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私の彼氏はちょっとだけ心配性。:044

last update publish date: 2026-08-18 12:02:08

 壱から心配されて、不快な気持ちにならなかったのは元から彼の性格が心配性だったからかも、と葵依は思った。

 目を開けて、壱を見るも酷く落ち込んだ表情を浮かべていた。この答えは違うらしい。

「葵依を愛しているから、という答えに結び付く」

「あいし!?」

 好きだ、という言葉の他に「愛している」という言葉を伝えられて葵依は瞠目した。自分の気持ちが追い付いていないのに、まさか「愛している」って告白されるなんて……。

「俺を受け入れて欲しい」

 壱は葵依の手に唇を当てたまま、彼女の栗色の双眸を覗く。

「愛してるんだ」

 絹のようにサラサラな前髪から覗く黒い瞳は熱が篭っていて、その瞳を見ているだけ葵依の身体が熱を帯びていく。愛を告白されたから恥ずかしくて熱いのか、手の甲に壱の熱い吐息が当たっているからなのか──……。

「葵依……」

 壱の左

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  • 私の彼氏はちょっとだけ愛がオモい。   070話

    『まぁ、良いや』(良くない。ううん、良かった) 追求されずに済んで良かった。でも小テストは忘れていたから、良くない。ふたつの相反する気持ちが頭の中グルグル回って一人百面相をしてると『葵依はさ』と楓から話しかけられた。『勉強、頑張らなくて良いんだよ』 声は極めて優しくて、温かい調子だ。頑張り過ぎている葵依を気に掛けている──でも、その優しさは葵依の深い所を抉った。「でも、大学に行かなきゃならないから」『自ら苦労してどうするの?』「楓くんは大学に行ってるよ」『だって僕は跡取りだし。葵依は大学とか就職とか考えんなくても良いんだよ。苦労して欲しくないんだ』 楓の言葉は身体を壊してまでバイトをしながら勉強をしている姿を見て心配してくれている。葵依はそれが分からない程の馬鹿じゃない。純粋に心配してくれている──でも、葵依はその優しさが辛かった。 養子に入り、同じ苗字を継いだら良いと彼らは言う。そうすれば何ひとつ苦労をしないで済むんだから、と。日本中どこへ居ても恩恵を受けられる──彼らの存在はそれだけ偉大で、彼らを知らない日本人は居ない。下手すれば、外国人さえも知っている程の名家だ。一昔前なら彼らが道を通れば、人は道の隅に寄って頭を垂れていただろう。そんな彼らの養子になれば、今までの生活と180度変わる。でも、葵依はそれを望んでいない。 遥はその恩恵を受けていたにも関わらず、十八歳で家を出た。茂達から聞いた訳じゃない。遥も葵依には実家の事を自分が病気になるまで何ひとつ教えなかった。ただ、彼らが自分には伏せている事実を、葵依は知っていた。妊娠した事で遥は破門されたのだ──葵依は遥が亡くなる前から実家の事は知らなくても、追い出された理由は知っていた。 (ママが苦労したのに、自分だけ楽をするなんてあり得ない)  ずっとずっと思っている。  私さえ居なければ、無理してまで仕事を何個も掛け持ちしなかっただろう。きっと煙草も吸っていなかった。 あれは、ストレスを軽減させる為に吸っていたのではないだろうかと。

  • 私の彼氏はちょっとだけ愛がオモい。   069話

     挨拶もしてくれるし良い人だったのに? と葵依は唖然としてまじまじと巡査の顔を見つめる。「何をされたんですか?」「守秘義務でお話できないんです」  巡査は「すみません」と後頭部を触って頭を下げた。 デカい男が頭を下げたお陰で、隣人の開いた玄関からスーツ姿の男と制服警官が出入りする姿が目に入る。只事じゃない雰囲気に葵依は緊張して、ゴクリと唾を飲み込んだ。 視線を横に向けると自分より背丈が高い枝葉の隙間から駐車場にパトカーが停まっているのが見えて、余計に現実味を帯びた。「彼の家に出入りする怪しい人物を見かけた事ありませんか?」「ごめんなさい。お隣さんが一人のとこしか見た事ないです……あっ!」 昨晩の出来事を思い出して葵依は大声を出す。そう言えば、隣人が自分の家の玄関のドアを叩いて、尋常じゃない様子だったと巡査に昨夜の出来事を話した。「それは気にかかりますね……その後、どうされたんですか?」 あの後、青山がどうなったか葵依は詳しく知らない。知っているのは壱だ。「どうにかする」と言って部屋を出て行って五分で解決してくれた。ただ、それを言って良いものか葵依は言葉に詰まってしまう。今、自分の家に全く他人の男性が居る事を警察官に知られてはいけないような気がした。ほんの数秒前まで、口では言えない事をしていたので、それを暴露しなきゃいけないような気がしたのだ。「うぁ、っと。その後、私は寝ました」 しどろもどろになって、視線を彷徨わせる葵依の姿はどう見ても『何か知っている』だ。それに気付いているのかいないのか、巡査は「分かりました」と発した。 「昨夜、親御さんは一緒でしたか? もし家にいるならお話を伺いたいのですが」「だ、だめですっ!」 バッと玄関ドアの前で両手を開いて立った。これじゃ何か隠しているようなものである。訝し気に見つめる巡査の前で葵依は変な汗を額に掻いてしまっていた。 「あ、あの、私、ママを亡くして一人暮らしなんです。だから、おうちには誰もいませ

  • 私の彼氏はちょっとだけ愛がオモい。   068話

    「葵依」 葵依の名前を呼んで──壱は彼女の唇に啄むだけのキスをした。ポカンと口を開けた葵依がフルフルと震え出して、「不意打ちはダメ!」と叫ばれてしまう。壱は褒めて欲しかった。このまま葵依の腕を掴んで奥に連れ込んで行為に及ばなかった事を……。我慢した結果が、このキスなのだ。「今日、何度も許可なしでキスも素股もしたのに」「無防備で可愛いな」と葵依の隙を見て今度は右頬にキスをした。葵依がその場所に手を当てながら真っ赤になる。 「あ、うぁあぅ」「……今日、沢山お喋りをしような」 葵依の右耳にそう囁いて、壱はゆっくりと顔を上げる。葵依の目を見つめながら、彼女にふわりと笑いかけた。「行ってらっしゃい」 と言うと、またも葵依は怒ったような照れたような表情から、はにかむように笑って「行ってきます」と言ってくれたのだった。 ♦ 葵依は壱の穏やかな笑みを見ながら、玄関ドアを閉めた。 家を出る時に、誰かが居るって懐かしい。壱の前で昔の記憶が蘇ってつい泣きそうになってしまった。(上手に笑えてたかな) 失態だ。 懐かしい煙草の香りを嗅いでしまって、大好きだったママを思い出してしまった。「でも」と葵依は口の中で呟いた。 壱は自分と同じようにシャワーを浴びたから、煙草の匂いは薄まり代わりに自分と同じ石鹸とリンスインシャンプーの香りがしていた。それなのに、どうして懐かしいと思ってしまったんだろう……どうして、嬉しいと思ってしまったのか。  (ママが亡くなって、寂しすぎちゃってるのかな……) 寂しさはそう簡単に埋まらない。ただそれを必死に誤魔化して生きている。 あまり考えないでおこう、と葵依は長く息を吐く。(それにしても……。壱さんが口を開けて笑う姿って、やっぱり可愛い) 壱を思い浮かべて、

  • 私の彼氏はちょっとだけ愛がオモい。   067話

    「出しましょうか」と立ち上がって台所へ向かおうとする葵依を壱は呼び止めた。家を出なきゃいけない時間だ、と言えばスマホを見て葵依は顔色を変えた。 慌てて玄関へ向かう葵依に、彼女が忘れて行った学生鞄を手に持ってついて行く。靴を履く葵依の背中を柱に背中を預けながら見届けた。「送って行こうか? 裏道を通れば三十分もかからない」  そう提案をすると、靴を履き終えた葵依がクルリと振り向いた。と同時に、鞄を忘れた事を壱が持つそれを見て、自分の手元にない事に気付いたようだ。照れ臭そうにして鞄を受け取った。「葵依の元バイト先の近くに停めてるからそこまで歩かなきゃならないが、車で送るよ。それにまだ腰とか脚の間が痛いだろ」 葵依は腰と脚の間と聞いて、口をすぼめた。これは、照れている。 「いえっ……大丈夫です。自転車で行きます」 断られてしまい、「そうか」と返した。見た目では納得しているフリをしても内心ではショックだ。葵依から頼って貰えるようになるのはだいぶ先になりそうだ、と壱は思った。まだ付き合って二十四時間も経っていないから、慌てなくてもいいだろうけど、葵依とズブズブのラブラブになりたい。そうなる為には身だけではなく心も手に入れなきゃならない。「私、これでも丈夫なんですよ!」 ニコォ、と右腕を上げて力こぶを作って見せてくれた。「触ってどうぞ」と言うので遠慮なく触る──力こぶではなく、二の腕の柔らかいところを。「もぉ! ここじゃないです!」 バッと腕を引っ込められてしまった。目くじら立てて怒る葵依がちっとも恐くなくて、壱は声を出して笑った。 笑った壱の顔を葵依は目を丸くして見つめる。それからプイッと顔を横に向けた。拗ねてしまった葵依を見て、壱は「ごめん」と手を合わせて謝るも……その彼女の口角が緩やかに上がっている。横髪に隠れてしまって、壱は気付かなかった。「──そろそろ行かなきゃ」 と言った葵依に「行ってらっしゃい」と壱は返す。バッと顔を上げた葵依の表情は驚いていた。

  • 私の彼氏はちょっとだけ愛がオモい。   066話

     葵依が狐に抓まれたような顔をした。「激務だからって、彼女に会わないなんてそんな事俺はしないよ。やっと葵依と付き合えたんだから」「ぇっ?」「デートはできないけど、会う事は出来るだろ?」「そ、そぉですね……」 葵依は壱の前で、自分の頬を触ったり髪を触ったりと落ち着かない様子だ。平静を取り戻そうとして、足を崩したり膝を突いたり、横を向いたりと忙しなく動いた末、再び正座に戻った。 「私の勘違い、だったんですね……」  カァー、と葵依の頬が徐々に紅潮する。両手で横髪を掴んで顔を隠す仕草をした。「早とちりしました」 葵依がそう言って、はにかみながら伏し目になった。「じゃあ、テスト前とテスト期間中以外は会えるんですね」 まるで、バイト休みの希望理由みたいな内容じゃないか……。 だが、テスト期間中もバイトをさせられていた葵依に「テスト期間中でも俺と会って」だなんて言い辛いな……。葵依の邪魔はしないと言った手前、自分の我儘のような気がして壱は何も言えずに、黙りこくった──が、すぐに閃いた。 パンっ、と両手を叩く。「テスト期間は可能な限り俺が勉強を見るよ。そうしたら会えるよな?」「迷惑じゃないですか……?」「葵依に対して迷惑だなんて思わない。毎回って訳には行かないだろうけど、出来る限り葵依と一緒に居たいんだ」「もしかして、俺が居ると勉強の邪魔になるか?」と嘆くと、葵依はブンブンと首を横に振った。「じゃあ、決まりだな」 壱がニッと笑う。泣き落としにまんまとやられる葵依を見て、この手をずっと使い続けようと壱は思った。 「決まったついでにもう二つ、話があるんだ」「話……」と葵依の大きな目が不安気に揺れる。良い話ではないと思ったのだろう。葵依が不安がる必要

  • 私の彼氏はちょっとだけ愛がオモい。   065話

     パァッと花が舞う。 壱は「うっ」と唸り声を上げて、思わず胸を押さえる。その笑顔は間近で見ると、危険だ。押し倒したくなる。「今日はひば」「ひば?」 ゴホン、と壱は咳払いをした。 「あーごめん、葵依の笑顔の可愛らしさに心臓をやられて噛んだ。……今日、俺は暇なんだ。仕事が休み」  満面の……力いっぱいの笑顔だ。壱が大好きな葵依の表情で葵依が笑っている。「じゃあ、今日もお喋り出来るんですね!」 飛び上がってもおかしくないくらい、嬉しそうだ。実際、肩が上下に跳ねている。そんなに喜ばれると、壱は何だか照れ臭くなって顔が火照ってくるのを感じた。 さっきまでの葵依の元気のなさが嘘のようだった。もしや、と思う。(俺が帰る、と思って……落ち込んでいたのか……?) 湧き上がってくる想いを堰き止める為、壱はまたも胸を押さえ込んだ。こうでもしないと、葵依が可愛過ぎて、押し倒してしまいそうなのだ。「えっと、十六時に学校が終わるので、それから帰ったら17時半までにはおうちに着きます。晩御飯食べますか?」「食べる!」と叫ぶ。ちょっと……いや、かなり力を込めて言ってしまった。 「今日もお泊りしますか?」(コンドーム用意しとく) 壱は心中でそう返事をして、ただ笑顔で頷いた。 本人はそんなつもりで言ったんじゃない。きっと深い意味はなく訊ねたんだろう。 葵依が嬉しそうなので、水は差さない事にした。「今日は一緒に居られるんですね」 感慨深そうに呟いた葵依の表情を壱は見る。今すぐ、葵依に鏡を見て欲しい、と壱は思った。そんなに切なそうにする理由が分かる筈だ。「今日だけじゃなくて、明日も明後日もそれ以降も会える」「明日も明後日も? お仕事お休みですか?」「いや。あるけど」

  • 私の彼氏はちょっとだけ愛がオモい。   私の彼氏はちょっとだけ心配性。:008

      「……照れ隠し?」  目をパチパチさせる葵依に113番は「あぁ」と短く答えた。 「下田さんのバイトは今日が最後だから声を掛けようと思ったんだ」 「あれ? 名前?」  どうして名前を知ってるんだろ? と首を傾げると 「バイト中、名札を見てたから」  と男は自分の右胸を指した。バイト中はその場所にネームプレートを差すのだ。 「そうなんですね」  納得して頷く。  名前を知られていたなんて、と思うとどうしてか嬉しい気持ちが沸いてきて口元が緩んでしまう。 「俺は壱だ」 「いちさん?」 「あぁ」と113番──金城 壱は頷いた。名前を呼ばれただけで

  • 私の彼氏はちょっとだけ愛がオモい。   私の彼氏はちょっとだけ心配性。:007

     俺は──この子に今まで話しかけた事なんぞ一度もない。  ただ一度だけクレーマーに絡まれている所を助けたが……その後も声をかける事はしなかった。 『昨日は助けてくれてありがとうございました!』  と頭を下げられ。  俺はなんと答えたか。 『あぁ』  だけである。それで会話は終了した。それ以来会話をした事がない。クレーマーの男に掴まれていた右手首はあれから一カ月も経つのに薄らと跡が残っていた。『大丈夫か?』という言葉さえかける事が出来なかった。  それから数日後。コンビニへ行くと、お礼だと言ってプレゼントを渡された時は、飛び回ってその辺を歩く赤の他人にも自慢をしたいくらい嬉しか

  • 私の彼氏はちょっとだけ愛がオモい。   私の彼氏はちょっとだけ心配性。:006

    (本当は続けたかったけど──…)  葵依は特待生だ。常に学年十位以内を保っていて、一度でも十一位に下がると奨学金が打ち切られてしまう。今まではバイトと学校を両立して上位を保てていたが、葵依には将来の夢を叶える為にどうしても進学したい大学があった。その為、今の勉強量では足りないと思い泣く泣くバイトを夏休み前に退職する事にした。幸い、バイトをしたお金は貯金をしているから生活費には困らないし勉強に専念する事が出来る。 「あれ……? 私が煙草の銘柄を間違えて渡したからじゃないんですか?」 「ん?」  男は首を傾げるのを見て、葵依も男と同じ向きに首を傾げた。 「私、113番さんに違

  • 私の彼氏はちょっとだけ愛がオモい。   私の彼氏はちょっとだけ心配性。:005

     113番というのはコンビニで売られているタバコの番号だ。葵依を呼び止めた男は113番の銘柄をいつも買う常連の男で、葵依は彼がいつも買う銘柄の番号で呼んだ。番号で呼ばれた男は目を見開いた後不機嫌そうに口を曲げた事に葵依は気付かない。ぺこりと頭を下げたからだ。頭を上げると、そこには女のような成り立ちの甘い顔があった。 「どうされましたか? もしかして、私……違う煙草を渡しちゃいました?」  葵依の問いが聞こえているのかいないのか……113番は無言のまま葵依を見下ろした。  葵依がバイトを始めた頃、この113番は葵依がレジでクレーマーに絡まれている所を助けている。  それは二年前に遡る。

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