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第583話

Auteur: 風羽
蘭クラブ。

宴司がやって来るなり、翔雅はいきなり噛みついた。

「お前があの日、遅れなければ……俺が香坂に絡まれることもなかった。あれがなければ澄佳と別れることもなかった!」

宴司はむっとして言い返す。

「車が故障したんだ。俺のせいにするなよ。香坂がしつこく迫ってきたとき、お前だって振り払えただろ。それに、俺は離婚しろなんて一言も言ってない。結局は自業自得だ。

澄佳に謝るどころか、スキャンダルで散々迷惑をかけて、彼女が深夜まで必死に火消ししてくれたその日のうちに、お前は逆に離婚だと言い出したんだ。そんなもの、向こうが呑み込めるはずがない。

周防家は名門だぞ。お前のわがままに付き合う安い嫁じゃないんだ。

晩餐会で見ただろ、澄佳が現れた途端、何人もの若手俳優が名刺を差し出して、少しでも顔を売ろうと群がっていた。あそこは名利の場であって、捨て場じゃないんだ」

「澄佳が若い俳優に言い寄られても、まさか本気でなびくと思うか?」

翔雅が低く吐き捨てると、宴司はわざとらしく目を細めた。

「さあな。桐生みたいな顔立ちが彼女の好みなんだろ?ほら、松宮に対してのあの溺愛ぶり、まるで桐生の代わりを見てるようじゃないか。お前みたいに精悍なタイプは、澄佳の審美から外れてるんじゃないか?」

「黙れ」翔雅はグラスを突き出した。

「くだらねえ話はやめろ。ただ飲むだけだ」

「へいへい、慰めてやってんだろ。心が焼け焦げてんのに、見てられねえんだよ」

「うるせえ、黙って飲め」

グラスを重ね、夜は更けていく。

翔雅は黙々と酒をあおり、宴司は控えめに飲みつつ、時折肩を叩いては宥めていた。思えば、宴司自身も澄佳を狙っていたことがあった。だが横から奪っていったのは、ほかならぬ翔雅だったのだ。

——深夜一時。

翔雅は半ば酔ったままバーを後にする。運転は専属ドライバーが担っていたため、宴司は同伴せずそのまま別れた。

黒塗りの車の後部座席。

窓ガラスに映る横顔は、街灯に照らされて陰影を深め、いっそう鋭く見えた。

そのとき、スマホが震えた。LINEの通知音。翔雅は反射的に手を伸ばす。

——澄佳が、友達追加を承認したのだ。

【あなたは一葉章芽と友達になりました。これからチャットできます】

一葉章芽……?

翔雅は思わず吹き出した。

——澄佳、いつからこんな文芸趣味になった
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