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第50話

Author: Hayama
last update Last Updated: 2025-12-08 16:57:56

玄関のドアを閉めた瞬間、思わず口をついて出たその言葉。

誰に向けたわけでもない、癖のようなものだった。

でも、今日は違った。

その一言が、空間に吸い込まれる前に、すぐに返ってきた。

「おかえり」

あぁ、そうか。

今は、おかえりって言ってくれる人がいるんだ。

それだけのことなのに、胸の奥がじんわりと温かくなる。

これまで、家に帰っても誰もいないのが当たり前だった。

電気のついていない部屋、静まり返った空気。

ただいまも、おかえりも、どこにもなかった。

たとえ湊さんがそこにいたとしても、あの頃の彼は、そんな言葉をかけてくれるような人じゃなかった気がする。

でも今は違う。

私は確かに、誰かの待つ場所に帰ってきたんだ。

そのことが、どうしようもなく嬉しかった。

「湊さんも、おかえりなさい」

言葉にするまでに、少しだけ時間がかかった。

胸の奥に溜まった熱を、そっと吐き出すように。

靴を脱ぐふりをして、視線を合わせないようにした。

「ただいま。やっぱり家が一番だね」

私は今まで、そんなふうに思ったことなんてなかった。

家は、ただ帰る場所でしかなかった。

安心も、温もりも、そこにはなかった。

むしろ、早く外に出たくて仕方がなかった。

どこにいてもよかった。

湊さんがいない場所なら、どこだって同じだった。

でも湊さんのその言葉を聞いて、私の中にも同じ気持ちが芽生えていた。

「…そうだね」

それは、湊さんがいるから。

この空間に、彼の気配があるから。

この場所が、私にとっての“帰る場所”になっている。

「これだけあれば半年は大丈夫かな」

湊さんがそう言って、両手いっぱいの紙袋を床にそっと下ろした。

その中には、今日ふたりで選んだ服がぎっしり詰まっている。

「半年…?」

これだけあれば10年…

そんな考えが、ふと頭をよぎった。

いや、10年どころじゃない。

このままずっと、もう服なんて買わなくてもいいんじゃないかって。そう思った。

私は、一生分の贈り物を貰った気になっていたのに。

「半年経ったらまた買いに行こうね!今度は夏のお洋服!」

湊さんの声は、まるで未来を信じて疑わない子どものように明るくて、その無邪気さが胸にじんと響いた。

その言葉の中に、私と一緒にいる未来が、当たり前のように含まれている。

明日さえも不確かなのに。

半年後の私たち。

私は、夏になっても、湊さんの隣に立って
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