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第4話

Author: Hayama
last update Huling Na-update: 2025-10-29 18:00:00

それから30分も経たないうちに、医師が静かに部屋へ入ってきた。

その間、私は必死に湊さんをベッドまで運んだ。

彼の体にそっと腕を回し、できるだけ負担をかけないように支える。

彼の体は思っていた以上に重く、腕に力を込めてもなかなか持ち上がらなかった。

汗が額に滲み、呼吸が荒くなる。

呼吸の音を確かめながら、ゆっくりと歩を進めるたびに、胸の奥が締め付けられる。

彼の顔は静かで、まるで深い眠りに落ちているようだった。

でもその静けさが、私にはあまりにも不安だった。

ベッドのそばまで来ると、私は彼の体を丁寧に横たえた。

マットレスがわずかに沈み、シーツが柔らかく彼を包み込む。

枕の位置を整えながら、彼の頭をそっと支える。

その手のひらに伝わる髪の感触が、妙に現実的で、胸が痛くなった。

彼がいつも使っているベッドに、ちゃんと休ませてあげたかった。

それは、彼のためでもあり、私自身のためでもあった。

冷たい床に寝かせておくなんて、あまりにも惨くて、私の心が耐えられなかった。

せめて、彼が安心できる場所に。

せめて、彼が目を覚ましたときに、少しでも穏やかでいられるように。

医師は白衣ではなく、落ち着いたスーツ姿だった。

まるで、訪問先が病人ではなく、顧客であるかのような佇まい。

湊さんの寝室に案内すると、彼は無言で診察を始めた。

私は部屋の隅で、ただ祈るように手を握りしめていた。

息をするのも怖かった。何かを壊してしまいそうで。

「頭部を打っていますが、命に別状はありません。瞳孔反応と脈拍に異常はありません。しばらく安静に。目覚めるまで、そばにいてあげてください」

医師の声は静かで、落ち着いていた。

その言葉に、少しだけ肩の力が抜けた。

でも、罪悪感は消えなかった。

私が押したせいで、彼は倒れた。

私が限界だったせいで、彼は傷ついた。

「分かりました。ありがとうございます」

お礼を言うと、医師は会釈し静かに去っていった。

部屋には再び静寂が戻る。

でも、その静けさは、安らぎではなく、重苦しい沈黙だった。

それからの3日間、私はほとんど眠れなかった。

彼の寝息に耳を澄ませながら、何度も名前を呼んだ。

でも、返事はなかった。

食事も喉を通らず、ただ彼のそばに座り続けた。

時折、彼の手を握ってみる。

その温もりだけが、彼がまだここにいる証だった。

そして───────

「んっ…」

小さな、かすれた声が聞こえた。

私はすぐに顔を上げた。

心臓が跳ねる。

目の前の彼のまぶたが、ゆっくりと動いた。

「湊さん!」

思わず叫んでしまった。

声が震えていた。

涙が一気にこみ上げてきて、視界が滲む。

彼の目がゆっくりと開き、ぼんやりと天井を見つめている。

私の心は複雑だった。

彼が目を覚ましたら、またあの辛い日々が戻ってくる。

怪我までさせてしまったのだから尚更、彼の怒りはきっと以前よりも強くなる。

それでも、彼が生きていてくれたことに、安堵の涙が止まらなかった。

「ここはどこ…?」

彼の声は、少しぼんやりしていた。

目を細めて、周囲を見渡している。

その仕草は、どこか幼くて、いつもの湊さんとは違って見えた。

「寝室です。あれから3日ずっと眠っていたんです」

私は静かに説明した。

声が震えないように、必死に抑えながら。

でも、彼の顔には困惑が浮かんでいた。

眉がわずかに寄り、視線が宙を泳いでいる。

「あれから…?なんのこと?」

その言葉に、私は息を呑んだ。

まさか、あの日のことを覚えていないの?

「え…?」

私は言葉を失った。

頭の中が真っ白になる。

彼の目は、私を見ているのに、何かを探しているようだった。

まるで、私が誰なのかを確かめようとしているような、そんな目。

ただ一部の記憶が抜けているだけなのか、それとも…。

沈黙が流れる。

部屋の空気が、張り詰めたように重くなる。

そして、彼がぽつりと呟いた。

「ところで、どうしてここに天使がいるの?」

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Mga Comments (1)
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柳アトム
天使……! 潮目が変わることはわかっていましたが、まさかこれほどとは!?(期待
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