血液検査室に配属されて一週間あまり。
私の「前向きに頑張ろう」という気持ちとは裏腹に、新庄さんの圧は日を追うごとに強まっていった。
けれど、彼女に悪意を持たれるようなことをした覚えはない。
だから私は指摘を正面から受け止め、「次は同じことを言われないように」と必死に自分に言い聞かせていた。
「私、トイレ寄ってから行くね」
「うん、わかった」
午前中の実習後、私と翠はいつもの流れで、ふたりで昼食をとろうとしていた。病棟の休憩室に向かう途中、翠と別れて先を急ぐ。
昼休みは唯一、ホッとできる時間だ。
実習中は集中すべきなのは当然だけど、新庄さんの巡回時は思いもよらない角度から指摘が飛んでくる。
最近は彼女の姿を見ただけで心臓がきゅっとする。課題をこなすより「怒られないように」と考えてしまう自分が情けない。
ついさっきも凝固検査について質問したら――
『講義で把握しているはずですよね? その程度がわからないと単位を落とすのでは?』
なんて辛辣な言葉を浴びせられた。さすがに落ち込んだけれど、切り替えなきゃ。
幸い、新庄さんは一日に全班を回るから、一度巡回が終わればその日は現れない。午後は心安らかに過ごせるはずだ。
そのころ、私生活でも変化があった。兄が家を出たのだ。
あの土曜日、デートをキャンセルした午後からすぐに物件探しを始めた。条件は「病院から近いこと」だけ。
内見した部屋に即決し、引っ越しもトントン拍子。
兄が持ち出したのは衣服や本、仕事道具だけで、家具や生活用品はすべて新調した。
母の「実家に泊まるとき楽だから」との提案でベッドや机は置いたまま。
平気そうにしていたけれど、母も内心は寂しいのだろう。部屋をそのままにしておけば、いつでも帰ってこられる――そう考えたに違いない。
でも、残った荷物があっても兄の気配は消えた。
以前から忙しくて顔を合わせることは少なかったけれど、「たまに会える
漣くんが避妊具を装着している間、どうにも落ち着かなかった。 ベッドに横並びで座りながら、私はそわそわと意味のないことをしてしまう。 兄の部屋の天井の四隅や、シーリングライトの形なんて普段気にも留めないものを、やけに真剣に観察していた。「瑞希、どうした?」「な、なんでもないっ」 不思議そうに顔を覗き込んでくる漣くん。 私は慌ててぶんぶんと首を横に振り、視線を逸らした。「……うそが下手だな。いかにも『目のやり場に困ってます』って顔してる」「っ、ごめん……まだ、その……慣れなくて」 図星を突かれて、顔を背けながら小さく謝る。 漣くんは私のことを、やっぱりなんでもお見通しだ。「そういうところも、かわいい」 ぽつりと呟くと、彼は私を抱き寄せた。 熱を帯びた胸に顔を埋めると、ドキドキがさらに加速する。 意外と筋肉質な腕が私の背中を包み、首筋にキスがひとつ落ちた。「――愛おしくてたまらない。瑞希が俺の腕の中にいてくれるのが、本当にうれしい」「私も……漣くんとこうして一緒にいられて、すごく幸せ」 少し前の私は、こんな未来が来るなんて想像できなかった。 奇跡でも起きない限り、望めないと思っていた。 でも――その奇跡は起きた。 大好きな人の温もりが、その証拠として今ここにある。「……ずっと謝らなきゃって思ってた。初めて瑞希を抱いた、あの夜のこと」「……?」 幸福感に浸っていると、不意に神妙な口調で切り出され、私はほんの少し身を離して彼の瞳を見つめた。「瑞希が初めてだってわかってたのに、ちゃんと『好きだ』って伝えられなくて……中途半
漣くんは私の頬に軽くキスを落とすと、そのまま足元へとずり下がった。 そして、私の両脚をそっと開き、その間に身体を割り込ませる。「な、なにするのっ……?」「いいから」「あっ、やぁ――!」 まさか、と思った次の瞬間。 漣くんが私の脚の間に顔を埋め、まだ絶頂の余韻で蜜を吐き続けている入り口に舌を這わせてきた。「だっ、だめだってば、漣くんっ……! そんなところ、汚いっ……!」「そんなことない。瑞希の身体に、汚い場所なんてないよ」「で、でもっ……あぁっ……!」 指で触れられるよりも鋭く、直接的な刺激。 粘膜の上を舐め上げられるたび、羞恥と快感が入り交じって全身を駆け抜ける。 ――顔から火が噴き出そうなほど恥ずかしい。 それなのに、どうしようもなく気持ちいい……!「んぁ、やぁ……漣くん、だめぇっ……!」「どうして? 気持ちよくないの?」「そういうんじゃ……っ、なく、てっ……!」 ざらついた舌先が秘芽を嬲るたび、えも言われぬ悦楽がほとばしる。 必死に足をばたつかせようとするけれど、彼にがっちりと押さえ込まれて身動きが取れない。 強制的に快楽を与え続けられる状況に、抗う術はなかった。「だめ、漣くん、本当にだめっ……! また、おかしくなっちゃう、ぁああっ……!」「何度でもおかしくなっていいよ。どんな瑞希も、大好きだから」「あぁっ、やぁ――っ……!」 濡れそぼった入り口に呼気がかかるだけでも、今の私には十分な刺
秘芽を探り当てた漣くんは、そこを親指で転がしながら、中指の先で入り口をくすぐった。 強烈な刺激に、あふれる蜜の量はさらに増していく。 熱を帯びたその場所は、圧をかけられるたびに少しずつ柔らかくなり、彼の指先を受け入れはじめていた。 ――わかる。漣くんの指が、私の中に入ってきているのが。「だ、めぇ……それ、だめぇっ……! んぁんっ……!」 声にならない声を上げても、秘芽への鮮烈な刺激は止まらない。 呼吸を忘れてしまいそうな愉悦に喘ぐ私の耳元で、彼がいじわるにささやく。「瑞希のここ、指に吸い付いてくる。……ナカにほしかったんだろ?」「ち、がっ……やぁ、んぁっ……!」 否定の言葉を必死に口にするけれど、その声は快感に震えて、むしろ悦んでいるようにしか聞こえない。 大好きな漣くんに“いやらしい女”だと思われたくなくて否定しているのに、身体の反応は正直すぎた。「まだ狭いけど……思ったよりすんなり広がりそうだ。ほら、もう全部入った」 下腹部に視線を落とした漣くんが、熱を帯びた声で言う。 気づけば、中指の根元まで呑み込んでいた。「熱くて、ぐにゅぐにゅしてて……瑞希が悦んでるの、伝わってくる」 出し入れされる指の感触に、腰がひとりでに揺れてしまう。 十分に潤っているのを確かめた漣くんは、さらに指を一本増やした。「ひぁっ……!」 二本の指がするりと埋め込まれ、奥を擦られた瞬間、腰が大きく震える。 お腹の裏側にぶつかるような感覚に、甘い悲鳴が止められなかった。「あぁ、ああっ……漣く、んっ、それ、やぁ…
「噛まれるの、いや?」「いやじゃ……ないっ……気持ちいいっ……」 舌先で頂を突きながら、上目づかいで問いかけてくる漣くん。 私はかぶりを振り、恥じらいに頬を染めながら答えた。 前みたいに壊れものを扱うように触れてくれるのも、大切にされている感じがしてうれしい。 けれど、こうして衝動的に愛撫されるのも、彼の思いの丈を全身で受け止めている気がして――いやじゃない。 むしろ、うれしくてたまらなかった。「もっとしてあげる」「ふぅ、んんっ……ぁあっ……!」 私の反応が気に入ったのか、漣くんはもう片方の頂も同じように愛撫してくる。 硬くなった先端に舌を這わせ、唾液を塗りつけ、軽く歯を立てて刺激を与える。 そのたびに背筋がぞくぞくと痺れ、びくびくと身体を反らしてしまう。「んっ……! やぁ……っ」 胸を責められているだけで、息が乱れる。 そんな私を見つめる彼の瞳は、熱を帯び、獲物を逃さない獣のように鋭かった。 愛撫を続けながら、彼の手が下腹部に降りていく。 恥丘を撫で、入り口を覆うレース越しに触れた瞬間、漣くんがふっと笑う。「すごいね。ここ、まだ触ってないのに、もう……」「だって……漣くんが……するからっ……!」 羞恥に耐えながら、震える声で反論する。 けれど自分でもわかっていた。 まだ触れられていないのに熱がこもり、レース越しでもわかるほどに蜜が溢れてしまっていることを。 はしたないと思うのに、止められない。そもそも、こんなふうにしたのは漣く
「んっ、あぁっ……」「かわいい声。もっと啼かせたい」 頬や首筋、鎖骨、脇腹へと熱を帯びたキスが降り注ぐ。そのたびに、肌がじんわりと火照っていく。 漣くんも自分の衣服を脱ぎ捨て、下着一枚だけを残して逞しい身体を晒したから、思わず息を呑んだ。「漣くんっ、やぁ……」 抗うように声を上げても、唇が触れるたびに甘い快感が弾けて散る。 柔らかなキスひとつひとつが、私の抵抗を簡単に溶かしてしまう。「やだって言いながら……ねだるみたいな声、出してる。……自覚ない?」「っ……!」 耳元に落とされた指摘に、顔が一気に熱くなる。 ――そうだ、漣くんの言う通り。 拒む言葉を口にしているのに、声色は媚びるようで、むしろ悦んでいるみたいに聞こえてしまう。 恥ずかしくて反論できずにいると、彼はふっと笑い、次の瞬間、強引に唇を奪ってきた。「んんっ――ふ、ぅっ……」 衝動的で、乱暴といってもいいキス。けれど不思議と怖くはなかった。 荒々しい熱情のなかに、私への欲望と独占欲がありありと伝わってきて、むしろ心地よかった。 強引に唇を押し開かれ、舌を絡められる。 抗う暇もなく深く侵入され、されるがままになっているうちに、頭の芯がじんじん痺れていく。「……そういう反応されると、優しくできなくなる。もっと大事にしたいのに」 名残惜しそうに唇を離した漣くんが、じれったそうに吐き出す。 それほどまでに私を想ってくれている。そう実感できる言葉だった。「だ、大丈夫。私、ちゃんとわかってる。……前に漣くんが、すごく慎重に……抱いてくれたこと」 私は首を振り
好きな人の部屋を訪ねるのだから――そう思って、新調したセットアップ。 水色のレース素材のブラとショーツは、漣くんがブルー系を好きそう、というイメージがあったから。 もちろん、彼によろこんでもらいたくて買ったものではあるけれど……。 でも展開は、私の想像よりもずっと早くて。戸惑いながら口を開く。「な、なんか……いつものお兄ちゃん――じゃなかった、漣くん、らしくない」「そう?」「だって……私の知ってる漣くんは、いつも冷静で余裕があって……。衝動で押し切るなんて、似合わない」 言いながら、自分の鼓動が速くなっていくのがわかる。 こんな言葉をかけている時点で、私自身も冷静さなんて失っていた。 漣くんは私の額に軽くキスを落として、ふっといじわるに笑った。「俺だって、好きな人を前にしたら余裕なんてなくなるよ。……たとえば、この服を別の男と会うときに着ていたなって思うと、嫉妬するし」「えっ……そ、それは、ち、違うの!」「違う?」 脱いだばかりのブルーのワンピースを手に取り、さらりとつぶやく。 私ははっとして、大事なことを言い忘れていたのに気づいた。慌てて首を振る。「あの日は、デートなんてしてない。外で時間をつぶしてただけ……。漣くんと朝まで一緒に過ごしたあとに、別の人となんて会えなかったから」 彼に「前を向いた」って証明したくて、あえて出かけるふりをしただけ。「……そうだったんだ」 漣くんが目を見開く。その顔を見て、胸が熱くなる。 私は恥ずかしさを紛らわせるように、思い切ってお願いした。「私、まだデートってしたことないから……。今度、してくれる?」「もちろん」 やわらかく響く声。答えがうれしくて、自然と頬が緩んでしまう。 漣くんとのデート。それは私がずっと夢見ていたこと。叶うなんて――胸がいっぱいだった。 けれど彼は少し言いにくそうに視線を逸らし、ぽつりと切り出した。