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第7話

Author: スイート団子
美帆は寧々の部屋へ駆け込み、娘を抱きしめてあやし続けた後、ようやく寝かしつけた。

疲れ果てて自分寝室に戻り、旭と話し合おうとしたが、部屋はもぬけの殻で、彼の姿はどこにもなかった。

おそらく、また咲のところへ戻ったのだろう。

旭にとって、九条家はただのホテルのようなものだ。たまに気が向いた時に帰ってくるだけ。

美帆はもう慣れっこだった。

お酒を飲んでいたためシャワーを浴びる気にもなれず、クローゼットでパジャマに着替えて出てくると、ベッドサイドのテーブルに契約書が置かれているのを見つけた。

美帆は動きを止めた。無意識のうちに、旭が今夜帰ってきた目的はこの書類のためだったのだと直感した。

彼女は無表情で歩み寄り、契約書を手に取って詳細に目を通した。

驚くことでもない。旭が今夜帰ってきたのは、やはり咲のためだったのだ。

旭はなんと、会社の株式の10%を咲に譲渡しようとしていた。

美帆はその契約書を握りしめ、下部にある旭の署名を見つめながら、複雑な思いに駆られた。

旭に嫁ぎ、九条家のために馬車馬のように働き続けて五年。

それでも自分が持っている会社の株は30%に過ぎない。

それが咲は、いとも簡単に10%を手に入れようとしているのだ。

美帆の知る限り、旭が保有している会社の株は15%である。

彼は本当に、咲のためなら自分のすべてを差し出すほど惚れ込んでいるのだ。

美帆はきびすを返し、落ち着いた様子で契約書をブリーフケースにしまい、明日会社へ持ち込むことにした。

株式譲渡は、大きいと言えば大きいが、小さいと言えば小さい問題だ。

少なくとも、取締役会と義母の薫には報告しなければならない。

他のことなら旭の好き勝手にさせてもいいが、会社に関わることとなれば、美帆は決して妥協するつもりはなかった。

会社は九条家が数代にわたって築き上げてきた基盤であるだけではない。

彼女が五年間、心血を注ぎ込んできた結晶でもあるのだ。

……

翌朝。

美帆は伊藤に連絡し、この件について話し合うために株主総会を招集するよう指示した。

しかし、株主たちが集まる前に、伊藤が眉をひそめて苦しげな顔で駆け込んできた。

「副社長、もうどう対処すべきか本当にわからなくて……

今朝から複数の監督チームから苦情の電話が入っておりまして。すべて咲さんへのクレームです。

撮影現場で全く協力的な態度を見せないらしく、今では主演男優との掛け合いのシーンすら自分で演じず、すべて代役にやらせているそうです。

一部の屋外ロケのシーンに至っては、監督にグリーンバックで合成してとまで要求しているとか……

他部署から上がってきた週報に目を通していた美帆は、それを聞いて眉をひそめた。

以前から咲は旭の威光を笠に着て、現場で威張り散らすことは少なくなかった。

しかし、それはあくまでプライベートな我が儘の範疇であり、仕事の面ではまだプロ意識を持っていたはずだ。

「理由は?」

美帆は週報から目を離した。

伊藤を見上げて詳細を尋ねるその顔は波風一つ立たず、何事にも動じないかのように見えた。

「咲さんが言うには……その……」

伊藤は言葉を濁し、躊躇した。

「はっきり言いなさい」

美帆は伊藤の性格を分かっていた。

彼女は目で促した。

しばらくして、伊藤は恐る恐る美帆を伺い見ながら、覚悟を決めたように言った。

「咲さんが自分は妊娠しているから、危険なアクションは胎児に障る。まだ安定期に入っていないから無理はできないと主張しているそうです」

美帆は動きを止めた。まさか咲がこれほど堂々と、しかも自ら妊娠のことを言いふらすとは思っていなかった。

カメラの前で、咲は「恋人なしの実力派トップ女優」というキャラクターなのだ。

過去に他の男性俳優とスキャンダルを起こしたこともなく、唯一の曖昧な関係とされているのが旭だけなのだ。

しかも、咲が旭の愛人であることは揺るぎない事実である。

「旭を呼んできなさい。私から重要な話があると伝えて」

美帆は立ち上がった。

咲が将来を顧みないほどの恋愛脳なのか、それとも野心が強すぎて、女優のキャリアを棒に振ってでも玉の輿を狙っているのか、美帆には判断がつかなかった。

しかし、一つだけ確かなことがある。

咲がこの騒ぎを起こしたのは、私を追い詰め、ついでに旭の反応を試すためだということだ……

伊藤は、美帆がとうとう咲の目に余るワガママに鉄槌を下す気になったのだと察し、嬉しそうに踵を返して部屋を出ようとした。

「待って」

美帆は伊藤を呼び止め、考えを変えた。

「私が直接小野寺咲と話すわ。あなたは他の仕事を進めてちょうだい」

そう言うと、彼女は伊藤の戸惑う表情など気にも留めず、説明もせずに足早に撮影現場へと向かった。

撮影用のスタジオは、オフィスのすぐ隣のビルにある。

十分後。

アシスタントからの報告を真っ先に耳にした咲は、眉をぴくりと上げた。

緊張するどころか、むしろ嬉しそうだった。

「美帆さんが来たの?どんな顔してた?怒ってたの?それとも悲しんでた?」

「えっと、無表情というか……」

その直後、美帆がスタジオの入口に姿を現した。

オフホワイトのニットに、いつもの黒いロングコートを羽織り、ジーンズに厚底ブーツというラフな出で立ちだったが、その姿はひどく洗練されて見えた。

透き通るように白い肌と細い首筋は、メイクをしていなくても十分に人目を惹きつける。

咲は美帆の姿を一目見るなり、電話を切り、敵意に満ちた視線を向けた。

「皆さん、お疲れ様です。少し休憩にしましょう。

後で私から皆さんに温かい飲み物を差し入れしますね」

美帆はパンパンと二度手を叩き、スタジオ内の全員に向けて声をかけた。

現場には自社のスタッフだけでなく、外部の制作会社の人間もいたが、皆美帆を知っており、彼らは暗黙の了解で彼女の顔を立て、一斉に作業を止めて休憩に入った。

「少し話しましょう」

美帆は咲の前に歩み寄り、いつもの癖で彼女のテーブルをコンコンと軽く叩いた。

「ええ、いいわよ。私に何かご用かしら?」

咲は口角を上げ、彼女のトレードマークである甘い笑顔を浮かべた。

彼女の右手は無意識に自分のお腹を撫でている。

何度も、何度も。まるでわざと美帆に見せつけるかのように。

美帆は何も言わなかった。表情はいつも通り、どこまでも淡々としていた。

だが周囲の目には、今の美帆は「可哀想な女」として映っていた。

高い地位に上り詰めても、その頂は孤独で冷たい。

夫は長年浮気を繰り返し、外で女を作り、あろうことか最も寵愛する愛人を妊娠させた。そして今、その愛人が堂々と彼女に喧嘩を売っているのだ。

これほどの屈辱に耐えられず、崩れ落ちない女がどこにいるだろう?

他人から見れば、美帆はただ強がっているだけに過ぎなかった。

「自分がタレントだという自覚はお持ちよね?」

美帆の視線はふわりと咲の腹部に落ち、すぐにまた逸らされた。

「まともに演技ができない、あるいは演じたくないのなら、降板してくれて構わないわ。

給料泥棒のタレントは必要ないから。

あなたの代わりになる新人は、いくらでもいるわ」

咲の顔色が微妙に変化し、口元の笑みすら保てなくなった。

これまでずっと旭に甘やかされ、周囲からちやほやされることに慣れきっていたせいで、咲は極端にプライドの高い性格になっていた。

そんな彼女にとって、美帆のこの言葉は紛れもない侮辱だった。

大勢の前で平手打ちされるよりもプライドをへし折られる言葉だ。

旭が莫大な資金を投じて築き上げてくれた「トップ女優」という肩書きのおかげで、咲の行く先々には常に彼女に媚びへつらう者が群がっていた。

そんな言葉を浴びせられ続けた結果、彼女自身もそれが真実だと信じ込んでしまっていたのだ。

咲は怒りに打ち震え、歯を食いしばって反論しようとしたが、視界の隅にある人物の気配を察した瞬間、その態度は急変した。

あっという間に、大人しい子猫ちゃんへと変貌し、今にも泣き出しそうな瞳で潤ませて訴えかけた。

「美帆さん、誤解ですよ。さっきは本当に体調が悪かっただけで……

わ、私、ちゃんとやります!約束します、降板なんてしないでください。

今すぐワイヤーアクションの準備に行きますから……」

そう言いながら、咲は慌てて立ち上がり、スタッフを探しに行こうとするそぶりを見せた。

美帆は眉間を寄せた。咲がまた何か面倒を起こす気だと察したのだ。

無意識に振り返ると、いつの間にか旭が自分の背後に立っているのが見えた。

案の定だ。

彼はまた、「心から愛する女」の肩を持つためにノコノコとやって来たのだ!

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