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【エピソード03〜バイキングデート〜】

Aвтор: 水沼早紀
last update Последнее обновление: 2025-04-15 15:08:29

 そして父親はついに闇金から借金をした。 だけどその金額は膨らんでいくばかりで、一切減ることはなかった。

 返済するためにお金を借りても、結局返せなくて……。利子ばかり増えてしまって、返すのも間々ならないくらいになってしまった。

 ある日、父は母親と私を残して首を吊って自殺した。 父親が死んで悲しむ暇もなく、母親もなんとか借金を返すために毎日朝から晩まで必死で働いた。

 それでも借金は少ししか減らなくて……。ついには過労で倒れてそのまま亡くなった。

 そして私は一人になり、家族を失った。 なのに今度は、借金取りが私の所へやってきて、もう限界だった。  家賃を払うのが精一杯で、生活なんて出来やしなかった。

 それを助けてくれたのは、爽太さんだった。爽太さんが私を地獄から救ってくれた。

 だから私は、爽太さんと夫婦になって、少しでもいい思い出を残したいと思っている。

 ニ年間という期限付きなら尚更、楽しい思い出をたくさん残して、爽太さんと夫婦だったことを思い出せるようにしたい。

 少しでも爽太さんと距離を縮めたい……って、そう思っている。

「紅音!」

「爽太さん……!」

 仕事を早く終えた爽太さんと待ち合わせをした夕方17時半すぎ。爽太さんは私を見つけて慌てて駆け寄ってきた。

「すまない。遅くなってしまった」

「いえ、大丈夫です」

 初めてデートとした時の緊張感みたいなものが、いつもある。

「さ、行こうか」

「はい」

 爽太さんはいつも、どこかに行く時には必ず手を繋いでくれる。 夫婦なら当たり前のことだけれど、それがいつも嬉しく感じるのは、なぜなのだろうか……。

 夫婦だからこそ、私たちはこうして夫婦らしいことを出来るのは嬉しい。

「紅音、今日メイク変えた?」

「え、分かりますか……?」

 確かにいつもよりもメイクを少し変えた。デートということもあり、アイメイクを少し濃いめにしたのだけれど……。

 まさか気付いてくれるとは思ってなかった。

「もちろん。そのメイクも可愛いよ」

「……ありがとう、ございます」

 【可愛い】と言われると、それこそちょっと照れるけど、やはり嬉しい。

「紅音、今日は過ごしやすいな」

「そうですね……。過ごしやすいです」

 手を繋ぎながらこうして歩くのは、なんだかそれだけでも幸せに感じる。

「爽太さんの手……温かいです」

「そうか?」

 この温もりは、ずっと忘れたくない。……そう思ってしまう。

「紅音、どうした?」

「……いえ、何でもありません」

 爽太さんと私は、たったニ年間という期限付きの夫婦だ。それでも私は、このニ年間を大切にしたい。

 例えニ年間だとしても、私はその期間を爽太さんと夫婦でいられたことを誇りに思うだろう。

「紅音、今日はバイキングに行こうか」

「バイキング……?」

 バイキングか……。バイキングなんて、一回だけしか行ったことないな……。

 それもいつ行ったかなんて覚えていない。

「ああ。加古川からもらったんだよ、バイキングのチケットをね」

「あの、加古川先生から……?」

 救命医の加古川先生……。もう名前を覚えちゃった。

「ああ。本当は奥さんと行くはずだったんだけど、奥さんが妊娠中でつわりがひどいみたいでさ。行けないからってくれたんだ。しかも期限、今日までなんだ」

「そ、そうだったんですね……」 

 だから今日、爽太さんは外でご飯を食べようって言ってくれたんだ……。

「せっかくもらったんだ。たくさん食べよう」

「はい」

 バイキングなんて私が行くようなところじゃないと思ってたよ……。

「まだ予約の時間まで時間があるな。……ちょっとそこのお店でも見てみようか」

「はい」

 私たちが入ったのは、素敵なアンティークショップだった。

 雰囲気が素敵で、なんかこう、懐かしい感じがした。  

「……これ、可愛いかも」

 私が見つけたのは、小さなオルゴールだった。 そのオルゴールを見た私は、なんだか懐かしい気持ちになった。

「オルゴールか……」

 昔両親から、誕生日のプレゼントにオルゴールをもらったことがあった。そのオルゴールをずっと私は、大切にしていた。

 だけど両親が死んでから、私それを捨てた。 思い出すのが辛くなるから。

 だからわたしは、オルゴールを見ると少しだけ悲しくなる。

「それ、ほしいのか?」

 オルゴールをジッと眺めていたら、爽太さんが後ろからそう問いかけてきた。

「あ、いえ……。そういう訳では……」

「ほしいなら、買えばいい」

「……え?」

 私は爽太さんの顔を見上げた。

「オルゴール、好きなんだろ?」

 爽太さんからそう問いかけらた私は、一瞬戸惑った。

 好きなのかどうか、答えられなかった。

「貸してみろ」

「え? あ、ちょ、爽太さん……!?」

 私手からオルゴールを抜き取った爽太さんは、そのままそれをレジへと持っていってしまった。

「い、行っちゃった……」

 そしてあっという間に会計を済ませた爽太さんは、その袋を私に笑顔で「ほら」と渡した。

「あ、ありがとう……ございます」

 袋をそっと受け取った私は、それを少しだけギュッとしてカバンの中に入れた。

「……爽太さん。オルゴール、大切にします」

「ああ。 そろそろ行こうか」

「……はい」

 私たちはまた、手を繋いでバイキング会場へと向かった。

 何十年ぶりのバイキングなのか分からないけど、会場に入っただけでとてもワクワクした。

「すごい……」

「すごい料理の数だな?」

「は、はいっ」

 まるで子供みたいに、わたしはワクワクした気持ちになった。

「予約した小田原です」

「小田原様ですね。お待ちしておりました」

 予約席と書かれたそのテーブル席に案内されたわたしたちは、荷物を一旦椅子の上に置いた。

「俺荷物見てるから、先に取ってきていいぞ」

「え?でも、いいんですか?」

「ああ。なんだ、レディーファーストってヤツ?」

 爽太さんはそう言って笑っていた。

「ありがとうございます。では、行ってきます」

 荷物を爽太さんに任せて、私は料理を取りに行った。

「どれも、美味しそう……」

 サラダにお肉料理、オムレツやカレー、デザートなどのたくさん料理が並べられている。

 見てるだけでテンションも上がる気がする。あまり取りすぎても食べ切れない気がしたので、少しだけ料理を取り席に戻った。

「お待たせしました」

「え、それだけでいいのか?」

 私の料理の乗ったお皿を見て、爽太さんはそう言ってきた。

「あ、あんまり取りすぎて食べられなかったら、あれなので……」

 私は遠慮がちに爽太さんにそう答えた。

「食べきれなかったら、俺が食べてやるから大丈夫だ」

「あ、ありがとうございます」

「俺も取ってくる。先に食べててもいいから」

 私はそう言われて「分かりました」と答えた。

 席を立った爽太さんの背中を少し見つめた後、手を合わせて料理を口に運ぶ。

「お、美味しいっ」

 何このサラダ!ドレッシングがめちゃくちゃ美味しい……!

 野菜も新鮮でシャキシャキしていて、ドレッシングもとてもさっぱりしていて美味しい。 なぜだかぺろっと食べれてしまう。

「これも、美味しい……」

 オムレツもふわふわトロトロで、生クリームが入っているからコクもあって、ケチャップとの相性が抜群だ。

 そして何よりこのローストビーフ。口に入れた瞬間にとろけるような食感で、食べた瞬間に感動してしまうような、そんな美味しさだった。

 それにこのローストビーフにかかっているソースも、クリーミーでまろやかでとても美味しい。

「どうだ?紅音」

 料理を持ってきた爽太さんは、頬張る私にそう問いかけてきた。

「めちゃくちゃ美味しいです。 こんなに美味しい料理、食べたことないです」

「そんな、大袈裟じゃないか?」

「本当ですよ! ここの料理、全部美味しいです」

 あまりにも美味しすぎて、お箸が止まらなくなるくらいだ。

「そっか、ならよかった。 加古川に感謝しないとな?」

 そう言って爽太さんは、ニコニコと微笑みながら食事に手を付けた。

「ん、本当だ。美味いな」

「ですよね? こんなに美味しい料理食べさせてもらえるなんて、私本当に幸せ者です」

 私は爽太さんに向かって微笑みを向けた。

「まあ、正確に言うと俺じゃなくて、加古川のおかげなんだけどな?」

「……た、確かに」

 元々は加古川先生が行くはずだったものだし、加古川先生に感謝しなくちゃ……。

 ありがとう、救命医の加古川先生。

「さ、遠慮なく食べるといい。好きなもの持ってこい」

「……じゃあ、遠慮なく」

 私はその後、あまりの料理の美味しさにお寿司やパスタ、デザートなど好きな物をとことん食べ尽くした。

 そんな食べる姿の私はを見て、爽太さんは「本当に美味しそうに食べるな、紅音は」と言って八重歯を見せて笑っていた。

「ごちそうさまでした」

 デザートまでしっかりと食べてしまい、お腹いっぱいになってしまった。

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