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14.わがままな後輩(悠馬side)

last update Last Updated: 2025-08-12 16:30:46

ベッドの上では、神谷がまだ平和そうに寝息を立てていた。俺はまだ鳴る前のアラームを解除して、こっそりとベッドを抜け出す。

昨日は、一睡もできなかった。変な態勢で寝たから腕も痛い。

俺は音を立てないよう冷蔵庫を開け、グラスに注いだ牛乳にココアの粉末を混ぜてから、ローテーブルの上に置いた。

(どうして、こんなことになったんだっけ……)

昨日のことがずっと頭から離れず、ぐるぐると頭を駆け巡っている。

あいつが白雲高校の部長に嫉妬してるみたいで、それがちょっとかわいかった。拗ねてる神谷をかまいに行ったら、俺は先輩のライバルなのかとか、特別なのかとか……またかわいいことを聞き始めたので、ついキスとかしてしまった。

(やっちまった、って感じだよなぁ……)

結果的にあいつの気持ちに火を点けることになって、強引に口づけられた。

正直、キスは気持ちよかった。あんな風に求められてドキドキしたし……嬉しかった。

このまま流されて抱かれようかとも思ったけど、踏みとどまったのは俺たちの今後の関係と、神谷の気持ちを考えたからだ。あいつの気持ちは、本人も言っていたけど、純粋な恋愛感情には見えない。

(でも……じゃあ、何……?)

寝る前にもう一度キスをねだられたけど……よくわからない、というのが正直なところ。

まぁ、同じ部活で好きになるとか、つき合うとか……別れて気まずくなるのも嫌だし、きっとこれでよかったんだと思う。俺の恋愛対象が同性だということはたぶんバレたが、神谷はこういうことを周りに言いふらすようなタイプでもないだろう。

何度も出てくるあくびを噛み殺していると、神谷が起きてくる気配がした。

「おはよー、先輩」

「おはよ」

グラスに牛乳を注いで、隣に座る。いつもよりも近い距離。お互いの指先が触れたのを感じて……俺はわざとらしくならないよう、こっそりと立ち上がった。

「……パ、パン食べる?」

ヤバい。声、裏返ったかも……。

そう思ったけれど、神谷は「ありがとうございます」と特に気にする様子もなくて。トースターの前でパンが焼けるのを待っていると、ふと昨日の神谷のセリフがよみがえってきた。

『先輩を俺のものにしてみたいっていう気持ちならある』

『……俺、たぶん先輩なら抱けますよ』

「あれ、先輩……どこ行くんですか?」

ぎこちない仕草でそろりそろりと動き出す俺に、神谷は不思議そうに聞いた。

「べつに……ちょっとトイレ。あ……焼けたら取り出しといて」

「はーい?」

神谷は首をかしげつつ、まだ眠いのか気だるげに返事をしていた。

◇◆◇◆◇◆◇

同じ部屋で生活するということは、どんなときでも一緒に登校するということで――。

俺たちは昨日ふたりのあいだで起きたことを引きずったまま、口数も少なく学校まで向かった。

「じゃ、先輩。……また部活で」

しれっとした顔で言う神谷と別れて、3年の教室に向かう。隈のできた目許をこすってドアを開けると、部長の笹原が「よう」と気安く声をかけてきた。

「おはよ」

「小神野、寝不足? 珍しいなー」

「俺だって眠れないときくらいあるよ。……なんか用?」

「ホームルームまでまだ時間あるだろ? ちょっと外、出ない? 渡したいものがあるんだ」

笹原はかわいらしい封筒を何枚か俺に見せ、口の端を上げてにっと笑った。

(ああ、そういうことか……)

「……めんどくせ」

「そう言うなって。天気いいしさ、屋上でも行こ」

笹原に連れて来られた屋上にひと気はなく、初夏の陽射しがまぶしかった。

俺はさっき笹原から見せられた封筒を受け取り、中の手紙に目を通す。

手紙は俺宛てのラブレターで、『ずっと好きでした』というような内容。当然だが、笹原からではなく、顔を知ってる女子から知らない女子まで様々だ。中には男からのものもあったりする。

「あーあ。俺は3年間、お前のための伝書鳩だったよなー」

笹原が手すりに寄りかかって、ため息を吐いた。

「そんな、『もうすぐ卒業です』みたいなこと言うなよ。まだ夏の大会も終わってないのに」

「そうなんだけどさぁ。せめて一通くらい俺宛てのものがあってもいいと思わねぇ!? 理不尽だよ……」

「悪かったな。……まぁ、世の中なんて普通に理不尽なものだから」

「それ、全然なぐさめになってないからな!」

俺の性格と態度が終わっているせいか、俺の外見が好きで告白する人たちは自然と部長である笹原を通すルートを選んでいるようだった。いつの間にか定着した習慣に、笹原は始めこそ手紙の宛先を確認していたが、最近はばかばかしくなってやめたらしい。いつもこうして、名前も知らない誰かからの手紙を受け取っては律儀に渡してくれている。

「返事、ちゃんとしろよなー」

「まぁ、気が向いたら」

「そんなにたくさんもらってさぁ、本命とかいないわけ?」

「……いない、かな」

「曖昧な返事だこと……。まぁ、モテる奴ってのはそういうもんなのかなぁ。神谷も今朝、女子に呼び出されてんの見たわ」

「は?」

思わず、すっとんきょうな声が出た。さっき一緒に登校した神谷が……?

玄関で別れた後にでも呼び出されたんだろうか??

「新葉は学校祭が6月だからなー。とっくに準備も始まってるし、色々あるのかも。あいつ、イケメンだし」

顔が良いのは否定しない、と俺はスマホの隠しフォルダに入れた神谷の写真をながめながら思う。俺もあいつのビジュアルは好きだし、ちょっと王子様系の甘い顔、なんてプロになっても人気が出るに決まっていた。

「ふぅん」

「あれ……何か面白くない? 張り合ってんの?」

「べつに。……俺、そういえば今、神谷と一緒に住んでんだよね」

「はぁ!?」

「正確に言うと、あいつが俺の部屋に居候してるって感じだけど」

「マジか、先に言っとけよ……。そのわりに、いつも言い合いばっかしてんのはなんでなの?」

「通常仕様」

「よく一緒に暮らしてんなぁ……」

笹原は呆れたように肩をすくめている。

「そもそも、なんでそんなことになったわけ?」

「お前が、俺たちを部活出入り禁止になんてしたからだよ。次は絶対に勝ちたいから、一緒に過ごす時間を増やして、お互いの考えを知ろうってなったわけ」

「へぇ~……お前が、よく許可したなぁ。……で、上手くいってんの?」

「……さぁ」

昨日のやりとりを思い出す。

(……神谷のことは、好きだ)

主に顔だけど、負けず嫌いなところも悪くない。

あと、家事ができて、料理が上手いところ。

わがままで変に押しの強いところは好きじゃないけど、昨日みたいに甘えてきたら、それはそれで情が湧く。(年下だし)

ただ、神谷の方はきっと好奇心か何かだろう。お互いのためにも、これ以上、距離が近くなるのは良くない気がした。これから先だって長いのに、興味本位の身体の関係なんて……とんでもない。

(そう思ってるなら、早くこの生活をやめないといけないんだけどな……)

俺はそこまで考えて、手すりに寄りかかる笹原の隣に並んだ。

「まぁ……それも、もうすぐ終わりそうだけど」

「どういうことだ?」

「期限は2か月ってことだったからな」

「ああ……大会の予選が始まるまでってことか」

(そうだ。何があっても、あいつと過ごすのなんて、あと少し……)

腕時計を見た笹原が「やべっ」と声を上げ、俺たちは教室へと戻ることになった。

「予選も近いんだから、体調整えておけよ。小神野」

「今日はゆっくり寝るって。……お前も、恋愛なら大学入ってからにしろよ」

「うっ……!!!」

どうやら、クリティカルヒットだったらしい。

胸を押さえる笹原とふたりで教室に戻ると、すぐにホームルームが始まった。

◇◆◇◆◇◆◇

後輩・神谷とは関係を持たない。そう決意して帰ってきたはずなのに、俺は夕飯を終えてひと息ついたタイミングで神谷に迫られていた……。

「先輩、俺のこと避けてますよね」

あー……、バレてる。

まぁ、「ちょっとあからさまかな?」と自分でも思ってたけど……バレてたか。

「何のことだよ」

「とぼけないでくださいよ。朝起きてからずっと、俺が近くに来るとさり気なく逃げますよね」

図星すぎて、言葉もなかった。

だが、まずいのはこの体勢だ。ベッドに寝転がった俺に、神谷が覆い被さるようにして顔を近づけてきている。

「さすがに傷つきます。……昨日のこと、なかったことにしたいんですか?」

「……っ! べつに、そういうわけじゃないけど」

罪悪感からそう言ったのが、たぶん、まずかった。

神谷はだらりと脱力した俺の手を取って、自分の手を絡めてきた。恋人繋ぎをするなり、シーツに縫いつけでもするようにきゅっと力を込められる。

「手は、繋いでもいいんですよね?」

昨晩、寝るときにそんなことを言ったかもしれない。

とっさに目をそらした。もう片方の手が頬に添えられ、強制的に神谷の方を向かされる。

「……嫌いですか、俺のこと」

「誰も言ってないだろ、そんなこと……」

そんな悲しそうな顔で言われれば、こっちも否定せざるを得ない。

神谷の顔が近づいてくる。もうどうにでもなれと思って、目を閉じた。

キスは昨日よりもずっと優しいものだった。最初は触れるだけ。それを何度か繰り返したあとで、少しずつ深いものに変わっていく。

「……んっ……」

舌を絡めるようなキスに、お互いの吐息が混じった。

あごをどちらのものともわからない唾液が伝い、頭がぼうっとしてきたところで……足のあいだに神谷の膝が入り込んでくる。

(……っ、こいつ!)

さすがに、そこまでは許可していなかった。俺は空いている方の手で、神谷の足をすかさずつねる。

「痛っ!」

「当たり前だろ。調子乗りすぎ」

「……すみません」

珍しく素直に謝ったかと思えば……さっきのキスの続きをされて。

(まずい……)

このままだと、完全に流されてしまいそうだった。

仮に今「……先輩、抱いてもいい?」なんて聞かれたら、俺は黙ってうなずくしかできないと思う。

そう言われる前に、俺は「あのさ」と切り出して、そっと神谷の胸を押した。

「……いつ出てくの、この部屋」

その言葉に、神谷は目を見開いたまま俺の顔を見つめている。

当然だ。唇を噛みしめて、傷ついたって顔をしてる。

「先輩は……俺に出て行ってほしいんですか?」

質問には答えなかった。

「予選の日まで、置いてはくれない……?」と甘えるように言う神谷を無視していると、首筋に顔を埋められる。軽くキスされたあと、強く吸われて……耳のあたりを舐められた。

「ちょっ……おい、神谷っ!」

声で抵抗するものの、すぐに唇を塞がれる。

強引で、乱暴で――でも、神谷の悲しいって気持ちもたしかに伝わってくるような、そんなキスだった。

神谷は苦しそうな表情のまま……俺を強く抱きしめて言った。

「じゃあ……最後に抱かせてください。それで、出ていきますから」

神谷と住むことが、嫌だったわけじゃない。けど……。

「……わかった」

俺はそう言って、神谷の行為を受け入れた。

服の下に手がすべり込んでくる。

「先輩……」

うわごとのように、何度もそう呼ばれた。

まるで俺のものだとでも言うように、全身に跡をつけてくる神谷を怖いとは思わなかったけれど……恋愛感情じゃなかったら、いったい何が神谷をそうさせるのだろう、とそう思った。

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