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15.暗雲

last update Last Updated: 2025-08-13 17:00:37

先輩はベッドの上で静かに寝息を立てていた。その身体にタオルケットをそっとかけ、俺は荷物をまとめて部屋を出る。

明け方、まだ日が昇り切っていないくらいの時間だった。

「クソっ……」

つい、そんな言葉が口からもれる。

昨日の自分は、衝動的だった。

避けられているのが悔しくて……つい言葉で先輩のことを追いつめ、手を出してしまった。結局、最後まではしなかったけれど……俺の提案にうなずいた先輩が、いったいどんな気持ちだったのかまではわからない。

(やったよな、これ……)

今日も放課後には部活がある。間近に迫った、夏の大会の予選に向けての練習だ。

(どんな顔して、会えばいいんだよ……)

俺は顔を手のひらで覆いつつ、自宅までの道のりを、荷物を片手に歩き続けた。

◇◆◇◆◇◆◇

「ねぇねぇ、玲。……あのふたりさぁ、何かあったの?」

「さぁ……?」

「あ、それ……俺もさっきから気になってた」

「萩っちも気づいてたかぁ~。昨日も変だったけど、今日はもっと変だよねぇ?」

「そうだな。ゲームに影響がなきゃいいんだけど……」

部活での俺たちは、簡単に言うと、超・腫れもの扱いだった。

何かあったんだろうということはわかるが、聞けるような雰囲気でもない。

実際、俺と先輩とは気まずい以外の何物でもなかった。考えないようにと気をつけていても、つい昨日のことを思い出してしまう。

先輩は先輩で、平静を装っているように見えたけど、何やら考えごとをしている時間が増えた気がする。

そして、試合中の連携は……何とか機能していたけれど、ヒヤリとする場面が多かった。

「これは……」

「フレンドリーファイア、復活かぁ?」

「まったく、どうしたもんかねぇ……」

幼なじみ3人がひそひそと話す声が聞こえてくる。

(このままじゃマズいことなんて、俺がいちばんよくわかってる……)

「車の横、地雷です」

「了解。神谷、そこ左」

でも、お互いに最低限のコミュニケーションで済ませようって意志がハンパなくて……。

俺は最後まで先輩と目を合わせて話すことのないまま、部活を終えて別々の帰路についた。

◇◆◇◆◇◆◇

本音で話すきっかけを得られないまま――カレンダーはついに6月になった。

e-JAPAN全国高校ゲーマーズ選手権、夏の大会がついに始まる。

決勝はリアルの舞台で配信もされるが、予選の段階ではオンラインだ。試合はトーナメント形式で1回でも負けたら終わり。新葉高校はゼログラでは前回の準優勝校なので、2回戦目からのシード枠だった。

部活に向かう途中、野田は拳を握り、目をキラキラさせていた。

「俺たちにとっては初めての大会だけどさ! いよいよ、始まるって感じがするよなぁ~」

「うちの学校、バトルソウルもシードだったんだな。メンバー、調子どうなの?」

「そりゃあ、最高よ。うちは部長がまとめ役だし、みんなちゃーんと調整してきてる」

「ああ……怒ると怖いもんな、部長」

「それを言うなら、副部長の方がだろ? ていうか、なーんか色々あったみたいだけど、大丈夫そ?」

野田はチームこそ違うが、同じ部活のメンバーだ。噂で色々と耳にはしているんだろうけど……この気安い感じが今はありがたかった。

「大丈夫……じゃないかなぁ……」

「うわー。不安そうだぁ~」

「……なんとかなる、と思う……」

ゴシップ大好き野田は「話なら聞いてやるから、いつでも相談しろよっ!」と鼻息を荒くしながら、俺の肩を叩いていた。

本当、頼もしい奴。……相談したら最後、部活中どころかクラスの中にまで話が広まるような気はするけれど。

ふたりで部室のドアを開ければ、緊迫した雰囲気が一気に襲ってくる。

(3年生にとっては最後の夏の大会、だもんな……)

俺は頬をパシッと叩いて気合いを入れ、先輩方に挨拶してからいつもの席に着いた。

◇◆◇◆◇◆◇

試合の後。部室には珍しい人の声が響いていた。

「……いい加減にしろよ、お前らっ!!!」

ちなみに『お前ら』というのは――当然ながら、俺と小神野先輩のことで。

「この前の練習で、『ちゃんと話し合え』って言ったよな!!?」

「玲っ! ちょっと落ち着きなよ~」

怒っているのは律先輩の兄、椎名玲先輩だ。

普段は、やんちゃな律先輩の話を「はいはい」と聞いているお兄ちゃん的なキャラで、口数もそこまで多くない。そんな温厚な人がここまで怒っているということは――まぁ、120パーセント俺たちが悪いということだ。心当たりしかない俺は、しょんぼりと頭を下げる。

大切な試合の1戦目は、はっきり言ってかなりひどい内容だった。俺と小神野先輩が、そろってフレンドリーファイアをやらかしたのだ。しかも、仲良く1回ずつ、お互いを瀕死の状態にするまで撃った。

ゲームでは防衛チームの3人に入っている玲先輩だが、使うのはいつも回復を担当するメディックか、ドローンで味方を支援するサイレンというキャラだ。先輩は拠点を守りながら、俺たちの回復とサポートに死ぬほど動き回ることになったし、何なら機能しない攻撃チームの代わりに拠点の制圧までやってくれた。

玲先輩がいなければ、この試合はとっくに終わっていて、俺たちは2回戦で敗退していたはずだった。

「味方が味方を撃ってどうすんだよっ!! 俺だってサポートには限界があるんだ。それに、俺が防衛チームから抜けた後の萩原と律はどうだったよ!!? ちょっとは他の仲間のことも考えろっ!!!」

玲先輩のキャラクターがあんなに走り回っていた試合は初めてだったし、そのせいで萩原先輩と律先輩は窮地に追いやられていた。

ちなみに、本拠地も取られかけた。反省しかない。

小神野先輩は久々に見るふくれっ面で「……悪かったよ」と言っていて、玲先輩は大げさにため息を吐いた。

「小神野。この選手権大会の決勝って、どこでやるんだっけ?」

「……新しくできた、渋谷のホール」

「観客の収容数は?」

「…………2000人。当日はテレビも来るし、決勝戦の様子は全国に生配信される……」

「わかってんなら、いいよ。新葉の副部長っていうのもあるけどさ、プロの世界でやっていきたいなら、今日みたいなプレーしてるとすぐクビになるぞ」

小さな声で「……ごめん」と呟く先輩の肩を、玲先輩が軽く叩いた。

「今後、こういうタイプのフォローは絶対にしないからな。それから、神谷! お前は今日の放課後、小神野の部屋寄って反省会な」

「えっ……!? で、でもっ」

「返事っ!!!」

感情を全開にする先輩に抗うすべはなく……俺は「はいっ!」とまるで兵士のように姿勢を正した。

それに満足したのか、玲先輩は「よしっ」と言って、口の端で笑う。

「ちょっと前までの小神野と神谷のプレーは、悪くなかったと思うよ」

「だけど……」と前置きして、先輩は続けた。

「お前らの連携って、何かこう……根本的に色々と足りない気がするんだよな」

顔を上げても、小神野先輩はこっちを見ていなかったけれど……きっと、俺と同じように心当たりがあるんだろう、とそう思った。

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