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私の彼氏はちょっとだけ心配性。:008

Penulis: 美木 猫助
last update Tanggal publikasi: 2026-06-14 16:18:49

「……照れ隠し?」

 目をパチパチさせる葵依に113番は「あぁ」と短く答えた。

「下田さんのバイトは今日が最後だから声を掛けようと思ったんだ」

「あれ? 名前?」

 どうして名前を知ってるんだろ? と首を傾げると

「バイト中、名札を見てたから」

 と男は自分の右胸を指した。バイト中はその場所にネームプレートを差すのだ。

「そうなんですね」

 納得して頷く。

 名前を知られていたなんて、と思うとどうしてか嬉しい気持ちが沸いてきて口元が緩んでしまう。

「俺はいちだ」

「いちさん?」

「あぁ」と113番──金城きんじょう 壱は頷いた。名前を呼ばれただけでときめいてしまう。かなり拗らせている自分に壱は心中で自嘲した。

「二度と会えないと思って、声をかけた」

「そうなんですか……」

 壱の言葉に葵依は小さく頷く。

『二度と会えない』……店員とお客様という立場でしか会った事はないから、お外で会う事はないのかぁ……。壱の口からそんな事を言われると思っていなかった葵依の胸にフトした寂しさがギュッと胸を絞ったように痛んで、思わず胸に手を当てる。この感覚は、死期が近い母親に二度と会えないと思う度に感じていた苦しさに少し似ているような気がする。近くで顔を見る事も声を聞く事も、肌の温かさをもう二度と感じる事が出来ない切なさ……。どうして、バイト先の常連さんへそんな感情を抱くんだろう。

(ママと同じ煙草を吸っているからかな)

「下田さんが居たから買っていた」

 葵依はキョトンとして言葉の意味を考えた──私が居たから、ってどういう意味だろう?

 壱を見上げると、今になって距離が近い事に気がついた。自分の胸と壱の腹付近が触れ合っている。胸に当たる腹が硬くて自分との違いが分かり、妙な恥ずかしさが込み上げてきた。慌てて後ろに下がろうとすると、追いかけてくるように下がった分の距離を追いかけてくる。

「意味……分かるか?」

 腰を引き寄せられ──密着する。

 小さな胸が男の厚い腹に潰されて、そこから熱が伝わった。二人の身体の間に手を入れて、壱の胸を押そうとするも力の差があってビクともしない。壱が触れた腰からもジワジワと広がるように熱が広まっていく感覚に陥った。

 怖さを覚えるも──壱の真摯な眼差しと目が合った瞬間、その瞳に吸い込まれるような感覚が葵依を襲う。

 どうして私をこんなにも見つめているんだろう……バイト中は一度も合った事がないのに。

「好きだ」

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