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私が早産した日、夫は元カノと海外にいた
私が早産した日、夫は元カノと海外にいた
Author: ぶた沼おかわり

第1話

Author: ぶた沼おかわり
悠は唇をきゅっと結び、少し眉を寄せていた。機嫌が悪いときにいつも見せる表情だった。

以前なら、悠の顔色をうかがって、何とか機嫌を直してもらおうとしていた。でも今は、気づかないふりをしてうつむいた。

すると、悠がこちらへ歩み寄ってきた。

「ミルク、作ったよ」

そう言って哺乳瓶に手を当てた。

「うん、ちょうどいいよ」

私は哺乳瓶を受け取り、改まった口調で「ありがとう」と礼を言った。

悠は一瞬、戸惑ったようだった。

「夏帆、俺たち夫婦なんだから、そこまで他人行儀にしなくてもいいだろ」

悠が私と安奈を病院から連れ帰って以来、私はずっとこんなふうに距離を置いていた。

少し間を置いて、悠が言った。

「……もういいよ。二人でゆっくり話してて」

そう言って、悠は背を向けて部屋を出ていった。

私は安奈をあやしながらミルクを飲ませた。少し飲んだところで、安奈は眠そうに目を閉じた。

遥もさっきのやり取りで気まずくなったのか、それ以上は深く聞かず、早まったことはしないようにとだけ言って帰っていった。

そのあと、ベビーシッターが安奈を連れていき、寝かしつけてくれた。

午後、家政婦が軽い食事を用意してくれたとき、悠が私の向かいに座り、突然こんなことを聞いてきた。

「……俺、これでも頑張ってるつもりなんだけど。それでもまだ足りない?」

ヨーロッパから帰ってきてから、悠は確かに安奈の世話もよくしてくれたし、私のことも何かと気にかけてくれていた。

私は首を横に振った。

「ううん、そんなことないよ。十分よくしてくれてる」

「でも、最近ずっと俺のこと避けてるよな」

私は少し気まずくなった。さっきあんなことを言ったうえに、普段からあれだけ悠を避けていたのだから、気づかれても仕方がなかった。

何と言ってごまかそうか迷っていると、悠がまた口を開いた。

「誕生日のこと、わざと忘れたわけじゃないんだ。

それに、安奈のことだって、ちゃんと大切に思ってる」

私はもう、何と返せばいいのかわからなかった。

去年の私の誕生日、悠は仕事の付き合いだと言って出かけ、私は家政婦が用意してくれた夕食を一人で食べた。

その夜、日付が変わる少し前、悠の友人のSNSで美里の誕生日を祝う投稿を見つけた。

写真には悠の後ろ姿も写っていた。

私は思わず、以前見た「YY」というアカウントをもう一度検索した。

案の定、5年間も更新されていなかったそのアカウントに、新しい投稿があった。

【15年続けてきた約束、今年も守れたね。今でも一緒に誕生日を祝ってくれる誰かさん、ありがとう】

気持ちが一気に沈んだ。あの頃の苦しさが、またよみがえってきた。

悠と結婚して間もない頃、知らない相手から何枚ものツーショット写真とSNSのアカウント名が送られてきた。見てみるように言われ、私はそのアカウントを検索した。

そこで、悠と美里の過去を知った。

二人は出会って恋に落ち、何度も別れてはよりを戻し、最後は美里が海外へ渡った。

あれほど好き合っていた二人も、結局は結ばれなかった。まるで切ない青春恋愛小説のような話だった。

私はきっと、その主人公が最後に妥協して結婚した相手なのだろう。

けれど今になって、二人はよりを戻しそうだった。そうなれば、私は二人の邪魔になるだけだ。

それでも、まだどこかで期待を捨てきれず、私は悠に電話をかけた。

電話に出た悠は、「どうかした?」と聞いてきた。

私は言おうかどうかずっと迷っていた言葉を、ようやく口にした。

「今日、私の誕生日なんだけど……まだおめでとうって言ってくれてないよ」

電話の向こうでは誰かがカウントダウンをしていて、かなり騒がしかった。悠には私の声がよく聞こえなかったようだ。

もう一度言おうとしたら、誰かが悠に声をかけた。

「悠さん、もうすぐ0時ですよ!美里さんが待ってますよ。一番におめでとうって言ってあげてくださいね!」

悠はその人に返事をしてから、私に言った。

「今ちょっと用があるから。またあとで話そう」

日付が変わって30分ほど経った頃、ようやく思い出したのか、悠からメッセージが届いた。

【誕生日おめでとう】

目頭がつんと熱くなった。私は泣きそうになるのをこらえながら、返事を打った。

【ありがとう。でも、もういいよ】

それきり悠から返事はなかった。どうしてあのとき、たった一言でも祝ってほしかったのか、悠にはきっとわからなかったのだろう。

私の誕生日はひっそりと終わったのに、美里は盛大に祝ってもらっていた。

そのことを知った悠の祖父が悠を呼び出すと、悠は冷ややかに言った。

「夏帆がまた、何か告げ口でもしたんですか?」

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