私は私の役割を果たしているだけだから」

 『あんたを敵に回す奴なんているのかね?私達・・るい過去むかしを知っているし、切れた時のあんたは最高に綺麗。血まみれだしね』

 「口、縫っていい?」

 『マジにとんなよ。冗談だって~』

 「そっちこそ、マジにとんないでくれない?ブラックジョークでしょ?」

 笑顔の私と冷酷な私が存在してる。長い付き合いの友人からは沢山の仮面を持ちすぎと言われるけど、これはこれで都合がいいの。

 ――でもね。私だって笑顔になりたい、本当の笑顔を取り戻したいの。

 帰宅すると、静かな空間しか存在していない。微かに聞こえるのは蛇口からポタリと堕ちる・・・雫の音。そこには温もりも笑顔も何もなくて、私がポツンと立ち尽くしている。

 誰もいないのに、いつものように『ただいま』と言う事が当たり前になった。親の仕事は理解しているつもりだし。母の入院費と兄の大学資金、そして私を育てる為のお金を考えれば、仕方のない事。

 ガラリと居間のドアを開け、テレビをつけると、見覚えのある顔を発見した。本当たまたま。いつもなら見るつもりなんてないけど、少し興味深々。だからボンヤリしながらテレビを見続けていた。

 父の仕事に首を突っ込む事も、父自体が仕事の内容を家に持ち込む事もしなかったから、どんな仕事をしているのか知らなかった。だからさ、何で国会中継あんなとこに出ているのか不思議で、テレビから流れてくる音声を聴きながら、少しずつ理解したの。

 私達を守る為に、相当な努力と苦労をしたんだな……って実感したわ。

 今までを考えるとね、何も苦しくもないし、悲しくもない。だけど私の『瞳』から涙が流れているの。

 「……私達を守ってくれて……ありがとう」

 父、本人には言えないけど、テレビの向こうの父には言えるから。

第十三回 酒の席□□

 家の裏に畑があってね、そこから見る景色は凄く綺麗だったの。天気の日と、夕焼けの時はより一層美しく感じてた。祖母は畑仕事をしていて、私達は野菜も果物もそしてお米も自家製だったの。だからスーパーで買うものと言ったらお肉とかお魚くらいで、困らなかった。

 私の周りの人達はお酒が大好きでね。祖母も八十を超えるのに、勧められると普通に呑んでいた。でも、一杯しか呑まないの。後は、皆で楽しみなさいと微笑みながら、私達を見つめてた。

 ――私の母と相席すると、悲惨だったけどね。

 気性が荒いのか分からないけど、家族、親族が皆、揃う事はないの。どうしてだか『酒』が入ると争うから、そして暴れるのをいつも見ていた。

 (これだから……大人は)

 溜息を吐きながら、またこの荒れた場を私が怒って止めないといけないのかと思うと、気が重たいというか……実際、面倒くさい。

 「……仕方ないか」

 どうせ誰も止めないし、いつも私の仕事だから、代わってくれる人なんていないのよね。でも、なんでだろうな。喧嘩しているのに、どうして楽しそうにしているんだろう。傍から見ると『ただの喧嘩』なのに、幼少の頃から、皆の背中を見て育ってきたから、性格とか理解するからさ、したくなくても。

 「楽しそう」

 一瞬だけど、少し混じりたいと思う自分がいた。そう言えば、親戚の姉ちゃんに言われたっけ。あんたも血が濃いんだし、切れると厄介なんだから、これは家系よ、家系って。

 そう言われると、妙に納得するけど複雑な気分になる。一緒にされたくないなぁって。だって『飲んだくれ』だもん。しかも喧嘩っ早いなんて、アウトでしょ。放置しておいてもいいけど、永遠と続くんじゃないかと不安になるから、止めるしかないのよね。皆には悪いけど。

 「いいかげんに……」

 そう言いかけた時だった。私の目の前に従弟いとこが来て、耳打ちしてくるの。

 『今日は、僕が止めるよ。いつもるいが止めてるんだろ?どーせ』

 「……あれ今日来てたの?」

 『そうそう。毎回話聞くと喧嘩の話だかりだからね。心配になって……正直溜息しか出ねぇ』

 「なんだか楽しそうにも見えるけどね」

 『喧嘩が趣味だからだろ。ほっとくと、あのままだから。俺が止めるわ』

 「ありがとう」

 この子・・・は私より五つ年下の従弟いとこ。いつもは部活とかで忙しいから来れないのに、今日は無理矢理抜けて来たらしい。本当、親思いなんだから。そして可愛い奴でもあるし、頼りがいもある。

 私の方が年上なのに、何故かこの子・・・の方が大人びていて、なんだか悔しく思うけど、一応お姉さんだからね、私。

 皆の暴れる姿を見ながら、ケラケラ笑っているわたしがいる。

 皆の……そしてこの子・・・のおかげね。

 「ありがとう」

第十四回 忘れないで□□

 貴方を見ていた。ずっと傍にいた。私の身体はこの世にはない。元の身体は貴方の傍で眠っている。皆は黒い服を着ている。眠り続けている私は木箱みたいなものの中で色とりどりの花に包まれて、眠っている。

 ――まるで死んでいるみたいに。

 私の傍にゆっくりと近づいてくる人達がいる。私の両親、私の友人、私の大切な人……。

 逆に私の大嫌いな人達も近づいてくる。制服を着て、泣く素振りをして、中には『どうしてなのよ』なんて悲劇のヒロインみたいな台詞を吐いて。偽善者ぶって……。

 ――私をいじめてた癖に、何のつもりなのよ。

 怒鳴りたい、唸り声をあげたい、噛みつきたい、どれだけの憎しみを持っているか思い知らせてやりたい。そう思うのは普通だよね。私、悪くないもの。ただ普通に生活をして、生きていただけなのに……どうしてなの?

 (え……今、私なんて言って)

 無意識に『生きていた』なんて言葉を吐いた、吐いてしまったの。これは自分がもうこの世にはいないと、自分自身で認めている証拠でもあるんだ。

 認めてしまうと私は、もう元には戻れない。ううん、最初から分かってた。戻れる訳ないんだって。

 (いやだ、いやだ。私はまだ『生きたい。生きていたい』)

なんで私がこんな目に合うんだろう。そう思いながら空中を彷徨っている時だった。いつも私が相談していた保健室の先生もいた事に気付いた。本当なら、責めたい気持ちもあるが、ゲッソリとしているその姿を見ると、やるせない気持ちになったの。

 『ごめんなさい、ごめんなさい。守れなくて、ごめんなさい』

 守れなくて……どちらにしても、どんな行動を起こしても、守れないんじゃなかったの?私は先生に届かない、自分の思いを空中にぶつけて彷徨う事しか出来ない。

 ――ねぇ。私は何の為に生きてきたの?

 彷徨って彷徨い続ける心と体は、徐々に透明になっていき、空気の一部へと溶けていく。もう少しだけ、いたい。この、私の生きていた世界を。見ていたいの。その願いも神様は叶えてくれない……いいや、最初からそんなものいないよね。

 『るい、そんなに眠り続けてると遅刻しちゃうぞ?』

 そう悲しそうに呟くのは私の大切なあの人・・・。綺麗で優しくて温かい声が、消えかけの私に追い打ちをかけるの。

 まだ貴方の傍にいたい、ねぇいつも通り一緒に登校しようよ。お願いだから『おはよう、遅刻すんぞ?』っていつものように、厳しく言ってくれないかな?

 優しくも厳しい口調だけど、私を支えていたのは事実だから……。

 ポタリと涙が溢れたような気がした。死した魂になった私は泣く事なんて出来るのかな?分からないけど、空気の一部が反応して感情を形にしてくれたのかもしれないね。

 ――私の事忘れないで、お願いだから。

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