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第479話

Auteur: 栄子
綾は数日考えた末、北城に残ることに決めた。

しかし、輝もいずれ結婚して家庭を持つだろうし、いつまでも雲水舎に住んでいるわけにもいかないと思った。

輝とは姉弟のように仲が良いとはいえ、血の繋がりはないため、周りの人に誤解される可能性もある。

輝の将来の結婚相手のことを考えても、自分の住まいを持つべきだと考えた。

梨野川の川沿いの別荘は、4年前に購入して以来、ずっと空いていた。

そこはアトリエにも、優希が通う幼稚園にも近くて、子供の送り迎えや通勤に便利だ。

綾は早速、リフォームの準備に取り掛かった。今は6月だから、工事を急げば半年で完成する。来年9月には入居できるはずだ。

綾の計画を知った輝は、少しがっかりした。

しかし、綾の心配も理解していたので、何も言わず、信頼できるデザイナーやリフォーム業者を探してあげた。

梨野川の別荘は敷地が広く、地下室を含めると五階建てで、リフォーム費用もかなりかかる。

しかし、綾にはお金の心配はなかった。離婚の際、誠也から200億円の現金と、アトリエであるビルの所有権を譲り受けていたのだ。

さらに、それまでに貯めたお金もあるため、今や綾は正真正銘のお金持ちだった。

とはいえ、子供を育てなければならない綾は、多くの親と同じように、できるだけ沢山稼げるように頑張るようになった。

子育てにはお金がかかる。だから、もっとお金を稼がなければ。

以前、圭と一緒に買収した芸能事務所は、遥と千鶴の事件で多少の影響を受けたが、二人の違約金で十分にカバーできた。

さらに、事務所はその違約金を使って、これを機に新たに新人とも契約を交わした。

一方で、若美もバラエティ番組『輝け!伝統楽器』で遥を批判したものの言いがブレイクし、今や事務所を支える看板女優となったのだ。今まで遥に与えられた仕事も全て若美のところに舞い込んだのだ。

これは綾の決断だった。

前回の収録でも、ハッキリと物言いをする、頭の回転が速い若美は、綾にとても良い印象を与えた。

さらに、収録後、若美は自ら綾にライン交換を申し出た。

綾もまたそれに了承し若美とラインを交換したのだ。

しかし綾は、自分が事務所の大株主であることは若美に隠していた。

それ以来、二人はよくラインでやり取りするようになった。

若美は頭が良く、理解力も高く、演技力もあった。

綾は、若美
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